番外編75 一方その頃/和スイーツ対決
星羅が光司とデートに行ったあと、残された四人は椅子に座った。
そして、星羅が作ったお弁当の残りを見ていた。
「まさか星羅さんがこんなに出来るとは思いませんでした」
「あたしと一緒に特訓したんですよ」
「なるほど、道理で……」
四人でそれぞれ食べると、目を見張って「おいしい! おいしい!」と騒いでいた。
「星羅さんって結構なんでもできますよね」
「そうだねー。覚えた分全部吸収するもんね。一番のライバルかも」
「え、そうなんですか?」
早矢が驚いて聞き返した。
「多分うちで一番なんでもやってるのが星羅かも」
唯が腕組みしながら答えた。
「放送委員でお昼にラジオやってますもんね」
「しかも週一に昇格しましたしね」
静と寧々が淡々と答えた。
「園芸部員でもありますね」
「うちの庭いじりもそうですね」
「あーしもやってるよ?」
「あたしもやってます」
唯と寧々が張り合った。
「あと、英愛学園に数多存在するファンクラブの会員数が一位ですね」
「ファン……クラブ……?」
「それ、あーしも初耳なんだけど」
「あたしも知りませんでした」
「わたくしもこの前、理事会で知りました」
静が不満そうに答えた。
「みなさん、理事の仕事忘れてますよね?」
「いやぁ……」
「あうぅ……」
「それ、うちもやった方がいいですか?」
「ええ、是非。寄付もあれば尚いいですね」
「……分かりました」
そこで、トーンダウンしてしまう。
残った料理を静がつまようじで刺しながら食べていく。
「そんなに星羅さんがいろいろやってるなら、うちらも何かした方がいいですね」
「ほうほう。早矢っちやる気だねぇ。で、何すんの?」
「えーっと……」
そこで、黙々と食べる静を見る早矢。
「りょうり……」
「りょうり?」
「そうです。星羅さんが光司さんの胃袋を支配するのなら、うちらもそれが出来て当然ではないでしょうか」
立ち上がり力説する早矢。
「なるほど。それはいいですね」
「でしょう」
「でも何を?」
「…………」
静かに席に着く早矢。
「ちなみに前回、唯さんの時はどうしていたんですか?」
早矢の疑問に静は嬉しそうに語った。
「星羅さんとハシビロコウについて話し合いました」
「は、ハシビロコウ!?」
「はい。星羅さんがわたくしはハシビロコウに似ていると。もう嬉しくって嬉しくって」
「は、はぁ……」
「そんなこと話してたんだ……」
早矢と唯が軽く引いていた。
「思わず上野動物園まで星羅さんとお出かけしようとしたんですが、そこで寧々さんが帰ってきまして」
「あんまり、思い出したくないですね」
苦々しい顔をする寧々。
「どしたん?」
「いえ、それはちょっとシークレットでして」
「そうですね。ふふふ……」
「ふふふ……」
静と寧々が悪い顔をしていた。
「じゃあ、今度さ、遠出しようよ」
「いいですね。ハシビロコウがいるとことがいいですね」
「そんなに好きなんですね」
「ええ、それはもう」
「ちなみにどこで会えるんですか?」
静はスマホなど見ずに、立ち上がって言った。
「上野、千葉、那須、掛川、神戸、松江、香南ですね。あ、千葉は今お会い出来ませんでした」
「そ、そうなんですね」
残念そうな顔をして着席した。
「では、旅行計画も含めて考えましょうか」
「でも、それは星羅が帰ってきてからにしましょうか」
「そうでした」
やはり、イベント事は全員で決めたいらしい。
「では、今日はどうしましょうか」
「寧々さん、農さんのところへは行かないのですか?」
「今日は予定があるそうです」
寧々と懇意にしている謎の人物について、今回も正体は露わにならなかった。
そこで、唯があることに気づいた。
「そういえば、星羅の作ったのって、ほとんど洋風だよね」
「この手毬おむすび以外はそうですね」
「じゃーさ、和スイーツ作らない?」
「「「和スイーツ?」」」
三人が首を傾げた。
「そうそう。少し暑くなってきたしさ、すこしさっぱりしたスイーツ食べたくない?」
「それはいいですね」
早速作る気満々の寧々。
だが、唯がやんわり止めた。
「や、今回はあーしと早矢で作りたいんだけど」
「ほぇ?」「え?」「ほう……」
そうして、唯と早矢とで和スイーツ対決が急遽始まった。
何故か、二人とも割烹着姿に着替えていた。
「ふふん。ただの和スイーツじゃないよ。コージが好きそうなのを作るんだよー」
