34 エレナの恋路を見守る会
その話題をきっかけに愛は、唯へ体験入部の提案をした。
「ねぇ唯、体験入部してみない?」
「体験?」
「そう。他の部活はやったんでしょー」
「ま、まぁ」
全部ではないのだが、そこでそう言ってしまうと、陽菜も、美羽も、麗華も体験入部してくれと言いかねない。
そんなことを話していたら、うちの学園の生徒が入店してきた。
「あれ、みんな何してんの?」
そこには唯たちのクラスメイトの宇慶操。
そして、2組の冬室礼奈と4組の秋山巡の三人がいた。
「珍しい組み合わせですね」
「いやー、そうでもないよ。中学の時からの仲だし」
麗華が問うと、巡があっさりと答えた。
唯たちと通路を挟んだ席に座る三人。
「どういう集まりなの?」
陽菜が興味津々といった感じで聞いた。
「あちきら三人はねー……」
ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。
「エレナの恋路を見守る会だよー」
「何それ!」
真っ先に食いついたのはティノだ。
「詳しく」
本来なら補導する側であろう教師の鷹宮美咲が、別の場所からグラスと伝票を持って近づいてきた。
そして、「ちょっと詰めて」と言いながら礼奈の横に座った。
「恋愛と言えば、わたしだよね!」
初耳だと言わんばかりにみんな呆気にとられていた。
「いや、前にも何回か見た事あるんだけど、見守り……ゲフンゲフン……」
一人盛り上がる鷹宮先生。
(まさか、本当にうちに入るとは思わなかったのよ。でも、相手は大学生ってのは分からなかったなー。でもまぁ……)
そして、顔を朱くしながら言った。
「顧問はわたしに任せなさい」
「「「ええ!?」」」
まさか、『エレナの恋路を見守る会』に顧問がつくなど誰が想像できようか。
「大丈夫よ、予算も引っ張ってくるから」
その活動に予算が必要なのかは不明だ。
しかし、ノリだけでここまできたのだ。どんな活動をするのかは知らない。
「で、どんな活動するのー?」
美羽が興味津々に聞いた。
「それは勿論、エレナの恋するうちのお兄ちゃんである亨と結ばれるのを見守るんだよ」
「え、操のお兄さんと? どういうこと?」
「話せば長いし複雑なんだけど、いい感じなのに、未だに付き合ってないっていうね。だから二人がくっついて告白するまでを見守るんだよ」
操がしみじみとした顔で言う。
「へ、へー」
「しかも亨さん、女装が完璧。エレナのお弁当の面倒からメイクの指南までしてる」
礼奈がしれっと爆弾を設置した。
「え、一緒に住んでるの?」
「まぁ、それも話すと長いんだけどね」
「つまり、その会に入らないと詳細はお預けってことね」
しれっと入部届を取り出す鷹宮先生。
「一応、籍は置いておきましょうか」
「そうね。ところで、今どのくらいいるの?」
「今、学校内には十人くらい?」
「あ、結構いるのね」
「部長って誰がやってるの?」
「うちは『会』だから会長だね。三人とも会長で、三人の会長で三合会がダメって言われたから三頭会って名称でやってるよ」
巡がよくわからないことを言った。
「なんで、会長が三人いるのよ」
「じゃあ、わたしは名誉顧問ってことで」
しれっと鷹宮先生がそんなことを宣言した。
そんな様子を見守るように見ていた唯はふと思ったことを聞いた。
「操はゲーム研究会に入ってるの?」
「入ってるよー。巡と一緒にね」
あっさりと言ったものだから、他のみんなはそれ以上聞けなかった。
巡が愛の方を見る。
「巡と操はあーくしと一緒のゲーム研究会。面白いよー」
ここぞとばかりに唯を勧誘する愛。
「そうそう。学校で堂々とゲームできるとか最高じゃん」「それな」
操と巡が、指を指しながら言った。
「礼奈は?」
美羽が言うと、ニマニマしながら言った。
「エレナと同じおかーさん部だよ」
「え、エレナ、おかーさん部なの?」
巡が初めて知ったといったような顔をした。
「そうよ。料理を覚えるんだって。そんな様子を間近で確認できるあーくしは最高な訳で」
恍惚の表情でデレデレし始めた。
そんな様子を見て、唯は改めて思った。
みんなやりたいことや目標を見つけているんだな、と。
隣に座る愛が期待に満ちた目で見てきたので、一度体験入部してみるのもいいかもしれないと思った。
きっと、新しい何かが見つかるかもしれない。
それに、毎朝追いかけてきていた集団が、早矢の方へ行ったかと思えば、早矢が部活に正式に入ったので、例の集団が再び戻ってきてしまったのだ。
名義貸しや仮入部だけでは彼ら彼女らを納得させられないだろう。
だんだんと蒸し暑くなってきたこの時期に毎朝走るのは、正直しんどかった。
ほんのり汗をかいた服で授業を受けるのは避けたかった。
さすがに、『エレナの恋路を見守る会』は、部活扱いされないだろうと唯は思ったが、みんな入部届を書いてるのを見て、一番勢力が大きいのではないかと苦笑しながら見ていた。
愛が紙とペンを渡してきたので、一応名前を書いておいた。
本人のあずかり知らぬところで、こんな大きな組織が動いているなど、エレナは知らないんだろうなと思ってしまった。
「ねえ愛」
「なあに?」
「体験入部って明日から可能な感じ?」
「うん。大丈夫だよ。唯ならきっと即戦力だよー」
唯の手を取って、嬉しそうに微笑む愛。
そんな様子を先を越されたと、順番待ちだと、陽菜、美羽、麗華は黙って見ていたのだった。




