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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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16 帰るまでが遠足です


 遠足も残すところ、お土産を買うだけになった。

 もっとも、殆どの生徒と一部の教師は既に結構買っていて、バスの座席上の棚には紙袋が所狭しと置かれているのだが……。


 「静、今度は何食べてるのよ」

 「伊達巻ジェラートです。美味しいですよ」

 「ここに来て、なんでそんな早く買え……唯と早矢まで……」

 「あはは」「えへへ」

 唯は伊達巻チュロスを。早矢は伊達巻スムージーを飲んでいた。


 「あれ、お土産買わないんですか?」

 「あ、寧々聞いてよー…………って、寧々?」

 星羅だけでなく、唯、早矢、静も寧々を見る。

 既に両手には紙袋が二つ握られていた。


 「もう、買ったの?」

 「ええ。そうですよ。って、唯さんも静さんも早矢さんも食べてばっかりですね」

 「ちゃんとお土産も買いますよ」

 「そうそう。ちゃんと買ってくって」

 「うちも忘れてませんよ」

 なぜか星羅だけが呆れた顔で見ていた。


 「というか、他のみんなも、結構買ってますよ? 星羅だけ、まだ何も買ってない状態ですねー」

 「え、そうなの?」

 星羅が半信半疑で周りを見ると、大げさではなく、みんな思い思いに購入していた。


 「びっくりだわ」

 そう呟いた星羅の前にティナと蓮が歩いていたので、何の気なしに聞いた。

 「ねぇ、なんかお土産買うの早くない?」

 「いや、星羅たち見てたら、早く買ったほうがいいかなって」

 「そうそう。いつの間にか、早めに買ったほうがいいって考えになったというか。てか、何で星羅は買ってないの?」

 逆にそう問われて驚き固まる星羅。


 「ちょ、ちょっと吟味してるのよ」

 「早くしないと、時間押してるっぽいから早くしたほうがいいよ?」

 「え、マジで?」

 スマホを取り出して、時間を見る。確かに三十分ほど押していた。

 教師陣ですら急いで買っていたので、星羅も慌てつつも、ちゃんと判断して買ったのだった。


 少し遅れて、唯と早矢はというと。

 「あんなこと言っちゃったけど、あーしらも特に考えてなかったねー」

 「そうですね。ついつい釣られて食べる方に行ってしまいましたしね」

 それを聞いて、静は堂々と言った。


 「己の欲望に忠実になる。これは大事ですよ」

 「そうですね。自分の欲望のままに買う。これは鉄則です」

 寧々も紙袋を持ち上げて言った。

 唯と早矢は、さすがにダメだろうと思ったが、口にしなかった。


 「どうする?」

 「そうですねー……」

 ちらっと寧々を見る二人。

 「寧々っちは何を買ったの?」

 唯が問うと、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに笑顔で語り出した寧々。


 「まず、かまぼこはマストですね。その他焼き物、揚げ物。あとは伊達巻に干物ですね。夕飯のおかずです! 光司さんも喜んでくれると思います」


 それを聞いて、唯、早矢、静は青天の霹靂といった顔をした。

 なぜ、光司へのお土産を思いつかなかったのか。そして、寧々に先を越されてしまったのか。

 今更何を買えというのか。ほぼほぼ買われている。それにこの量だ。今更買ったところで被ってしまうだろう。


 そこで早矢があることを思いついた。

 「寧々さん。お金出しますので、共同で買ったことにしませんか?」

 「なるほど。いいアイデアですね」

 「早矢っち、さすがっしょ」

 「ダメです」


 寧々特有のゼロカウンターの『ダメです』が炸裂した。

 まさか、そんなに早くに否定されるとは思っていなかったらしい。

 少し間の抜けた声を出してしまった。


 「「「え?」」」


 「冗談ですよ。お金はいりません。どうせ買うの忘れてそうだったので、先に買っておきました。それにこれ以上買ってもかさばりますからね」

 食べきれないとは口にしなかった。

 だが、それもまた寧々の本心だった。


 「それに美味しかったら、光司さんに連れてきてもらって、買えばいいのです。トランクに詰め切れるまで」

 寧々は笑顔でそう言い切った。


 「なるほど。寧々さん、脱帽です」

 「ええ。寧々さんには負けました」

 「あーしもそこまで思いつかなかったよー」

 三人が負けを認めると、星羅が戻ってきた。


 「あれ、みんな買わないの?」

 星羅の手には、一つ小さめの紙袋が握られていた。

 「星羅さん、それは?」

 「あー、これ? お酒。光司にね。さすがに買えないからパパへのプレゼントってことで、先生に代わりにね……ってどうしたの?」

 「「「「負けました」」」」

