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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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29 条件は二つです


 週明け、学内は騒然となった。

 それもその筈。1学年一の男の子である花咲薫が、女子の制服を着てきたのだ。


 今まで、何があってもその一線は超えなかった薫が、女子の制服を着てきたのだ。

 男子勢は『ついに……』と呟いて、悠真を見た。


 「何で僕を見た?」

 「いやぁ、別にぃ……」「ああ。深い意味はないよ」「そうそう。次は悠真の番だって思ってないから」「バカお前……」


 そんな感じで盛り上がっていたが、女子勢は別だった。


 「おめでとう」「やっぱり薫きゅんはこっちだよね」「うん。似合ってる」「ちゃんと正しい方着てきたね」「下着もチェックした方がよくない?」「体育はどうすんの?」

 など、肯定的に捉えていた。


 そしてそんな様子を唯たち五人は驚きながら見ていた。

 告白自体は分かる。付き合うのも分かる。だが、薫が女子の制服を着てきた理由は分からない。


 他のクラスメイトはみながみな、正しくなったと思っている。

 それは分かる。だが、どうしてこのタイミングなのかが分からなかった。

 であれば、聞けばいい。


 放課後、琹織が部長を務める華道部へ足を運んだ。

 休部になりかけていた華道部を立て直した琹織。

 同時に志乃と紡希も入った。だが、まだ三人である。


 華道部なのに、なぜかお茶とお菓子を出された。

 それも高山茶とパイナップルケーキだった。

 「これは……」

 静が戸惑いながら聞いた。


 「ああ、それはうちの部員の宇晴(ユーチェン)が持ってきたものですね」

 「どもども、黄宇晴ですー」

 どこか操や燈のような明るい、ちょこちょこ動き回る小動物のような雰囲気を感じた。


 「やはり、ここはちゃんと煎茶か抹茶が良かったのでは?」

 栗色の髪をしたヨーロッパ風の美人がそんなことを言った。

 それだけなら普通だが、着物をバッチリ着こなしていた。


 「申し遅れました。わたくし、東雲・フルール・ロクサーヌと申します。クオーターですね」

 所作は完璧で、下手な日本人よりも日本人らしかった。


 「本当なら茶道や日本舞踊なんかもやりたかったのですが、休部や廃部になってまして」

 「そ、そうなんですね」

 早矢が気圧されながら答えた。


 そして、出されたお茶とお菓子を味わい、落ち着いたところで、琹織に聞いた。

 「どうして、薫きゅんが女子の格好をしているんですか?」

 静がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに、琹織の表情が喜びを映した。


 「実はですね、薫。あたくしの中ではずーっと薫きゅんと呼んでいたのですが、あの通りどこからどう見ても女の子ですよね」

 華道部の部室にいた全員が頷いた。


 「それで、思ったんですよね。薫きゅんは女の子の格好をした方がいい。絶対に似合うと。あれほど男の子の服が似合わない男の子もそうそういませんよ」

 「分かる」「え、ええ」「そうね」「その通りだと思います」「あはは……」

 それぞれが同意した。


 「それで、ずーっと告白されるのを待っていたんです」

 「? 琹織さんから告白すれば良かったのでは?」

 寧々が不思議に思って尋ねた。


 「それではダメなのです。向こうから告白してくれれば、条件付きで了承ができるじゃないですか」

 それを聞いて、この人も結構拗らせているなと五人は思ったのだった。


 「それで、条件を出したら、あっさり了承してくれましてね。未だに夢を見ているんじゃないかと疑ってます」

 「なので、ハリセンで昨日叩きました」

 志乃が淡々とそんなことを言った。


 「ちなみに条件って何?」

 「あ、それあーしも気になる」

 「ですよね。気になりますよね」

 琹織の尋常ではない雰囲気に、五人は圧倒された。吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えた。


 「あたくしから出した条件は二つ。女の子の格好をすること。そして、あたくしの所属する華道部に入ってもらうこと」

 「なるほどー」「なるほどです」「なるほどね」「なるほど」「なるほどですよ」

 五人とも、腑に落ちたように頷いた。


 「本場の男の娘ってすごいよね」

 宇晴が満面の笑みでそう言った。

 「わたくしもそう思います」

 ロクサーヌもそう頷いたのだった。


 謎は解けたが、もう一つ疑問が増えた。

 それを星羅が聞いた。

 「見たところ、五人いるから、別に薫きゅんを入部させなくてもいいんじゃないの?」

 「放課後も一緒にいたいからに決まってるじゃないですか」

 「なるほどね」

 間髪入れずに言われて、素直に頷いてしまった。


 そして華道部の部室を後にした五人は思った。

 この学園、まともなのは自分たちだけなのではないかと。


 「なんか疲れたね」

 「ええ。どっと疲れました」

 「今日は部活、顔出すだけにするわ」

 「あたしも、夕飯は簡単なものにします」

 「華道部、意外と多様性がありますね」

 「確かに」

 呆れ混じりに笑いながら、歩いていく。

 そして、早矢だけが一瞬振り返ったのだった。


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