10 黒幕より愛でたい
続いて来たのは大涌谷だ。
柵越しに爆裂火口を見る。
「すごいねぇ……」「すごいですぅ……」「すごいわ」
唯、寧々、星羅は素直な感想を漏らした。
「硫黄の匂いと煙がすごいですね」
早矢はその光景を見て実感していた。
そして、それを見て、静はゆっくりと口を開いた。
「どうですか、早矢さん。こうして目で見て匂いを嗅ぐ。風をこの身に感じる。あの場所にいては、知識では知っていても感じることは無かったでしょう」
そう言うと、唯も寧々も星羅も静の方を見た。
「そうですね。確かに初めてこの身を得て、感じることができるのは、とても幸せですね。この硫黄の匂いすら、本当の意味で知ることはできませんでした」
「ですよね。わたくしもあの日からずっとそう思っていました」
うんうん頷きながら言うが、どこか四人の顔は胡乱げだ。
「あの、さぁ……静」
「なんです?」
誰が言うべきか迷っていたところ、いつも通り静担当の星羅がその理由を口にした。
「どうして味覚を言わないのかしら?」
「あぁ、そうでしたね。特に味覚は大事です。これほど喜びを与えてくれることはありません」
「そういうのは、さ……」
「うん……」
星羅が唯と顔を見合わせた。
「どうしてソフトクリーム食べているんですか?」
寧々が言った。
「うちもずっと気になってました」
「降りてすぐに買いに行きました」
「静って、ホント自由よね」
「やっぱり見せて説明した方がいいですよね」
ぺろぺろと舐めながら言う。
「後付けでしょ、もう。ねぇ、それ一口ちょうだいよ」
「どうぞ」
「え!?」
「え?」
星羅が一口ちょうだいと要求すると、すんなりと差し出した静。
まさか、差し出してくれるとは思わず驚いてしまう。
「あ、ありがと……」
「いえ」
「!? これおいしいわね」
「それは良かったです」
コーンに垂れかけたソフトクリームを舐めながら静は言った。
「もし、買うのなら早い方がいいですよ。うちの学園の生徒は花より団子ですから」
「「「「え?」」」」
振り返ると、殆どの生徒と教師が売店の方にいた。
「は、早すぎない?」
「むしろ遅すぎたくらいです」
あたりを見れば、先に買っていたであろう生徒しかいなかった。
「ちょっと行ってくるわ」
「あーしも行ってこよっと」
「あたしも」
「では、うちも……」
足早に去っていった四人を見送ると、三人の生徒がやって来た。
三人ともソフトクリームを持っていた。
3組の実質的リーダー首藤美弥子。
4組の実質的リーダー賀茂紫音。
そして、2組の百合草琹織の従者である杠紡希。
「おや。珍しい組み合わせですね」
「京佳が安奈を返してくれなくてね」
紫音ががっくりと項垂れながら言った。
「あたくしは、ただ少し世間話をしたかっただけですよ。たまたまそこで合流しただけです」
美弥子が意味深な笑みを浮かべていた。
「そうですか。しかし、紡希さん、お嬢様はよろしいので?」
「志乃が一緒にいるから大丈夫でございます。それに、うちのお嬢様は一人でなんでもできますゆえ」
紡希は楚々と話した。
「まぁ、実質黒幕よね。あたくし達」
「黒幕はそう簡単に正体を明かしませんし、別に変なことを画策したりなどしませんよ」
「それにそういうことをするのは大抵3組と4組ですしね」
「そんな変なことばっかりしてないし」
「さっきのアレをやってて、それを言いますか?」
静と紡希は呆れていた。あれでも奇行ではないと言うのか、と。
「でもさぁ、折角だし、今後もこうして集まって話さない? 黒幕会として」
「そのネーミングは嫌ですね」
「じゃあ何がいいのよ」
「そうですね……」
みんな、手に持っているたまごソフトを見る。
「黒たまごも有名よね」
「あれ、黒いひよこの黒幕いませんでしたっけ」
「あれは黒いけど黒幕じゃないわ。ただ正義感が強くてドジなだけよ」
そこで全員が、顔を上げた。
静はちっちゃい可愛い子が好き。安奈も対象だ。
紫音は言わずもがな。
美弥子も先ほどの件で、安奈を引き入れようと画策するくらい可愛いと思っている。
三人は紡希を見た。
「わらわは……好きですねぇ……えぇえぇ。うちのお嬢様と違って、ドジ可愛い」
その瞬間、四人は握手を交わした。
そして顔を見合わせ頷いた。
「では、安奈さんを愛でる会。これでいいですね」
「ええ。問題はありませんね」
「一番いいネーミングじゃないかしら」
「わらわもそう思います」
そして、静は言った。
「薫きゅんを愛でる会はありませんかね?」
そう静が言った瞬間、後ろから声がかけられた。
「詳しく」
振り返ると紡希の主人の百合草琹織と、従者の篁志乃がいた。
それだけじゃなく、薫に興味を持つ者が何人も集まって来ていた。
「そんなに大声で話したつもりはないんですけどね」
「波動を感じましたので」
琹織がニコニコしながら言った。
それは有無を言わさぬ圧力があり、静でさえ口を挟めなかった。