 寧々も一緒になって負けを認めたのだった。


 そうして、帰りのバスの中では、行きで歌わなかった人から歌っていった。

 普通なら疲れて寝てしまうであろうところだが、車内は大盛り上がりしていた。


 それはエレナの恋がバレたからだ。

 別に隠していたわけではないのだが、あのような形でバレるとは本人も思っていなかった。

 帰りのバスでは、ラブソング縛りで歌っていったのだった。

 もちろんその対象はエレナだけではないからだった。


 学校へ着くと、生徒たちは呻いた。

 そう。お土産を買いすぎたのだ。これから電車なりバスなりで帰るのだ。

 予想以上に買ってしまったお土産。家に帰れば買って良かったと思うだろうが、帰る道中が辛かった。

 帰るまでが遠足だ。その言葉の重みが手に。腕に。肩に。腰に。足に伝わっていった。


 そして帰宅した五人は、玄関で一度寝転がってしまった。

 「買いすぎたっしょ」「買いすぎました」「重かったわね」

 唯、早矢、星羅はそこそこの量だった。


 「わたくしはみなさんの分も持っているんですよ?」

 静は、もう少し感謝があってもいいのではないかと問うたが、みんな疲れているので反応がない。


 「………………」

 寧々は一番買っていたためか、終始無言だった。


 「寧々さんもお疲れ様でした」

 「遠足って大変ですね」

 「あーしもこんな大変だとは思わなかった」「わたしも」「うちも」

 彼女たちにとっての大変なのは、学園からの帰り道だけなのだが、最後の最後で、買いすぎたツケが回ってきたのだった。


 その日の夜。

 珍しく早めに帰ってきた光司。

 食卓には今日買ってきたかまぼこが並べられていた。


 「光司さんにお土産です」

 寧々がそう言った。

 「あ、ありがとう。今日、箱根へ遠足だっけ?」

 「ええ。最後に小田原でこちらを買ってきました」

 「こんなに……ありがとな」

 「いえいえ。では、光司さんも帰ってきましたし。食べましょうか」

 「はい、光司」

 「え?」

 星羅がお猪口とお酒を渡した。


 「お酒買ってきたの。たまには飲んでもいいんじゃないかなって思って」

 「星羅…………ありがとう」

 「もう、そんなに嬉しそうに……って、泣かなくても」

 ほんの一筋涙が流れた光司。


 「いや、つい嬉しくてな」

 そう言って、星羅についでもらったお酒を飲み、かまぼこも食べた。


 「うっま」

 「でしょう?」

 「ああ」

 「じゃあわたしも飲むわね」

 「待て」

 「何よ」

 「星羅は、未成年だろ? ダメだ。これは渡さない」

 「ちょ、そんなこと言うならかまぼこは没収よ」

 「なっ!」

 そんな様子を唯、早矢、静は黙って見ていた。

 結局こうなることが分かっていたからだ。


 「ほら、星羅もそこまでにするっしょ。あーしらはジュースでいいじゃん」

 「そうですよ。お酒はまだダメです」

 「うう……」

 静は黙って眺めていた。

 いや、バレないようにかまぼこを食べている。


 星羅は、不満そうにしながらも、ほんのりと朱い顔で言った。

 「は、二十歳になったら最初のお酒、一緒に飲んでよ」

 「それくらいならいいぞ」

 「その時まで独身だったら婚姻届ね」

 「条件増やすな」

 「あっ! ずるい。それならあたしも」

 「いやいや、それこそあーしっしょ」

 冗談だと思ったら、今度は寧々と唯まで参加してきた。


 「お前ら全員まず二十歳になってから言え」

 「じゃあ、そんなこと言うなら、かまぼこは没収です」

 「そうだね」「そうですね」

 寧々がそう言うと、唯と早矢も賛同したのか、かまぼこを片付け始めてしまった。


 「ちょ! ちょっと待ってくれ」

 「待ちません。光司さんが婚姻届書くまでは戻しません」

 「どうしたらいいんだ……」

 クスクスと星羅が笑う。

 「ちょ……」

 「わたくしのかまぼこを少しあげましょう」

 ひょいひょいと皿の上に乗せていく。


 「ありがとな」

 「いえいえ」

 「なんか、多めに取ってると思ったら……」

 星羅が呆れた顔で言った。


 「おや、見てましたか」

 「バレバレよ」

 「ふふっ」

 「じゃあ戻ってくる前に食べよう」

 「食べたら婚姻届ですね」

 今度は静が言った。

 そして、光司が戸惑っている間に、戻ってきた寧々に皿の上のかまぼこまで回収されてしまった。


 そして、本当に片付けられたかまぼこは、翌日の夕飯で何事もなかったように食卓へ戻ってきた。

 代わりに、光司には「今後しばらく、付き合いであっても飲酒禁止」という、本人未承認の誓約書が作られていた。

 もちろん、光司が署名するはずもない。

 だが結局、別の理由でしばらく禁酒することになった。


 ちなみに残った酒は、大神先生が嬉々として引き取った。


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