30 いろいろ試してみよう
星羅は園芸部に。
寧々はおかーさん部という部活に入った。
別に入らなくてもいいのだが、早矢と静は少し焦っていた。
「静さんは何か部活、考えてますか?」
早矢は静の意見を聞こうと部屋を訪れた。
相変わらず部屋の中はどうぶつ王国になっていた。
前より整然としているが、数が増えているようにも思えた。
「そうですね……」
早矢が座る場所を作る。といっても、座布団の上を陣取っていた猫のぬいぐるみをどかしただけなのだが。
その場所に座ると、テーブルの上にあった本を見た。
「これは?」
「ああ、これは愛花さんが描いている同人誌、というものですね。中々趣深いです」
「へぇ。読んでも?」
「いいですよ。どうぞ」
その薄い本を読んで、早矢は赤面した。
「こ、これは……なかなか……」
「ええ。まずは、こことここの描写が弱いですね。ここは表現方法はいいのですが、少し技術が追いついてないのが残念で──」
「ん?」
「はい?」
まさか編集者目線で見ていたとは思わなかった早矢。
「もしかして、こういうことしようと考えてます?」
「一つの可能性として、ですね。ただ、他にもやりたいことがありまして」
静がどかした猫のぬいぐるみのお腹をプニプニと押していた。
早矢もそれが気になってしまったが、まずは静のやりたいことだ。
それに自分もいろいろ気になることがある。
「そういえば、唯さんはいまのところ、衣装部と裁縫部に名前だけ置いてる状態なんですかね」
「そのようですね」
唯は、星羅主催のガーデンパーティの後、ちょくちょくと参加していた。
一応仮入部の形ではあるのだが、いつの間にか部長代理扱いになっている。
今も別の衣装を作っており、まだ帰ってきていない。
「光司さんもずっと残業ですね」
「ええ。代わってあげられるなら代わって、すぐにでも終わらせてあげたいですね」
早矢も静もそれをできる立場にいるが、敢えてやらないのだ。
それをしてしまえば、以前のようになってしまう。
もっとも、光司がそういうことはしないし、お願いはしないと分かってはいるのだが、少しでも光司の負担を減らしたいとも思っていた。
それに光司は早矢たちに、自分のしたいことを見つけてほしいと願っている。
恋愛していたはずが、気がつけば父親のようになっていることに戸惑いはあったが、それが解決しない限りは次のステージへ行けないとも思っていた。
だから、安心させるためにも自分のやりたいことを見つけるのだ。
間違ってもいい。間違ったら直せるし、いくらでもやり直せる。
「…………」
そう思って、早矢は顔を上げた。
「いろいろ試してみませんか?」
「ええ。わたくしもそれを思ってました」
二人は顔を見合わせ、一度頷いた。
*
学園内は騒然となった。
だだっ広い広場に三つの的が壁側に置かれていた。
そして、そこから離れた位置に通路のようなものが作られていた。
作られていたといっても白線を引いただけなのだが。
そして、校舎側ではたくさんの生徒が見物していた。
そして、静、早矢の順で馬に乗って弓を引いていった。
そう流鏑馬である。
まさか、学園でいきなり流鏑馬をやるなどと誰が思うであろうか。
「理事長の許可は取ってあります」
誰に言うでもなく静が言う。
理事長の家で飼っているお馬さんを借りた。
流鏑馬が終わると、静と早矢はお馬さんとじゃれあっていた。
「ぶるるるるるるるる」
「ぶるるるるるるるー」
「ぶるるるるるるるる」
「いい子いい子ですねー」
静は鼻と鼻を当てたりしており、早矢は撫でていた。
「うちの衣装部っていろんなもの持ってたけど、まさか流鏑馬用の衣装まで持ってるとは思わなかったよ」
唯が苦笑いしながらそんなことを言っていた。
弓や的の用意は弓道部が手伝ってくれた。
ちなみにお馬さんに関しては、校長と教頭が、理事長の家から乗ってきたらしい。
しかし二人はどうもしっくりこなかったらしい。
弓道部は期待のエースが二人入ると思っていただけにがっくりしていた。
その後も二人は、剣道をしたり柔道をしたりと、いろんな部活をやったのだが、どれもハマらなかった。
絵も描いたし、花も活けた。楽器も弾いたし、ヨガもやった。
どれか一つに絞るということが難しいと判断した。
「難しいですね」
「ええ」
そこで二人は寧々の方法をとることにした。
一つに決められないのならば、合わせてしまえばいい。
そのために、しばし奔走した。
多くの部活が零細状態であり、来年度には廃部か休部になるところが多かった。
もちろん全部が全部ではない。
それに、静と早矢のように、他にも気になる生徒もいた。
一方で反対する生徒もいたが、静と早矢それぞれのアプローチにより段々と進んでいった。
二人はその瞬間が一番楽しかったらしく、とてもイキイキしていた。
そして、二人は今、生徒会室の前にいた。
「よろしいですか? 早矢さん」
「ええ。静さん」
二人は扉に手をかけた。




