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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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13 お弁当審査会


 彼女たちがお弁当を開けたのならば、次は自分たちの番だろう。

 普段から彼女たちの家に通い詰め、光司と寧々に教わりながら腕を磨いてきたのだ。

 ここで披露しなくて、いつ披露するというのか。


 女子を差し置いて、男子九人が、それぞれ『見てくれ』とお弁当を持ってきた。

 普通なら、意中の女子に持っていくだろう。

 だが、彼らの中では、まず正確な評価を求めたのだった。


 そして、それは本人たちの言う通り、自信作だったようだ。

 光司と同じように朝四時起きで作ったのだ。

 見(・)て(・)審査してもらうために。

 だが、彼らには誤算があった。

 味(・)も審査の対象だということを。


 ただ、今回はみんなが集まっている場所だ。

 全員に審査を要求するのは難しい。

 現に、寧々の近くでは、心理戦が繰り広げられていた。

 そんな様子を見て、女子たちはどう動くのかを面白おかしく好き勝手に言っていた。

 なんなら、その場にいた3組の生徒が胴元になって賭けまで始める始末。止めるはずの先生も加わっていた。


 最初に動いたのは匡人と正親だ。

 なんとかはせっかちと言うが、持っていったのはまさかの静だ。


 「わたくしでよろしいのですか?」

 「ああ。一番厳しく見てくれそうだからな」

 「それに、変な感情とか入れずにフラットに答えてくれそうだからな」

 「なるほど。では、厳しく審査モードでいきます」

 どこから取り出したのか、メガネをかけて、渡された弁当箱を持って、いろんな角度から眺めた。


 「ふむ」

 それは、骨董品の鑑定のようだった。

 「なるほど」

 そして、箸を手に取ると、躊躇いなく食べた。

 「「あっ!?」」

 「どうしたのですか?」

 「いや、なんでも……」「食べるとは……」

 「食べなければ、審査など出来ません。……ふむふむ。なるほど」


 みるみるうちに減っていくお弁当。

 幸い、半分ほどは残っている。

 人によってはご褒美弁当に進化したのだが、この二人にとっては、ただ目減りしていくお弁当に落胆を禁じ得ない。


 「なるほど。確かに男子の好きな味ですね。胃袋を鷲掴みされる味です。しかし、見た目がチグハグですね。どちらかに寄せるといいでしょう。二兎を追うものは一兎を得ずといいますからね。ビシッとルートを決めて行った方がいいでしょう」

 「「なるほど……」」

 「しかし、味付けは変えないでください。これはかなりの武器になります」

 「「!?」」

 「一度食べたら離さない。食べたら忽ち心を掴まれる、そんな力があります。わたくしもなんとか抗い、半分で耐えてみせました。これは相手もかなり魅了するでしょう。あとは渡し方くらいでしょうか」

 そう言ってお弁当を渡すと、平身低頭で弁当箱を受け取った匡人と正親。


 それを聞いていた女子たちは思った。

 どう聞いても、お弁当ではなく、人生相談のような感想と回答だったと。

 二人は受け取ったお弁当を見て、嬉しそうにはにかんだのだった。


 そんなことを他の四人も同じようにしていた。

 全員食べられるとは思わなかったが、評価を聞いて嬉しそうにしていた。

 女子たちは思った。全員Mなのではないかと。


 唯へ渡したのは、意外にも薫だ。

 「あ、あーし!?」

 「うん」

 静よりも『かわいい』のベクトルが合っていると思った薫は、唯へ持って行ったのだ。


 手渡されたそのお弁当は、『かわいい』以外の形容詞が浮かばない程だった。

 周りで見ていた女子たちも色めき立つほどの彩りだ。


 だが唯は、真剣な表情で眺め、食べ、評価した。

 完全に評論家のような雰囲気を醸し出していた。

 そして、真顔で評論を語った。


 「とても、美味しかったよ。うん。コージの味や技術も引き継いでる。でも、それだけじゃダメだよ」

 「え?」

 薫の表情が曇る。


 「かわいいのは、いい。これは薫きゅんにしか出せない持ち味。でもね、かわいいだけじゃダメなの。薫きゅんの中にある自分を出さないと。その中にある獣を。オオカミ……ワンちゃんでも」

