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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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202/241

17 森には何もありません


 遠足からしばらく経ち、六月になった。

 星羅は今日も鼻歌交じりで園芸部へと向かった。


 「蘭子先輩お疲れ様でーす」

 「あ、星羅ちゃんお疲れー」

 園芸部部長である薬師丸蘭子は星羅と共に、土を抱えながら、今日手入れする予定の場所へ向かった。


 「それにすてもぉ、星羅ちゃんは、力もちだなあ」

 見た目と打って変わって少し訛りのある喋り方をする蘭子。

 東京都内に園芸店を構えているのに、どうして訛っているのかは謎である。


 目的の場所へ向かうと、園芸部顧問であり、1年3組担任の神崎修司が、前かがみで腰を叩きながら待っていた。

 「お前らはよくそんな重いものを軽々と持てるなぁ」

 「若いですから」

 星羅がドヤ顔で言った。


 「若くてもそんなに力なんかないって……あいたたた……」

 「修司はどうしてそんなに腰をダメにするの? 持ち方……いや、立ち方とか歩き方もおかしいし、骨盤がずれてるんじゃない?」

 「かもな」

 「治しにいけばいいのに」

 「まぁ、そうなんだけどな。忙しくて」

 「ダメですよお。先生いなくなったら困るだす。こっちは見ているんで、病院行った方がいいだす」

 蘭子も心配そうな顔でそう言った。


 「今度予約取ってみるか……」

 「それがいいわよ」「それがいいだす!」

 「そんな腰痛い痛い言ってると、玲子ちゃん先生に幻滅されるわよ。自己管理が出来てないって」

 「すぐ、予約する」

 そんな会話をしながら、テキパキと準備をしていった。


 「じゃあ、今日はここをやるのね」

 「ああ」

 そこは日当たりも良く広いが、南側にはなぜか、自然の森があり、北側には校舎の一部がある。

 西側には植木があり、その少し先には学園の境目である高い壁がある。その先にも高い木が生えていた。


 日常と非日常が分けられている気がした。

 東側は通路を挟んで同様に広い敷地がある。

 その先にはいくつかの校舎があるのだが、何も無いだだっ広い土地で、少し荒れているため人はほとんど来ない。


 つまり好きにいじり放題である。

 隠れて何かをするにはうってつけである。

 現にこうして、活動でも無ければわざわざ来るような人はいないのだ。

 都内だというのに、風の吹く音と鳥の囀りしか聞こえない。

 まるで、ここら辺一帯が隔絶されているかのように。


 「学園にこんな広い場所があるなんてね」

 星羅がそう言うと、ニッコリしているのに少し落ち着かないのか、動きがぎこちない。

 顔をまっすぐ見ると、目を泳がせて視線をずらした。

 それを星羅が見逃すはずがない。


 「あら、この場所に何かあるの?」

 「いや、なんも……。なぁ?」

 「そうだすね。何にもないです」

 「だってよ」

 「ふーん」

 星羅は特に追求することなく、辺りを見回す。


 「あそこの森も結構大きくて広いわね」

 東京ドーム三個分ほどの森が広がっている。

 この学園にはこうした、手付かずの土地が多いのだが、それにしても多すぎるし広すぎる。


 星羅が森の方を見ると、さらに落ち着かなくなる二人。

 「なあに? そんなに土いじりしたいの?」

 「そ、そう! そうなんだ。早くここに花壇を作りたくてな!」

 「そ、そう! そうだす。ここを色とりどりに飾りたいんだす!」

 「ふーん」

 星羅は確信した。森に何かあると。


 つまり、森に意識がいかないように、ここに花壇を作っていくと。

 そうして、花壇作りのために、神崎先生が設計図のようなものを取り出した。


 「一応こんな感じで、作ろうと思うんだ」

 「いいんじゃないだすか?」

 だが、星羅には地味に思えた。

 星羅の中のクリエイティブな部分がざわついた。


 「ねぇ、これわたしが描き直してもいい?」

 「「え?」」

 「いや、面白くないというか、ありきたりというか……」

 「いや、いいぞ。俺もとりあえず描いただけだから、もっといい案があるなら、描き直していいぞ」

 「ホント!? じゃあ……」

 そう言って神崎先生からペンと紙を渡されると、ものの数分で設計図を描き換えた。


 「どう?」

 「お前ホント、こういうことに関しては天才だよな」

 「すごい。これを見たら、先生のはダメだすな」

 「ふふん。でしょう?」

 あまりの出来に舌を巻く二人。


 「ちなみに空いてる箇所があるが、なんでだ?」

 「実はー、ちょーっと考えがあってね。それに、ここに立つと、一番いい感じに見えるようになるのよ」

 「はあ……」

 神崎先生は、よく分かっていないのか、首を傾げながら頭を掻いた。


 「まぁ、星羅に任せるよ。ここ、殺風景だったから、丁度いいや」

 「ありがとう」

 「え?」

 「だから、任せてくれて、ありがとうって言ったのよ」

 「お、おう」


 そんな様子を蘭子は目を細めて見ていた。

 ずっとこんな雰囲気が続けばいいと。

 唯一の問題は、部員が少ないことである。

 蘭子が卒業したら、星羅一人になってしまう。

 少なくとも四人は必要なのだ。


 去年は入部者がいなかったため、このままでは休部になるところ、星羅が入部した。

 だが、人が入らなければ、その流れは変わらないだろう。

 植物を育てる楽しさをもっと知ってほしいと蘭子は思うも、その術を知らなかった。

 神崎先生と星羅が話している様子をただ眺めていた。


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