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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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02 箱根はまだ遠い①


 「カニ食べいこー!」

 バスの中で歌うのは、1年1組の担任大神(おおみわ)いのり。

 英愛学園を出発して、まだ東京都内だというのに、さっそくカラオケを始めた。


 そう。今日は英愛学園の遠足の日である。

 五月下旬。少し時期をずらしての遠足だ。

 ちなみに、英愛学園では各学年ともに遠足があり、毎回先生方によるディベートで決定される。


 今年の1年は箱根への遠足だ。

 朝七時集合にも関わらず、殆どの生徒が三十分前には到着していた。


 「カニ食べいこー!」

 ノリノリで歌う大神先生。

 生徒たちもノリノリであるが、ただ一人、不機嫌な表情で親指の爪を齧りながら唸るのは御坂唯である。


 「くっそー。あの曲あーしが歌うつもりだったのにー」

 カニ好きの唯は悔しそうにそう言うと、隣に座る松本愛が宥めていた。


 「まぁまぁ。いいじゃん。他にカニの出る曲ないの?」

 「童謡と『かに道楽』しかなかった。あとは聞いてないから分かんない」

 「それでいいじゃん」

 「あれが良かったの。もー」


 陽気な唯はシートに沈み込むように座って、お菓子を食べ始めた。

 「もう食べてるし」

 「いいじゃん、いいじゃん。ほら愛も食べる」

 「あ、ありがと」

 顔を朱らめながら受け取る愛。


 「あっ! ずるいですわ」

 「あたしも欲しい!」

 後ろの席。いや、頭上から声をかけたのは、九条麗華と、藤原陽菜である。


 「あげるよー」

 苦笑しながら手をあげると、二人とも躊躇いなく取って食べた。


 「では、わたくしからも」

 麗華は、やたらと高そうなお菓子を差し出した。

 「ありがとー」

 「さっすが麗華。これどこの?」

 横の席から身を乗り出して奪うのは、白峰美羽と栗栖ティノだ。


 そして、横から陽菜が。

 麗華の後ろから、クラスの食いしん坊である、海道•メリー•エレナと宇慶操が、ひょいと奪っていった。


 「流石お嬢様。美味しすぎる!」

 「うわ、やっば。全然違う」

 「そ、そうでしょうとも」

 麗華も褒められて満更でもない。


 「ほら、唯様も」

 「うん。ありがとう。一つ貰うね」

 「一つと言わず、全部いいですわよ。なんなら、わたくしの心も!」


 たかがお菓子。されどお菓子。

 唯の為に買ってきたお菓子を献上するのは、当然とばかり思っていた。

 ただ少々、その愛が重いだけで。


 「おぅ! 美味しい! サクサクで甘さも丁度いい。いい仕事してるねー」

 唯が謎の褒め方をすると、目を細めてうっとりと、唯の言葉をリフレインしていた。


 「これ、どこの?」

 そんな空気をティノがあっさりとぶち壊した。

 「も、もう……。少し余韻に浸らせてくださいまし」

 軽く頬を膨らませて拗ねる麗華。


 「でも、美味しすぎるし」

 「そうそう」

 愛が言うと、陽菜も同調する。

 後ろでは、エレナと操が手を伸ばし続けている。


 「これは、この日の為にわざわざ銀座で買ってきましたの」

 「道理で」「だからか」「この味なら納得」「他には? 他には何があるの?」

 気がつけば、麗華の用意したお菓子は無くなっていた。


 「ああっ、いつの間に……。唯様はちゃんと召し上がられましたか?」

 「た、食べたよ。うん。食べた」

 一個しか食べてないが、そう言っておく。


 「でしたら、大丈夫ですが……」

 「ほら、麗華。あたしたちのもあげるから」

 「そうそう。ほら、しょっぱいのもいるでしょ?」

 「これも食べてよ」

 そこからは、各自お菓子のシェアを始めた。


 「どう?」

 「ふむ。悪くないですわ」

 そう言いつつも、二個、三個と食べる麗華。

 尚、後ろの席のエレナと操は、通路まで来て食べている。


 「ちょ、食べ過ぎよ」

 「わたしの名前にお菓子大好きってルビ振っといて」

 「わたしも」

 エレナと操もよく分からないことを言いながら、尚も食べ続ける。

 まだ、23区内である。


 「二人はお菓子持ってきてないの?」

 唯が、みんなが思っていたことを代表して言った。


 「「あるよ」」

 操が出したのは、普通の市販のお菓子だが、エレナはタッパーを取り出した。

 中には手作りのクッキーやラングドシャが沢山入っていた。


 「これ、エレナさんが?」「これをエレナが?」「エレナが手作りお菓子を?」「まさかの手作り!」「女子力たっか」「最後の最後にすごいの持ってきた」

 操以外の全員が驚いていた。


 「あ、違うの。作ってもらったの」

 「「「「「「ほほう〜」」」」」」

 操は黙ったままニヤニヤしている。


 「ほ、ほら。わたしいっぱい食べちゃったから一つずついいよ」

 「エレナがお菓子分けてくれるとか、今日の遠足雨が降るんじゃないかしら?」

 「そ、そこまでひどくないでしょう? ひどくないよね?」

 「……」


 ティノが冗談を言い、エレナが狼狽えながら、操を見ると、操は視線をずらした。

 そうして、一つ食べると、全員が目を見開いた。


 「な、なんですのこれは……。お店の味に勝るとも劣らない」「いや、これすっごく美味しい。コージのにも負けてないよ」「確かに。ラストに凄い爆弾持ってきたわね」「おいしいよエレナー」「うん。これはいいお嫁さんになれるんじゃない?」「あまりの美味さに嫉妬しちゃう」


 エレナがテレテレと朱くなりながら、恐縮している。

 だが、最後の最後に最大級の爆弾を起爆させたのは操だった。


 「違うよー。それは、エレナの彼氏が作ったんだよね。ねー、エレナー」

 「「「「「「!?」」」」」」

 「ちょ、操!?」

 「いいじゃんいいじゃん。可愛くおねだりしたんでしょ」

  「「「「「「!?」」」」」」


 唯の周りが色めき立っていた。

 そこは、さながら真夏のビーチのようで。


 そこに入っていいのか分からず、先程まで『LOVELOVELOVE』を歌っていた明石•エルヴィン•湊がマイクを渡した。


 「湊くんが意外な曲歌ってて、びっくりだよ」

 「ホント」「ほんとにね」「でも、今の空気に合ってた」「エレナのいいBGMになってたっしょ」

 「あ、ありがとう」


 照れている湊は、差し出されたクッキーを食べて、「上手いなぁ。彼氏さん、エレナのこと思ってるんだね」と言い、エレナは卒倒しそうな程、真っ赤になった。


 「じゃあ、あーしから歌ってくかー」

 待ってましたとばかりに麗華が大きく拍手した。

 「じゃあ、行くよー、それじゃあ『ダダダダ天使』!」

 軽快なリズムがバスの中に響いた。


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