19 農業を舐めています
奥へ進むと、自生している花が所々に咲いていた。
ノカンゾウやシランが咲いており、奥に行くと、ヤグルマギクが群生していた。
「へぇ、奥にも結構いろんなの生えてるのね」
「あだすも知らなかっただす」
「こんなに生えてたかなぁ……」
「これ、少し整えたらいいんじゃないかしら」
「まぁ、やるにしても人手がな。でも、いいと思うぞ」
「うっし」
両拳を振って喜ぶ星羅。
そうして、奥へ行くと意外な光景が広がっていた。
そこはほんの少しだけ開けた場所で、そこには拙い畑があった。
「はたけ……?」
蘭子が呟く。
「こんなところでも何か育てるの?」
「いや、わざわざこんなところに来ないぞ」
星羅が問うと、神崎先生は顎を摩りながら呻いた。
「それにしても下手ね」
「下手ですね」
「下手くそだなぁ」
基本がなっていないのか、枝は細く、葉っぱは無駄に大きかったり無かったり。なんなら枯れ始めているものもある。
実がなっていても小さく皮がやたらと固そうだった。
その時、声がしたので慌てて隠れた。
うまいこと腰の高さほどの植木があった。
隠れてしばらくすると、畑の主がやってきた。
「さー、今日もやるわよー」
「よくバレませんね」
「そりゃあこんな奥だもん。わざわざ来ないわよ」
「バレたら怒られますよ」
「その時は一緒に怒られてよね」
「いや、逃げますよ」
「なんでよ。共犯でしょ」
「わたしは何もしておりません」
派手なジャージを着ているのは加藤莉奈。2組の生徒であり、加藤コンツェルンのご令嬢である。
家では土いじりをさせてもらえないため、勝手に学校の敷地で畑を作っているのである。
対する、冷ややかな目線で突っ立っているだけなのは、彼女の従者である安生志依莉。
同じく2組の生徒なのに、汚れ一つない綺麗なメイド服を着ている。
後ろで腕を組んで暇そうに見ている。
なんなら、主人そっちのけで、スマホをいじっている。
「ほらほら見てよこれ。実がなってるでしょ。でも小さいままなのよねえ。どうすれば大きくなるのかしら」
「そうですね」
志依莉はスマホから目を離さずに言った。
莉奈が一人で駆けずり回りながら畑仕事をしている様子を三人はしばらく黙って見ていたが、ついに口を開いてしまった。
「(あれにあの肥料はダメよ。カリウムが多いもの)」
「(あっちは逆にリンが多すぎます)」
「(そんなことよりも、水をあげすぎだ。根腐りしてる)」
「(あぁ見ていてイライラする)」
そのどれもが間違っていた。
素人でももっと上手に育てられるはず。それがご覧の有様だった。
ここから立て直すには相当な腕と経験が必要だろう。
だが、楽しそうにはやっている。ちゃんと教えればかなりの戦力になるくらいには。
声をかけようと立ち上がりかけたとき、後ろからも声が聞こえてきた。
三人は振り返り、木の隙間から覗くと、そこには先ほどより酷い畑があった。
そして、二人の女性がいた。
「ちょっと、これは酷すぎるわよ」
「そ、そう?」
「そうよ。こんなクソみたいな育て方許せないわ!」
憤っていたのは矢車・ハベルニツァ・菊乃。
実家では江戸東京野菜を育てているだけあって、あまりの惨状に怒りを隠そうともしなかった。
ギリギリのラインで理性が働いており、必死に胸倉を掴むのを抑えていた。
なんでも、学園で野菜を育てていると、同じクラスメイトの片野伊里愛から言われて見にきたのだったが、まさかこんなに酷い畑を見せられるとは思わなかったようだ。
野菜の苗はほとんどが枯れかけている。
「で、でもたまたま天気悪かっただけで、これから戻るか──」
「もう無理よ。なんでこうなるまで放置したし」
三人はゆっくり頷いた。確かに酷いと。さっきの畑の方が素晴らしく見えるくらいに。
そして、異臭の原因はここだったようだ。
どうも苗が枯れていることと、抜いた雑草の放置などいろんな要因が重なったようだ。
尚も菊乃の怒りは収まらない。
同じ志を持つ者がいると思ったら、まさか助走をつけて飛び蹴りされるとは思わなかったのだ。
声をかけようかと思ったら、後ろから声がかけられた。
どうやら菊乃と伊里愛の声が予想以上に大きかったらしい。
「そこで何してるの?」
「それはこっちのセリフよ」
莉奈が問うと、そう星羅が言ったのだった。
そして今、星羅の前には土の上で正座をしてしょんぼりしている莉奈と伊里愛がいた。
星羅がそうさせたわけではない。むしろ星羅は止めた側だ。
では、誰がそうさせたのか。
「あなたたちは農業を舐めています」
仁王立ちで怒りを隠そうともしないのは菊乃だ。
両方の畑の惨状を見て怒り狂っていた。
その様子に神崎先生と蘭子は、止めることもできず、後ろでただただ黙ってみていることしかできなかった。
ちなみに莉奈の従者の志依莉はこっち側にいる。
主人を止められなかったくせに、堂々と両腰に手を当てて不満を露わにしている。
「あなたたちねぇ、あれじゃあ野菜がかわいそうよ」
神崎先生、星羅、蘭子が頷く。
「どうしてあんなになるまで放っておいたの」
菊乃が膝を踏みそうな勢いで前に出た。
一瞬たじろんで、莉奈から口を開いた。
「わ、わたしはうまくいってると思ってたのよ」
「わ、わたしもこれからだと思ったの」
それを聞いて、両手で顔を覆って上を向いた菊乃は、声にならない声で呻いた。
「とりあえずさあ、そんなに土いじりしたかったら園芸部に入りなさいよ。ね?」
星羅が菊乃の背中をさすりながらそんなことを言った。




