08 四天王が多すぎる
早速デッキへと上がると、すでに多くのクラスメイトがいた。
「これは一体……」
「あ、来たんだね」「遅いよー」「一番前陣取ってると思ってたよ」
そう言うのは薫と蓮と陽菜だった。
さっそく薫が静に後ろから抱きつかれた。
「わひゃっ! ちょ、静さん!?」
「まぁまぁ。お気になさらず」
「気にするでしょ」
星羅がツッコミを入れるように静の肩を叩いた。
「で、何が……あー」
唯が蓮と陽菜の間から前を見ると、3組と4組の生徒が集まっていた。
「一体何があるんですか?」
寧々がぴょんぴょんと隙間から覗くように見る。
「本当にみなさん色々やっているんですね」
早矢が驚きとも呆れとも取れる感じで言った。
*
そこで起きていたのは、まさかの3組と4組の争いであった。
特別展望台の上には複数の生徒がいた。
そして、その中の一人が助けを求めていた。
「ぅあー。助けて欲しいのー!」
そう言うのは4組四天王でリーダーかつマスコットの平安奈。
3組四天王でリーダーの山東京佳に捕縛……抱きしめられている。
「あーっはっはっはっはっはっはぁー! この子を返して欲しければあたいらを倒してみるんだねぇ!」
歌舞伎役者みたいな動きで、手を突き出してそう宣言した。
「くっ……卑怯よ。先に悪役をやるなんてずるい!」
少しずれた反応を示したのは4組四天王の紅一点、賀茂紫苑。
そう言いながらもスマホで安奈の姿を撮影していた。
「はぁはぁ……。今日も可愛いわねぇ……」
同じく4組のクラスメイトも撮影や録画をしていた。緊張感は元から無い。
「全く……。あれほど先につっぱしるなと言っていたのにこれだからな……」
呆れ混じりに、メガネのフレームをクイクイと押しながら言うのは、4組四天王で頭脳担当の伏見鏡夜だ。
いつか真ん中からポッキリ折れるんじゃないかと、みんなが心の中で思っていた。
「美しくない。あの囚われ方は美しくない」
長い髪を指に巻いてくるくるとしているのは、4組四天王でヴィジュアル担当の松尾麗太。
今日は移動中に安奈が暇で麗太の髪をハーフアップにしていた。そのピンクのリボンは安奈の私物である。
それ故に、あっさり捕まった安奈に憤りを感じずにはいられなかった。
「なんで毎回こんなことになるんだ」
そう言うものの、呆れ混じりに、船内の売店で買ったジュースを持って、ストローで啜りながら、事の成り行きを見守っているのは、4組四天王の常識枠、八坂哉人だ。
3組の生徒に速攻で拉致られた瞬間に、全てを察知し、売店へ向かったのだ。
どうせ、いつもの茶番であると。だから今回は傍観者に徹しようと考えていた。
それに遠足である。いつも以上にバカをやると思っていた。
対する3組は4組以上に四天王の人数が多かった。
安奈を抱きしめているのは3組四天王のリーダー、山東京佳。
どこで用意したのか海賊の帽子を被っていたが、安奈の頭に被せていた。
安奈も満更でもなかった。
続いて登場したのは、3組四天王で、頭脳担当の神宮寺明治。
棒突きキャンディーをタバコのように咥えていた。
オールバックの髪型がどこか黒幕のような風貌を醸し出していた。
前髪が少し垂れていて、どこかの探偵をリスペクトしているようだった。
遠足だというのに、わざわざネクタイとコートを着てくるこだわりようだ。
「…………」
ただ寡黙に飴を舐めていた。
「返して欲しくば、俺を倒すことだな」
この遠足の中で一番、場違いな格好をしているのは、3組四天王の佐々木武蔵。
この遠足で唯一の着流しを着てきており、どこで買ったのか、『芦ノ湖』と銘打ってある木刀を差し込んでいた。
明治と逆の方から登場。登場といっても京佳の後ろから出てきただけなのだが。
「うちにも剣士枠欲しいかもなの」
「あら、それはいいさね」
安奈と京佳が締まりのない会話をしていた。
「ほらほら、後がつかえてるよ。前に出てくんな」
そう言って出てきたのは、髪の毛をまとめ上げて、大きな切れ長の目をした女性だった。
「あっしは3組四天王、江戸紗理奈。こわっぱを助けたかったら、みんなでかかってくるんだねぇ」
対岸まで届きそうな程、凛としていて、どこか頼り甲斐のある言い方だった。
彼女も3組四天王である。趣味は司会で、よく商店街のイベントを仕切っている。
今回も仕切るつもりなのかマイクのおもちゃを取り出していた。いつか3組のリーダーになることを夢見て。
「まったく。それだとイメージが悪くなってしまいますよ?」
落ち着いた雰囲気で出てきたのは、3組四天王の計画立案担当、首藤美弥子。
どこか都知事のような雰囲気を纏っており、今回のコレも彼女の発案だ。
京佳を追い落とし、リーダーになろうと画策している。
3組は一枚岩ではないのだ。もっとも、その理由は、京佳が毎回安奈を独占するからに他ならないのだが。
そして、最後の3組四天王が出てくると、歓声が沸き起こった。
「みんなー、お待たせー」
両手を上げたり、突き出して手を振ったりとアイドルのよう。
それもそのはず。彼女は『TOKYOカワヰヰ23区』というアイドルのメンバーである滝野川飛鳥だ。本名で活動している。
「それじゃあいっくよー! 『わたしが一番かわいいのっ!』 はいっ! ワンツーさんしー!」
「「「「「「「「「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイハイハイハイ!」」」」」」」」」
彼女が出てくると、男子生徒がどこから出したのかペンライトを持って振り上げていた。
彼女も3組四天王のリーダーを狙っていた。3組の四天王は一枚岩ではないのだ。
「飛鳥の人気に嫉妬なの」
「あたいもだよ」
「あっしもでさぁ」
「あたくしもです」
飛鳥の登場によって、一旦茶番は停止。飛鳥のワンマンショーが開かれた。
仕事でもないのに、幾層にも重ねたパニエで広がったアイドル衣装のような私服を着ていた。
武蔵と麗太。そして紫苑も一緒になってオタ芸をしていた。
つられるように明治と鏡夜もぎこちない踊りをしていた。
「なにこれ」
哉人は誰かの声を代弁したのだった。




