20 園芸部に入りなさい
森を出て、当初作業する予定だった場所へ戻ってきた。
そして、常に持っているのだろうか、蘭子が作業着のファスナーを開けると、そこから入部届を取り出した。
それは、なぜか二つ折りであったが、それ以外の折り皺などは無かった。
「どうぞ」
どこから出したのか、神崎先生がテーブルまで用意していた。
「普段あんなに腰痛い痛い言ってるのに、用意周到ね」
「まぁな」
そして、それを前にしていまだ渋る莉奈と伊里愛。
「いや、まだ入るとは……」
「そうそう。わたしたちはあそこで農業ができれば」
「農業を舐めないでいただきたい」
二人の頭をがっしりと掴む菊乃。本当に握力だけで二人を押さえ込めそうだ。
二回同じことを言ったということは、相当思うところがあるのだろう。
「それに、あの場所は農業に向いてませんよ」
「そうだな。あそこは日当たりが悪くてな。日中は三、四時間出てるかどうかだし」
「地中の水分も多いのに、やたらと水をあげていたし」
「肥料の選択も間違えていたわね」
「土も改良していないので、まともに育ちませんよ」
星羅、神崎先生、蘭子、菊乃からダメな箇所を集中砲火された。
「まぁ、ほらうちは園芸部だし、野菜だって育てるのは可能よ。ねぇ修司」
「ああ。今は使ってないビニールハウスあるからな。少し手直しすればすぐに使えるぞ」
ぱあっと顔を上げて、明るい表情になる二人。
「そもそもなんで、あそこで野菜を育てようと思ったのよ」
本来であれば、一番最初に聞くべき質問だった。
アグリモンスター菊乃が一人で怒り狂っていたために聞きそびれたのだ。
「「それは……」」
同時に口を開いて、顔を見合わせた。そして、互いに譲り合っていると、菊乃がテーブルをバンッと叩いたので、先に莉奈から答えた。
「わ、わたしは、その……とあるラノベが好きで……」
どうしてそれが野菜を育てることになるのだろうかと星羅、神崎先生、蘭子は首を傾げた。
なんでも、その好きなラノベに登場する主人公が好きで、そのキャラと自分の名前が似ていることに気づいたので、その主人公同様に学園で野菜を育てようとしたらしい。
「そんな理由で?」
「そうよ。あ、うちの志依莉も名前が似てたから、メイド服を学園でも着せてるの」
「放課後だけです。あと、畑の手伝いは一切しないという条件で着てます」
どこかドヤ顔に見えた。
「じゃああなたは?」
星羅が問うと、伊里愛もおずおずと答えた。
「わ、わたしも同じで……、似てるなーって思ったの。あと、うちマンションだから出来なくて」
どこかで聞いた理由と似ているなと星羅は思った。
「あ、うちも、お父様が土いじり許してくれないのよ」
それを聞いて、ますます笑みを深めた星羅。
「じゃあ、なおのこと園芸部に入りなさいよ。そうすれば、こそこそやる必要もないし、堂々とできるわ。それに野菜だけでなく果物なんかもいいかもね。ハーブ育ててるんだもの。それに──」
そこで星羅は一度言葉を切って、菊乃と志依莉も見た。
「わたしやりたいことがあるの。それを手伝ってほしいのよ。どうしても蘭子先輩と二人じゃ間に合わなくて」
それを聞いて、菊乃は二つ返事で了承した。
「いいですよ。わたくしの力が役に立つのなら」
そして、莉奈も了承した。
「わたしもやるわ。志依莉もじゃんじゃん使って」
「待ってください。わたしはやるとは言ってませんよ」
「いいじゃない。家でサボテンに話しかけてるの知ってるのよ。見かけによらずかわいいわよね」
「そんな脅しに乗るとでも?」
「毎回枯らして泣いてるの知ってるのよ」
「入ります。入らせてください」
それまで必死に無表情を貫いていた志依莉が泣きそうな顔で頭を下げた。
「アンタは?」
菊乃が伊里愛に聞いた。
「入るわ。まさか菊乃がこんなに怖いなんて知らなかったわ」
「大丈夫よ。怖いのはこれから思い知ることになるんだからね」
「ひえっ!」
「あー、大丈夫よ。ミスなんて誰でもあるもの。それを糧にして次に活かせればいいのよ」
「「…………」」
菊乃と伊里愛が黙って星羅を見る。
「何かあったら、わたしがちゃんと守ってあげるわよ。だから気にせずガンガンやりなさいな。わたしが華麗で綺麗に飾ってあげる」
「わたし、今やっとわかったわ」
「わたくしもよ」
「な、何?」
星羅が思わぬ反応に後ずさる。
「わたし、星羅様ファンクラブに入るわ」
「わたくしも」
「待って、『星羅様ファンクラブ』ってなに?」
しかし、それには誰も答えず、莉奈、志依莉、伊里愛、菊乃は黙って入部届を書いた。
そしてそれを受け取った蘭子は、先ほどのやりとりなど無かったかのように、ニッコリ頷くとそれを受け取り、神崎先生に渡した。
神崎先生もその場で署名して、四人の入部を了承した。
そして、明日以降に作業を開始するという話になって、その日は解散になった。
「ねぇ、誰か教えてよ」
その言葉に答えるものは誰もいなかった。