 「ワンちゃん……」

 「そう。薫きゅんらしさを出せば、きっと好きな人に届くと思うよ。このお弁当は、凄く良く出来てる。でも、意地とかこだわりとかそういった核心の部分が薄いの。そこをもっと出せれば、もっとかわいくて強いお弁当になると思うよ」

 「な、なるほど……。うん。分かった、ありがとう!」

  「ううん。あーしも思うところあるからさ」


 そんな感じで唯の評論は終わった。

 そして誰かが言った。

 「唯のガチ評価久しぶりに聞いた」と。

 そして、そんな様子を三人の人物が遠くから眺めていた。


 そして、湊と隼人は早矢の元へ持って行った。

 「え、うちですか?」

 「お前ら! 早矢様に出す前にわたくしが毒味してやろう!」

 颯爽と凛が前に躍り出たが、早矢が押して引っ込めた。

 「凛さん、ステイ!」

 「!?」

 凛は素直に従って、早矢の横へと座る。なぜかゼロ距離で。


 「それで、どうしてうちなんですか?」

 「それは、なあ」

 「ああ」

 湊は隼人に目配せした。


 「早矢さんは美意識が高いし、僕たちと価値観が合うかなって」

 「なるほど?」

 隼人が言うと、よく分からないまま頷いた。


 「なるほど。美しいと言えば早矢様。よく分かっているな」

 うんうんと頷く凛。


 「ま、まぁうちでいいなら」

 「よ、よろしくお願いするよ」

 「うん。是非とも感想を聞かせてほしい」

 そう言って渡されたお弁当は、どちらも意識が高かった。


 どちらも見た目は美しく、デパ地下で売っていそうな見た目をしていた。

 彩りもよく、カロリー計算もされているであろう内容だ。

 確かに美意識高い二人らしいお弁当だった。


 早矢は小さく手を合わせ、「いただきます」と言ってから、食べだした。

 横から同じように凛も摘んでいく。

 二人で食べているので、みるみる減っていく。


 そして、箸を置いた早矢と、まだ食べ続ける凛。

 「凛さん、その辺で」

 「はっ!」

 湊と隼人は固唾を飲んで見守っている。


 「まぁ、これは好みの問題でもありますが、うちは好きですね。塩味も控えめで出汁や素材の味を強く感じられて美味しいです」

 「ほっ……」「よかった……」

 「ですが……」

 そこで二人の表情は強張った。


 「確かに美味しいです。そして開いた時に目を奪うものがあります。ですが、見た目の綺麗さに重点を置き過ぎたせいで、食べ合わせが疎かになってます」

 「え?」「へ?」「えっ!?」

 凛も一緒になって驚く。

 早矢は苦笑しながらも、理由を言った。


 「これとこれは一緒に食べるとお腹を壊しやすいですね。傷みやすい組み合わせですから。それと、こちらも汁気が他のおかずに移りやすいですね。見た目を重視するのはいいですが、揚げ物と水分の多い副菜を近くに置くと食感が悪くなります。あと、水気は十分に切れていますが、ヘタは取りましょう。それから─────」


 一つ一つ指摘していった。

 凛も真面目に聞いて、メモしていた。

 そして、全て言い終わる頃には、近くにいた女子も食べるのをやめて聞き入っていた。

 「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」

 「えっ! あ……はい。……こちらこそ?」

 女子も一緒になって頭を下げていた。

 満足そうに眺める凛と、ついつい熱くなって語ってしまった早矢。


 だが、周りでも同様のことが行われており、これが正しいのだろうかと思って、そのまま早矢も頭を下げて謝辞を述べた。

 そして、凛やまわりの女子が、減ってしまった分を埋めるように自分たちの弁当を湊と隼人へ差し出したのだった。


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