09 忍者は忍ばない
飛鳥のステージが終わると、階段を登って特別展望台へ上がり、手を振っていた。
「さ、さて……」
さすがの京佳も戸惑っていた。
どうして飛鳥がフリフリの衣装を着てきたのか、今になって分かったのだった。
「そういうことするなら、初めに」
「ごめんねー。どうしても気分上がっちゃってー」
「なら、仕方ないさね」
「そう。仕方ないの」
二人ともニンマリと表情を作った。
安奈の頭を撫でながら、後ろへ戻る飛鳥。
「さ、さて……」
またも言い淀んでしまうのは、3組と4組の隠密が踊っていたからだ。
4組の隠密部隊。北野学、安井縁、石清水泉水が華麗なダンスを踊っていた。
それはアイドルグループのようなキラキラしたものだった。
隠密なのに、そのままテレビに出られるくらい煌びやかだった。
周りの生徒たちから黄色い歓声が上がっている。
終わると、投げキッスをしたり、ウインクしたりと完全にアイドルを意識していた。
続けて3組の隠密部隊。愛発北斗、鈴鹿美波、不破東生、逢坂聖果がアクロバティックなダンスを披露していた。
デッキの上でやっていいのかは分からないが、バク転までしたりと派手だった。
もっともこの茶番を勝手にやってること自体、問題なのだが……。
そこになぜか興奮した何人かの生徒が飛び入り参加して踊っていた。
中には織部燈と春日小春。それに小鳥遊美月と教師まで入り混じり収拾がつかなくなっていた。
「最近の忍者って、全然忍ばないよね」
誰かがそう言ったのだった。
*
「あの、これって本当に普通のことなんですか?」
一部始終をずっと見ていた早矢が興奮しながら問うた。
「普通だよね?」「ええ。普通です」「いつも通りよ」「ええ。今日はたまたまここでやっただけですね」
唯、寧々、星羅、静が当然といった感じで言った。
「そ、そう……なんですね。これが普通…………。他もですか?」
「そうなんじゃない?」
星羅がそう言うが、答えたのが星羅なので、余計に疑わしくなった。
なおもデッキはステージと化していて、担任を受け持ってない葛城先生、物部先生、蘇我先生、大伴先生、安倍先生の五人組が落ち着いたダンスをしていた。
ミイラ取りがミイラになるではなく、元からミイラしかいないのが英愛学園なのである。
早矢が上の方を見ると、普通展望台には椅子が置かれ、2組の生徒が従者を控えさせて観覧していた。
「あ、2組はお嬢様とか多いからね」
唯が答えになってない答えを言った。
なぜか近距離なのにオペラグラスを使って見ていた。
逆に見づらいだろうにと早矢は思ったが、それに関しては他のみんなも同意見だった。
「あれ、なんかこっち見てない?」
「え?」
そう言うと、さっとデッキの方へと首を動かしたのは、2組の百合草琹織だった。
「静の方見てたね」
「静、あんた何かしたの?」
唯と星羅が問うが、静は小さく首を振るだけだった。
「身に覚えはありません。ですよね?」
いまだに抱きしめたままの薫にもそう問うた。
「え? あ……いや……えっと……はい……」
意味深な返事をして、顔を朱らめるのだった。
そして、もう一人。2組の加藤莉奈が星羅の方をじーっと見ていたが、星羅は全く気がつかなかった。
静だけが横目で莉奈を見ていたが、小さく頷くと、星羅の方へ視線を向けた。
「それにしても3組、4組と変わ……個性的な方が多いですが、2組も相当ですね」
「そうですね。2組は格式高いというか、ちょっと雲の上な感じの人が多いですね」
言葉を選ぶように寧々が言った。
「まぁ、それは見た目や家柄だけであって、実際は違うかもしれませんよ」
何かを知っているそぶりで静が言った。
「何か隠してるわね。言いなさいよ」
星羅が静に聞く。
「星羅さんに関しては、近いうちに答えが分かるんじゃないでしょうか」
「なによそれ」
「楽しみは後にとっておいた方がいいということです」
「なんでいつも静は少し先を歩くのよ」
少し拗ねた感じで星羅は言った。
「それにしても皆さん、ホントにやりたいことやってるんですね」
「ええ。ですから、早矢さん。遠慮なんてしなくてもいいんですよ」
「別に遠慮しているわけじゃないんですけどね」
少し困った顔をした早矢が言ったが、内心では何をしたらいいのだろうかと悩んでいた。
とりあえず、今日の遠足で見聞を広めて、考え直してみようと思ったのだった。
そんなやりとりをしていると、五人の先生が、大神先生と学年主任の春日井先生に怒られていた。
他の先生も一緒になって踊ろうとしたところだった。
そして、気がつけば、3組と4組の茶番も終わりを迎えていたようだ。
結局、安奈は救出されずに3組にレンタルされたままとなってしまった。
「まだ少しありますね」
静が薫を抱きしめたまま言った。
「景色見てませんね」
寧々が今更だと思いつつも言った。
「富士山! 富士山見ようよ。忘れてたでしょ」
唯が思い出したとばかりに言った。
「忘れてないわよ。たまたま富士山より先にアレが始まっただけで」
星羅が頬を掻きながら言った。
「では、見ましょうか」
早矢が締めるように言った。
そして、他のクラスメイトを含めたみんなで景色を眺めながら寄港するのを待ったのだった。
そして、下船すると、開口一番みんなが思っていたことを静が言った。
「え、ロープウェーで行かないんですか?」
「この人数を時間内に運びきれるわけないだろう」
そう大神先生に言われて、大人しくバスに乗り込んだのだった。




