11 人気者は大忙し
「珍しい組み合わせですね」
「ほーんと。悪いことでも言ってたんじゃない?」
寧々と星羅が戻ってきた。
星羅の手にはカレーパン。寧々の手には黒いソフトクリームが握られていた。
「人聞きが悪いですよ。わたくしはそんなに信用ありませんか?」
「そこまでは言ってないわよ」
気まずくなったのか、静の鼻先にカレーパンを差し出した。
「ひ、一口あげるわよ」
「よろしいのですか?」
「じょ、常識的な一口よ? ふ、フリじゃないんだからね」
「ふふ。ありがとうございます」
『ガブッ!』
「ちょ!」
「すいません。齧る程度では中の具まで届きそうになくて」
「まあ、予想通りだったわ。ほらあげるわ。そう思って二個買っといたの」
「あ、ありがとうございます……」
そんな様子を見ていた友人たちは、ニマニマと笑っていた。
「星羅ってなんだかんだ静のこと好きだよね」「非常に捗ります」「ツンデレさんだなぁ」「眼福眼福」
いつの間にか人だかりが出来ていて、ほんわかした雰囲気が広がっていた。
「し、静さん。あたしのもあげますよ?」
「え、いえ……それだとお歯黒になりそうなので」
勇気を出して言ったのに、まさか断られると思わなかった寧々。
だが、ある単語から、時代遅れの惚気を見せた。
「お歯黒……つまり既婚女性と……」
「こういう寧々の斜め上方向ののろけもいいよね」「わかる」「誰が最初に結ばれるんだろうね」「でもそれを見ちゃったら……」
寧々が真っ赤な顔でソフトクリームを食べる様子を、クラスメイトがニコニコしながら眺めていた。
「あー、みんな集まって楽しそうにしてるじゃん」
「ホントですね。何を話していたんですか?」
唯と早矢も戻って来た。
唯はシンプルに黒たまごを。早矢はおまんじゅうを食べていた。
「聞いてよー唯。静と星羅がねー」
近くにいた陽菜が先ほどの出来事を話そうとすると、慌てて静と星羅が駆け寄って来た。
「なんでもないのよ」「なにもありません。星羅さんがカレーパンを買ってくれただけです」
「ちょ、なんで言っちゃうのよ!」
「いいではないですか。事実ですし」
「もう、奢ってあげない」
「なあっ!」
なんだかんだで仲のいい二人をみんなが優しく見守っていた。
「なんかこういうのいいですね」
「でしょ!」
早矢の素直な気持ちに唯はすぐに反応した。
「これからもずっとこういう感じだよ」
「ふふ。それは素敵ですね」
静と星羅が友人たちにツッコまれ、顔を赤くしていった。でも不思議と嫌そうではなかった。
そんな感じでみんなで買ったものを食べていると、誰かが写真撮りたいねと言い出した。
学校で依頼したカメラマンさんも先生たちと話している。
どうやら、ここでも記念撮影をするようだ。
こうしてカメラマンに撮ってもらう写真もいいものだと五人は思った。
そんな時、唯の友人の一人である2組の兒玉響がよく通る声で唯を呼んだ。
「ユーイー!!!」
声のする方を見ると、唯に好感を抱いている生徒たちが集まっていた。
その半数……いや、それ以上がギャルだった。
「もう。しょうがないなー。はーい! 行くよー!」
そうして唯がカメラの前に行くと、カメラマンさんも撮影だと思ったのか、撮る準備をした。
「ほらほら。唯は真ん中でしょ」
先ほどの声の大きなギャルである響が言った。
「そうね。やっぱりあーくしらのトップだしね」
紫音が、唯あっての自分たちだと言った。
「ちょっとー、隣はあーくしがいいんだけど。というか一人称被ってる!」
愛が少し拗ねながら言うと、唯の隣の座を巡って、陽菜や美羽、麗華も集まって来た。
「ちょ、みんな落ちついてよー」
学年の四分の一はいるだろうか。
最終的には譲り合い、それぞれ謎のポーズを取った。
「で、これなんの写真?」
「んー。なんだろーねー」
なぜかはぐらかす面々。
「じゃあ、次は星羅だね」
「えっ!? わたし?」
そんな様子を見ていた蓮が星羅の手を引いていくと、やはり星羅と写りたい生徒たちが集まった。
唯の時にもいた人物もちらほらといた。
「ほら、星羅も真ん中よ」
「ええ!?」
「もっと堂々とする。女王様でしょ」
「いや、そうだけど……」
否定はしない星羅。
写真を撮る瞬間だけは、ちゃんと役に徹したのだった。
続く寧々は、なぜか周りを忍ばない忍者たちで囲まれていた。
その周りには『おかーさん』を慕う生徒たちで溢れていた。
「では、おかーさん。いいですか? このポーズです。『ニンニン』」
「しませんよ。というか、どうしてあたしのイメージはそっちなんですかー」
「いいじゃん。面白いし。ほら、『ニンニン』」
「も、もうー」
寧々は日光江戸村にでも来たのかと思うような写真になったのだった。
「早矢様二人きりで撮りましょう」
「またまた冗談が過ぎますよ」
凛だけでなく、早矢に好意を持つ生徒たちも集まった。
写真を撮るというのに、これ以上ないくらい不満そうな顔を凛はしたのだが、撮る瞬間に勢い余って抱きついた。
「あー、撮り直しだねー。ぶれちゃってる」
「なぁ!」
「凛さん。抱きつくのはなしですよ」
「くーん」
そんな様子をじーっと見ていた静。
「ほら、静。最後は静の番よ」
「もう。ぼーっとしてどうしたのよ」
優華と美琴が静の手を引いた。
「いえ、わたくしと写りたがる奇特な方などいないと思ってましたので」
「逆よ。ほら」
そこには、静と写ろうと集まっている生徒たちがいた。
「意外です」
「どうしてこういうところは自己評価が低いのかしらね」
「ホントよね。もう少し周りを見た方がいいわよ」
そうして、静も大勢の生徒たちと写ったのだった。
そして、そこで先生たちが気づいた。
「クラス別に撮るんだぞー。ほら、撮り直しだー」
「「「「「えー!」」」」」
生徒たちから非難の声が上がったが、1組からは誰も声を上げなかった。
「やっぱり1組だと役得よね」「一緒に写れるしな」
冴と鷹臣がそんなことを言いながら、ごちゃごちゃになっている1組を纏めた。
最終的には四クラスまとめて撮ったのだが、全員の顔が分からないほど小さくなったのだった。




