28 成功率100%
翌日の放課後──
朝、机の中に入っていたラブレターを読んだ琹織。
それを見て、うっとりと目を細めた。
頬の色は変わらない。それは起こるべくして起こるものだと思っていたからだった。
しかし、意外と早く告白してくるのだなと、琹織は思った。
幼稚園時代からの仲である琹織と薫。
どちらからともなく友達となり、互いに遊ぶこともしばしば。
大きくなるにつれ頻度は減ったが、それでも想いは強くなるばかりだった。
でも、琹織から告白しないのには理由があった。
それは彼女個人の趣味と、現在入っている部活の問題でもあった。
少し優柔不断な薫が自分に告白するのには、まだまだ時間がかかると思った。
そのラブレターを胸に押さえ、大事そうにする。
そして目を閉じ深呼吸する。
約束の時間までが、すごく長く感じられた。
それこそ、今まで待った時間よりも長く。
放課後、フラワーガーデン──
花畑の中央に花咲薫はいた。
そこは周りの花畑が円形に広がっている。どこから見ても色とりどりの花が咲き乱れ祝福しているようにも見えた。
そして、星羅の設計により、少し角度があるため、そこから周りは見えにくい。
つまり、内側にいるとその空間独特の雰囲気に飲まれるのだ。
今か今かと不安そうに待つ薫。
そんな薫を見守ろうと、1年の生徒がほとんど、周りの植木や木に隠れて見守っていた。
2年や3年の生徒もちらほらおり、生徒会や教師まで見守っていた。
それだけ一大イベントであった。
薫の心臓の音がそこまで聞こえてきそうな程だ。
「ねぇ、なんでこんなに人が多いの?」
星羅が呟いた。
「ホントですねぇ。一体どこから漏れたのでしょうか」
「わたくしではありませんよ」
「うちもそんな無粋なことはしません」
「あ、あーしでもないよ」
唯、寧々、星羅、静、早矢の周りにはクラスメイトや教師が肩がぶつかる距離で見守っている。
「あー、楽しみぃ」
唯の横でそう言うのは4組の担任。鷹宮美咲。
この学園で一番恋愛にうるさい人物である。
人の恋路を見守るのが大好きで教師をやっているようなものである。
「ちょっと鷹宮先生、そんなに声を出したらバレますよ」
「そんなに大きくないでしょ?」
鷹宮先生を軽く注意したのは、3組の副担任の塩江舞香。
こういったお祭り騒ぎが大好きであり、3組がお祭り好きなのはこの人物の影響が大きい。
「ほらほら、もうすぐ来るわよ」
「いいんですかね、こんなことして」
夜のドラマは欠かさない。トレンディドラマ大好きなのは2組の副担任の朝比奈節子。3組に娘が通っている。
そして、良心の呵責に軽く苛まれているのは、2組の担任である篠宮玲子。星羅がよく言う玲子ちゃん先生その人である。
そして、唯の反対側。星羅の横には、3組の担任である神崎修司がいた。
玲子ちゃん先生の方を逆上せたような顔で見ていた。
「神崎先生も気になるんですね」
「え? あ、ああ、そうですね。せっかくうちの園芸部で作ったので、まさかこんな使われ方するとは思わなくて」
「そうですか」
神崎先生と話すのは、1年の情報担当の橘智也。
玲子ちゃん先生を見ていると勘違いしている神崎先生は気が気ではない。
「楽しみですね」
「まったくじゃ」
「学園といえば恋愛だよな」
その横では1組の副担任であり小鳥遊美月。
間にはおじいちゃん先生と言われている雲類鷲瞬一が。
そして一番端っこには1組の担任、大神いのりがワクワクしながら待っていた。
その他の場所でも生徒に混じって教師も混ざっていた。
みんな恋愛がなんだかんだ大好きなのである。
そんな感じで熱気混じりに待機していると、校舎の方から、『しゃなりしゃなり』と音がするように歩いてくる三人の人物がいた。
先頭を百合草琹織が歩き、その後ろを従者の篁志乃と杠紡希が歩いていた。
ある一定の距離に近づくと、志乃と紡希は示し合わせたように横にはける。
そして、他の観衆同様、告白シーンを楽しみに待つ。
「お待たせしました」
にっこりと笑う琹織。
いかにも良家の大和撫子といった見た目の琹織。
それもそのはず。家は華道の家元であり、比較的新しい流派であるのだが、そのスタイルから国内外で高い評価を得ている。
「きょ、きょきょきょ、今日はおひがらもよく……」
早速噛んだ薫に全員がため息を吐いた。
「ふふ。そんな緊張しなくてもいいですよ」
「あ、はい」
そして、しばらく見つめ合う二人。
甘い雰囲気が最高潮に達する前に薫が一歩前へ出た。
「ぼ、ボクと付き合ってください」
「はい喜んで」
ほぼ反射的に返事をした琹織。
『ただし、条件付きで』という部分だけは薫にしか聞こえなかった。
そしてその条件を聞いてもなお、『お願いします』と言い切ったのだった。
そして、二人が触れ合うか触れ合わないかの距離に近づくと、告白成功したのだと誰の目にも明らかだった。
誰が言い出したか分からないが、各所から散発的に『おめでとー』と声が聞こえると、某アニメの最終回のように、全員が立ち上がり『おめでとう』『おめでとー』と拍手しながら祝福したのだった。
薫は当然驚き、口をパクパクさせながら固まっていた。
そんな薫を琹織は背中を支えて、手を振って返したのだった。
そして、それを見ていた星羅は神崎先生を。
唯は篠宮先生を前へと押し出した。
「次は修司の番でしょ」
「玲子ちゃん先生に言いたいことあるんでしょ」
「ちょ!」「えっ!」
そんな様子を見て、観衆は更に盛り上がった。
そして、二人が困った顔をしながら見つめ合うと、「ダメー!」と塩江先生が前に出てきた。
「な、なんだよお前」
「ダメったらダメなの」
「みたいですけど……」
「ちょ、……お前俺の嫌がることしかしないじゃん」
「や、それでも……」
「…………」
そこでまさかの三角関係が発覚し、当然その場の興奮は最高潮に達した。
告白が成功したはずの薫と琹織を差し置いて。
そんな様子を見ていた恋愛大好き朝比奈先生と鷹宮先生は鼻血を出して昇天していた。
そして、その場所が本当に告白の聖地になるのには、まだ少し時間を要するのだった。




