番外編68 お魚さんを見に行こう8
ホクホク顔の早矢と静。
少し不満そうなユイと寧々と星羅。
「ほら、もう少しで始まるぞ?」
「そうだね。ほら、切り替えてこ?」
「そうね」「そうですね」
やっぱりユイはお姉さんやってるな。
今度はゴマフアザラシのもぐもぐタイムらしい。
三人の飼育員さんが出てきて挨拶していた。
もちろん、ユイ、寧々、星羅が手を振って応じていた。
静は当然撮影中だが、よく見たら、小さく手を振っている。
さっきもやっていたのかな?
俺と早矢はベンチに座って見ていた。
心なしかピッタリくっついてる気がする。
……。
「!」
俺も少し早矢側に寄ってみた。
「もう……。ズルいです」
顔を朱らめて、プイッとアザラシの方へ顔を向けてしまった。
アザラシ達はいろいろパフォーマンスを見せてくれた。
みんなもそれに応えるように手を上げたり、振ったりしてた。
モニター越しに詳しく説明をしていたが、結構勉強になるなぁと、つい前のめりで見てしまった。
早矢が、「ふふ」と言いながらも、俺よりアザラシの方を楽しんでくれて良かった。
しかし、食べ終わったあと、変な体勢で寝ていたが、大丈夫なんだろうか?
それをずーっとみんなで見てしまっていた。
「光司さんの寝ている時そっくりです」
「毎回言われるなぁ」
「ほら、これそっくりです」
寧々が見せてくれたスマホには、俺がソファの背もたれの上のところに顎を乗っけて『を』みたいな形で寝ている写真だ。
確かにそっくりだわ。
ユイと星羅もそんな寝姿のアザラシを撮っていた。
次のもぐもぐタイムはカワウソだな。
先週もコツメカワウソのもぐもぐタイム見たな。
「前回はコツメカワウソとユーラシアカワウソを見ましたね」
「今回は……カナダカワウソですかー」
「おっきいねー」
一匹水中で楽しそうに泳いでいた。
「こんなにカワウソさん見れて良かったわね」
「ええ」
感極まった声で静が返答する。
ずっと撮影しっぱなしだが、バッテリー大丈夫か?
「そういえば、静の部屋のカワウソはなんの種類なの?」
「静親衛隊のカワウソ隊員達は、ヒトミカワウソです」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
「なんで自分の名前付けてんのよ」
「いいではないですか。ふふっ」
少女のような顔で微笑む静。ホントにカワウソ好きなんだな。
そんなことを話していたら、カナダカワウソのもぐもぐタイムが始まったらしい。
今度は二名の飼育員さんが登場した。
一匹は上で。もう一匹は下の水辺にいる。
上にいる方はカワウソについての解説をしていたが、下ではいろいろパフォーマンスをしている。
いつ話し合ったのか分からないが、苦笑しながら早矢が上の方のカワウソを。下の方を静が撮影したいた。
俺の視線も忙しくなるというものだ。
しかし、さっきのアザラシといい、このカワウソもちゃんと躾けられているんだな。
すごいお利口さんだな。
前は小言が聞こえたが、今はそんなこと微塵も思ってないらしい。
一秒でも多く目に焼き付けたいらしい。
そうして、もぐもぐタイムが終わり、三箇所を何往復もして、エトピリカ、アザラシ、カワウソを堪能していた。
そんな様子を早矢と二人で椅子に座って見ていた。
「いつもこうなんですか?」
「ああ。楽しそうだろ?」
「ええ。ですが、光司さんはいいんですか?」
「何が?」
「恋愛したいんじゃ」
確かに、そうだった。
早矢に面と向かって言われて、そうだったと、改めて思い直された。
だが、俺が望んだことは叶ってはいるんだ。
「前はそうだった」
「前……は?」
「ああ。前にも同じようなことがあってな。その時は全部求めろって言われたんだよ」
早矢は黙って聞いていた。
「ただ、今はこうして早矢がいる。そして、ユイ、寧々、星羅、静とみんなと暮らせている。俺が望んだのは、みんなと家族として暮らすことだったんじゃないかって思ってな」
「家族……」
「そう、家族。確かにみんなはオンリーワンになりたいと願うのかもしれないし、それを求めない俺も卑怯なのかもしれない」
「……」
「ただ、あの日願った理想の形が今なんだ。もし、そこから先に進むには、きっとまだ何か、俺の気付いてない欲が必要なんだと思う」
「それは、……子供でしょうか?」
「半分はそうかもしれない。でも、それもある意味叶ってはいるんだ」
早矢は複雑な表情をしていた。
無理もない。
俺は結構、自分勝手なことを言っている自覚はある。
確かに彼女達には失礼なのかもしれない。
でも、前提条件が違うんだ。
恋愛だけじゃなく、それぞれが夢中になれるものも見つけてほしいと思ってしまったんだ。
ユイ達四人を見る。
あんなにはしゃいでまぁ。
そんな様子を早矢と二人で眺める。
「決めました」
早矢が、そんなことを言いながら、俺に向き直る。
「うちは、光司さんと二人三脚で、あれこれ言い合えるようになります」
「それは、どうして?」
こう聞くのはズルいのかもしれない。
でも、理由も知りたくなった。
「うちは、今まで少し俯瞰して見てました。全体を見て最適解を出す。でも、そのやり方があまり良くないなと思ったんです」
一息ついて、早矢は続けた。
「うちも積極的にいかせてもらいます」
「お、おう」
「手始めにキスしましょう」
「は!?」
「エトピリカさんもツガイはキスしてました。ここは、愛を確かめ合う為にも、するべきです!」
そんなことを、大真面目に迫る早矢。
そして、『キス』という単語が出れば、他の四人の耳にも届こうというもの。
「早矢っち、今キスって言った!?」
「早矢さん。キスはまだ早いです」
「そうよ。わたし達だってまだなのに」
「そこに至った理由をお聞かせください」
ほらね。速攻で戻ってきたよ。
アザラシさんが驚いて三匹とも立ち泳ぎでこっちを見ている。
カワウソさんも、泳ぐのをやめてこっちを見る。
「な、なんで邪魔するんですかー」
「まあ、いつも大体こうなる」
「くぅ……」
俯き、顔を真っ赤にする早矢。
その後、サメの赤ちゃんを見てから、淡水魚のコーナーへと歩いて行った。
みんなで、「赤ちゃんかぁ……」と言っていたが、俺は気づかないフリをした。
俺はズルい男だからな。
「ヤマメにイワナですか」
立ち止まって眺める。
確かに都会に住んでると、淡水魚ってレアかもな。
「あー、確かに、釣ってバーベキューとか楽しいかもね」
「ですよね。お肉とお野菜も用意して」
「おにぎりも必要よね」
「夏休みにいいかもしれませんね」
確かに一つイベントが決まったが、昔みたいに、そこら辺の川辺でできなくなってるからな。
ちゃんとした施設でやらないといけない。
まぁ、ゴミとか騒音。あと水質汚染なんかもあるな。
それに、全員で釣るとなったら、漁券が高くつくんだが……。
まぁ、その時が来たら考えるか。
しかし、殊の外、早矢が考え込んでいた。
「(キャンプ……)」
俺にだけ聞こえたその単語は、結構難易度高いんだが。
俺はその場で、車にテントやら調理器具が載るかを考えてしまった。