「ええ、もちろんです。和といえば、うちですからね」
「伊達に和スイーツ極めてないよー」
「おや、でしたら相手にとって不足はありませんね」
そうして、バチバチとさせながら調理が始まった。
もちろん、審査が必要だと思い、静と寧々は審査席を設置した。
「わたくし達二人でいいんでしょうか」
「そうですね……」
ちょうどその時、チャイムが鳴った。
「待って。え、なんで料理対決してるの!?」
真っ先にツッコミを入れたのはエレナの親友、宇慶操。
黄緑色の訪問着を着せられていた。
袖を上げて、頬を染めていた。
「いやぁ、来てよかったー。ナイスわたし!」
ガッツポーズで悦びを最大限に表しているのは、1組の食いしん坊の海道・メリー・エレナ。
真紅の訪問着を着せられており、その表情は満足げだ。
「まさか、毎回このようなことをしているんですか?」
戸惑いを隠せないのはお嬢様である九条麗華。今回一番味にうるさいであろう人物だ。
彼女も真紅の訪問着を自ら着付けた。それは完璧でありどこか誇らしげだった。
「あーくし、今日という巡り合わせに感謝感激ですわ」
黄色の訪問着を自ら着付けたのは、4組四天王の一人、賀茂紫音。
唯と夏の制服の改造について打ち合わせしようと来訪したのだった。
「1組ばっか、毎回ずるいの」
ピンクの子供用の着物を着せられているのは、4組の平安奈。
今日も紫音に小脇に抱えられての登場だ。
「待ってくれ。どうしてボクも女性ものの着物なんだ?」
真紅の振袖を着せられているのは、1組の優等生狭山悠真。
薫に次いで中性的故、いつか女装させようと1組女子全員から、虎視眈々と狙われていたことに本人は気づいていない。
「まさか、留守だとは思わなんだ。しかし、審査する側になるとはな」
どっしりと構えているのは、1組副委員長の米沢鷹臣。
流石に紋付袴姿である。その姿は、どこぞの重役やパーティに参加している政治家にしか見えなかった。
そして、静は紫色の着物を着ており、寧々は水色の着物を着ていた。
「しかし、珍しい組み合わせですね」
「確かに」
静と寧々は七人の友人達を見て言った。
「ワタクシは唯さんに用があって来ましたの」
麗華は頬に手を当てて言った。その仕草はどこからどう見てもお嬢様であった。
「わたしは何か美味しそうなものが食べられそうな気がして」
エレナはエレナだった。
「エレナといると退屈しないし。てか、まさかお菓子の匂いがするってだけで来るとは思わなかった」
「エレナさんはここ最近よく来ますしね」
「ええ。毎回沢山召し上がっていかれます」
「何してんのアンタ」
静と寧々のどこか呆れた声に操はただただ呆れるしかなかった。
「まさか唯様がお菓子をお作りになられるなんて」
唯信奉者の紫音は安奈を放って、作っている様子をじっと見ていた。
「確かに。これはすごく勉強になるね」
「ああ。次回はこれを教えてもらいたい」
「いいね、それ」
「ああ」
悠真と鷹臣も一緒になって唯と早矢のお菓子作りを真剣に見ていた。
尚、安奈は静に抱きかかえられていた。
「さぁさ、安奈さんはわたくしとお話しましょう」
「助けてほしいのー」
そして、いつもはお茶を点てている静は安奈にご執心の為、今日は寧々が和室でお茶を点てていた。
「随分と賑やかになりましたねぇ」
いつでも友人の来訪の多い須永家。
これ以上の来訪は手に負えないと、玄関には『CLOSED』と飲食店の如く、看板が掛けられていた。
そうして話しているうちに料理が出来上がったようだ。
まずは早矢から。
「こちら抹茶の三重奏、京の風を添えて、です。(……これでいいのかな?)」
それは、三層仕立ての抹茶のお菓子で、一番上は抹茶のムース。二層目は抹茶のテリーヌ。最下層は、抹茶の寒天になっていた。
シンプルながらに、それぞれ食味も食感も異なっていた。
一番上には抹茶パウダーが吹きかけられていて、高級感が増していた。
続く唯はほうじ茶のミルクプリンだった。
「にっしっしー。やっぱ暑かったらプルプルだよねー。あーしはほうじ茶のミルクプリンっしょ!」
一番下には濃いめのソース。その上にミルクプリン。その上には豆乳のクリームときな粉餅と小豆が添えてあった。
「これはまさしくワタクシ向けですね。……素晴らしいですわ。是非ともうちでお出ししたいくらいですわぁ」
目に沢山のハイライトを入れて感動する麗華。
