18 森の奥には何がある
そんな感じで、作業を始めようとした瞬間、森の方から異臭がした。
なんとも形容し難い、葉っぱが枯れて腐ったような匂いだ。
森からなので、自然とそうなっていてもおかしくないが、これから花壇を作るのに、そういった要因があるのは好ましくない。
星羅は森の方へと、躊躇いなく進んで行った。
「あっ!?」「ちょっ!!」
そして、そんな動きを予測出来なかったのか、大慌てで止めようとする二人。
「な、ど、どうしたんだすか」
「そ、そうだ。花壇作るんだろ?」
「臭いの。原因がなんだか確認して対処しないと、折角作っても台無しよ」
「そ、それはそうだすが……」「ま、待て……」
神崎先生の制止を聞かずに、森の中へと入った。
木々に覆われた先へ進むと、そこには畑があった。
「なんで畑?」
「ああ……」「あちゃー」
「これ、二人が作ってるの?」
振り返ると、素早く横を向いた二人。
分かりやすい反応だが、なぜ隠す必要があったのかは、分からない。
園芸部なのだから、堂々と育てればいいのだ。
しかし、星羅は思う。
そこに植えられているのはハーブらしいが、どれも星羅の知らない植物だった。
珍しい色の葉っぱをしていたり、変な葉っぱの付け方をしているものもある。
中には光を放っているものさえある。
もしかして、と星羅は思う。
それを聞いていいのか、躊躇われたが、もし、そうなら大問題である。
もし違法な植物なら、学園存続にも関わる問題だ。
星羅は、意を決して聞いた。
「これは、違法な植物なの?」
そう言うと、二人とも一斉に両手をブンブン振って否定した。
「違う! 麻薬とかじゃないんだ」
「そうそう。ただのハーブだす」
「じゃあ、なんでこんな隠れてコソコソ育ててるのよ」
そう言うと、観念したのか、神崎先生が落ち着いた声音で話した。
「それは生育場所を選ぶんだ。この辺じゃここしか無理だな。あ、理事長には許可も取ってある。で、これは研究の為に育ててるんだ。あと、うちのマンションのベランダじゃ狭くてな」
どうも歯切れが悪い言い方だが、話を聞けば、それは日本で初めて栽培する植物らしい。
神崎先生は、異世界の植物だと冗談を言っていたが、海外の希少なハーブで、いろんな効能があるらしい。
森に囲まれた場所で、日の光が数時間程度。逆に夜の間、長く光が差し込む場所でないとダメだとか、いろんな条件を言われた。
そんな希少な植物なのに、蘭子のお店では取り扱っているらしい。
なんでも、自称魔女のおばあちゃんから託されたらしい。
二人とも冗談混じりに言って、真剣に話す気はないんだと、少し落胆したが、別の興味も出てきた。
「ねぇ、これわたしも育てるの手伝うわ」
「え?」「へ?」
「園芸部でしょ? ダメなの?」
「いや、助かるよ。星羅は育て方が丁寧だしな」
「ふふん。そうでしょ? ちなみに……これらはどんな効能があるのよ」
「あ、ああ。これは夜光草と言って、安眠効果があり、同時に好きな人の夢が見れる」
「へー。修司ったらロマンチストなのね」
一瞬真顔になる神崎先生。
「どうしたの?」
「あ、いや……。で、こっちが月光花。どんな病気も治すことができる」
「へー」
「信じてないだろ」
「うん。でもそれが本当か研究してるんでしょ?」
またも、目を大きく見開いて、パチパチとしばたいた。
「あ、ああ。まぁ、効果はあるんだが、良くてな」
「ふーん」
そうして説明を受けていくと、どれもファンタジーな答えが返ってきた。
しかし、星羅は否定せずに聞いた。
最初は隠していることに落胆したが、イタズラされたりしないように、仕方なくここで育てているんだということを。
その難しさゆえに何度も失敗しながら、歴代の園芸部員が引き継いできたこと。
そう。これからは園芸部員として、携われることに星羅は歓喜した。
そして、星羅はふと空を見上げた。
世の中は広いなと。まだまだ知らないことがたくさんあった。
ネットでは知ることのできない情報が、こんなところにあるのだと。
そういうことをもっと知りたくなったのだった。
「ちなみにここだけ?」
「ああ。ここだけだな。他は植えても枯れちゃうんだ。ハウス栽培もダメで、どうも土や空気とかも関係してるらしくてな。忙しくて、そこまで手が回らないんだ」
「そうなの」
俄然やる気が出てきた星羅。
その謎も解き明かしたいと、決めたのだった。
しかし、それを聞いたのはそれだけではない。
気になった匂いの元はここではないからだ。
そこに植えられたハーブはどれもいい匂いがした。
しかし、匂いの元はもっと奥から漂ってきていたのだった。
「あの変な匂いはここじゃないのね。修司、この奥って何があるの?」
「この奥……? さぁ。木しかないんじゃないかな。なぁ?」
「わだすも知らないですね」
二人も入らない森の奥。
三人は匂いのする方を見て、互いに顔を見合わせた。
もしかしたら、とんでもないことになっているかもしれないと。
よく見ると、一箇所、人が何回も通ったであろう痕跡があった。
「い、行くか」
神崎先生がそう言うと、星羅と蘭子は小さく頷いた。
星羅の頭の中では、『スタンド・バイ・ミー』の曲がかかっていた。




