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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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05 箱根はまだ遠い④


 小春から通路越しにマイクを渡されたのは、自称『早矢の番犬』こと白鷺凛。


 黙っていれば、その女神らしい見た目から、ため息が漏れるほど美しいと言われるのに、口を開けば一瞬で夢から覚めると言われているが、本人は一切気にしていない。


 そう。凛は早矢以外のことについては、一切気にしないのだ。


 そんな凛は、速攻で敬愛する天唐和早矢の横の席に座った。

 最初は小春が奪うのではないかと、気が気ではなかったが、まさか寧々のお菓子目当てで譲ってくれるとは、さすがの凛にも読めなかった。


 だが、こうして早矢の横に座ることができた。

 お世話をすることができた。それだけで満足なのである。


 だが、凛にとっては、早矢との大切な時間を邪魔されているも同然だった。


 それは、前の座席に座っているはずが、椅子に乗ってこちらを見ている二人で、角度によっては絶対に見えてしまうくらい短いスカートを履いている宇佐美美琴と冷泉優華だ。


 「早矢も大変だよねー」

 「ねー。嫌ならちゃんと嫌っていいなー?」

 早矢のことを気遣ってのことだが、凛にとっては聞き捨てならないことだった。


 「なんてことを言うんです。わたくしと早矢様の仲を引き裂こうなどと」

 「してない」「どうしてそんな飛躍するのよ」

 二人とも睨みつけられ、すぐに萎縮した。


 「(どうも銀髪には逆らえないわね)」

 「(これで三つ編みしてたら土下座しちゃうわ)」

 ヒソヒソと話し合うが、凛は一切気にしない。

 そこに『早矢』という単語が含まれていない限り。


 「それはそうと、あなたたち、早矢『様』ですよ。もしくは姫様です」

 「やめてください。呼び捨てでいいですから」

 「なんと! もう呼び捨てするような仲になりたいと」

 「そこまで言ってませんよ」

 少し困った顔をする早矢。

 悪気はないことは知っているが、さすがに暑苦しいとは少しだけ思っていた。

 懐きすぎて、常にのしかかってくる毛量の多い大型犬のようだった。


 「姫様……ねぇ」

 「かぐや姫みたいな?」

 「むっ! かぐや姫はよくないですね」

 「え、そうなの?」

 「姫様姫様言うからてっきり」

 「だって、かぐや姫は帰ってしまわれるじゃないですか」

 「「「あー」」」

 早矢も一緒になって納得してしまった。


 しかし、そこで止まらないのが白鷺凛という少女である。

 「いや、待ってください。わたくし、巷で月の女神とか言われてますね。つまり、わたくしの元に……帰って……くる……!!」

 「初耳です」

 「いや、言われてんのよ。月の女神白鷺凛」

 「氷の女神人見静」

 「初耳です」

 静の名前が出て、少し食い気味で、半笑いで言った早矢。


 こういう面白い情報が出るから楽しいと思う反面、再び同じ疑問が浮上した。


 「あの、この学園ってみんなこんな感じなんですか?」

 「まだマシな方よね?」

 「いや、どうなんだろ?」

 美琴と優華は顔を見合わせて首を傾げた。

 そんな二人を半眼でずっと見ていることに気づいて、美琴が口を開いた。


 「そんなにわたしたちのこと見てどうしたのよ」

 「あなたたち二人は本当に羨ましいです」

 「どゆこと?」「ええ?」

 何を言われているのか、全然分からなかったのだ。

 早矢も気になって黙って事の成り行きを見守った。


 「あなたたち二人の髪色は薄いですが、紫色ですね。つまり早矢様と同じ色。誘ってますね?」

 「誘ってないし、これは地毛」

 「そうよ。まぁ、わたしの方が少し濃いかもだけど」

 「優華!?」

 そんな理由だと思わず、なんとかずっこけそうになるのを堪えた。


 だが、凛の思考はさらに斜めに成層圏を突破した。

 「ですが、わたくしと早矢様の色を混ぜれば丁度そんな色でしょう。つまりはわたくしと早矢様の娘っ!」

 あまりの展開についていけずに、黙る三人。


 「じゃ、じゃあ麗華はどうなのよ?」

 「え?」

 「紫がかった黒い縦ロールじゃん」

 「うんうん。一番早矢に近い」

 「ちょっと、わたくしを巻き込まないでくださいまし」


 それまで事の成り行きを見守っていたのは何も美琴と優華だけではないのだ。

 他のクラスメイトも、このコントが一体どういう結末になるのだろうかと、歌わずに見守っていたのだ。


 それなのに、麗華へと盛大に飛び火してしまったのだ。

 もう収拾はつかない。


 「麗華……。よく考えれば、わたくしと同じ一人称。早矢様を狙ってますね?」

 「わたくしは唯様一筋です」

 「え、今度はあーし!?」

 どんどんと延焼していく車内。


 そんな様子を見て、誰かが言った。

 「どっちも拗らせてるなぁ」

 その呟きに全員が静かに頷いたのだった。


 「くっ……。では、わたくしの気持ちを歌にします。聞いてください早矢様!」

 「はいはい。聞きますよ。だから落ち着いてください。どうどう」


 そうして凛が歌ったのは『ずっと二人で…』。

 それは、2012年の日産スタジアムを彷彿とさせるくらいの歌唱力と声量で、バスの窓ガラスが全て割れんばかりに震えたのだった。


 「どうですか早矢様」

 「オーディションとか出た方がいいですよ?」

 「でも、それだと早矢様のお世話が……」

 とことんまで早矢なんだなと、みんな感心した。

 そんな早矢は『粉雪』を歌い、凛にさらに懐かれることになった。


 そして、優華は『シルエット』を。

 美琴は『さくらんぼ』を歌い、凛が珍しく感謝の印にと、二人へお菓子を分けた。


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