お嬢様らしからぬ勢いで、ペロリと平らげた。
「すごい! すごいぞこれは!」
「ホントだね。これは芸術品だよ」
インスタ映えを意識している女子のようにスマホでいろんな角度から写真を撮るのは、鷹臣と悠真だった。
一口口にすれば、満面の笑顔で顔をしわくちゃにしていた。
「おいしー! もうわたし、ここに住む」
「それは迷惑でしょ。それにうちのお兄ちゃんどうすんの」
「あ、そっか」
大絶賛で勝手に住むと言い出すくらいだ。
そんなエレナの手綱はもはや操の手にも余るのかもしれない。
「唯様も早矢さんもどちらもプロですね」
「わたし、決めたの! 御坂唯! うちのクラスにくるといいの」
「それはいいご提案ですわ」
「ダメですわ」「ダメよ」「ダメっしょ」「ダメだな」「うん。ダメだねぇ」
みんなから速攻でダメ出しを食らったが、気にせず黙々と食べていた。
残すは、静と寧々の論評だ。
唯は割烹着を握り、早矢は両手を握って待っていた。
その様子に、これは撮影か何かなのだろうかと、騒ついていた。
「ふむ」
そう言って、静はメガネを取り出してかけた。
寧々も静から渡されたメガネをかけた。
「……素晴らしいですね、ではまず早矢さんから。
上からふわっと解けるムース、濃厚で舌に纏わりつくテリーヌ、そして最後にするりと喉を通り抜ける涼やかな寒天。
同じ抹茶というテーマの中で、これほど見事に『食感のグラデーション』を表現されるとは。
最上層の抹茶パウダーのほろ苦さが全体を引き締めるアクセントになっていて、まさに計算し尽くされた美しさです。
……『京の風』、しっかりと届きましたよ」
「「「「「「「京の風……?」」」」」」」
静の長すぎる論評にみんな戸惑っていた。
続く寧々も軽くメガネのフレームに触れてから語った。
「ふふ、早矢さんらしくてとっても上品でステキです……!
テリーヌの濃厚さを寒天のさっぱり感で受け止めているから、三層一緒に口に入れたときのバランスが完璧ですね。
抹茶パウダーのかけ方も高級感があって……お店で出されたら、私、真っ先に注文しちゃいます。
三つの食感を一度に楽しませてくれるなんて、早矢さんの優しさがそのままお菓子になったみたいです」
「ありがとう……ございます」
戸惑いながらも、感謝を述べて、ホッと胸をなでおろす早矢。
どうして、家でこんなに緊張しなければいけないのか分からなかった。
「では、次は唯さんですね」
「あっ……うん」
流石の唯も緊張していた。
自分で言いだしたことなのに、ここまで大事になるとは思いもしなかったからだ。
「ふふ、さすがは唯さんですね。
見た目の華やかさと『食べやすさ』を両立させるセンスは流石ですね。
ほうじ茶の香ばしい苦味とミルクのまろやかさが絶妙で、底にある濃いめのソースが全体の味をグッと締めくくっています。
そこに豆乳クリームのコクと、もちもちのきな粉餅、小豆の食感まで加わって……一口ごとに表情が変わる。
暑い季節にぴったりの、実に遊び心に溢れた名作ですよ」
そこでメガネを外した静。どこか優しい顔をしていた。
「唯さん、これすっごく美味しいです!
ほうじ茶の香ばしさとミルクの甘さがすっきりしていて、全然重たくないのがすごいですね。
それに、上に乗ってるきな粉餅と小豆がちょっとした和菓子風のトッピングになっていて、食感も楽しめて大満足です!
暑い日にクーラーの効いたお部屋で冷たくして食べたら、もう幸せになっちゃいますね……!」
続く寧々もメガネを外して、ニッコリと微笑んだ。
「ありがとうー」
感謝を言うが、どこかその声は震えていた。
「ねぇ、いつもこんなことやってんの?」
「というか、ガチ審査すぎない?」
「わたしの感想が恥ずかしいんだけど」
「審査の勉強になるな」
「というか、こういうのに慣れてる光司さんって一体……」
「あ、それわたしも思ったの!」
「まぁ、美味しければいいじゃない」
それぞれが、寧々の点てたお茶を飲んで、一息つくと、それぞれ『唯』『早矢』と書かれた札をあげた。
「結果は……唯さんが4票、早矢さんが5票ですか」
「早矢っちおめでとー」
「あ、ありがとうございます」
そうして、急遽始まった品評会は終わった。
そして、その後は、寧々と静も参加したお菓子パーティが始まった。
友人達が帰路に着くのは、星羅がデートをしていることを知り、二人が帰ってくる十分ほど前だった。




