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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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番外編64 お魚さんを見に行こう4


 順路に沿って下っていくと、そこには大きな水槽があった。

 「わー!」

 「はぇー」

 「おおっ!」

 「これは……!」

 「凄いですね」

 坂の途中で止まり眺める。


 頭上を様々な魚が泳いでいる。

 しかし、なんといっても圧巻なのが、イワシの群れだろう。

 それは青い夜空を征く無数の流れ星のようで、煌めく水面と反射して水色に輝く魚影が綺麗だった。

 その中を優雅に泳ぐエイが、そこが海の中であることを教えてくれた。


 「わぁ、すごい……」

 「きれい……」

 「これは、圧巻ですね……」

 寧々、星羅、静がそれを見て、息を飲む。


 「うわぁ……」

 「ほぉ……」

 ユイと早矢がため息を漏らしながら眺めていた。


 イワシの群れが、ぐるぐると大きな魚影を作りながら泳いでいく様はなんとも、神秘的だった。

 しかし、サメはずっと下で休んでいる。

 のんびりと過ごしていて、なんとも自由気ままで、その対比が面白い。


 あくせく動いてる寧々に、掃除の邪魔だと追い立てられる星羅と静みたいだ。

 その周りを優雅に泳ぐのはユイらしい。

 そんなエイやサメの間を縫うように泳ぐのは早矢だろうか。


 そして、暫く見てから下へ行くと、そこはさらに圧巻だった。

 なんといってもパノラマの水槽は、先ほどまで見ていた世界をさらに広げていた。


 その青の世界は目まぐるしく姿を変えていった。

 しかし、あんなにも小さな群れが大きな姿になるのは、なんか心を動かされた。

 昔読んだ本のようで、みんなで集まれば、大きな成果を出すことができると教えてくれているようだ。


 俺達は青の世界の前で横一列になってそれをただ眺めていた。

 周りの雑音も機械の音も気にならない。

 ただ、海中の静寂に身を委ねていた。


 「ホントに凄いですね」 

 「ああ、ホントにな」

 「マジ凄いっしょ」

 「ホントよねぇ」

 語彙力まで溶けていったようだ。凄いしか言えない。


 青い海の中でイワシの大きな群れが光を纏って回遊している。

 その周りを他の魚やエイが泳いでいる。

 本当は過酷な生存競争であるはずなのに、とても幻想的だった。


 「あのエイかわいいね」

 「サメさんも可愛い顔してます」

 「あれは顔じゃないんだけどな」

 ユイと早矢の感想で現実に引き戻された。


 だが、いいタイミングだと思った。

 そのまま吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗だった。

 それが、次は可愛いときた。その感性は大事にしてほしいなとも思い、俺はつい笑ってしまった。


 「もう、何がおかしいんですかー?」

 「いや、急に可愛いこと言うから」

 「ダメなん?」「ダメなんですか?」

 「いや、いいと思う」

 ユイと早矢の頭をポンポンと撫でてしまった。つい、な。


 「唯さん、早矢さん、ニコニコ笑っているように見える愛らしい口と鼻の穴は鼻孔です。そしてエラの穴は鰓孔というのです。ですが、可愛いのでそんなことどうでもいいんですけどね」

 可愛いもの好きの静としては、かわいいだけで良かったのだろうが、性格的に一応説明しないと気が済まなかったのだろう。


 「サメも同じですね。下から見ると顔文字みたいですね」

 「そうね。ぷにぷにの白いお腹は見ているだけで癒されるわね」

 寧々も静寄りの感想を抱くが、星羅はやはり独特の感性を持っているようだ。

 そうして、暫くその様子をあれこれ言いながら眺めていた。


 「じゃあ、そろそろ行こっか?」

 「そうですね」「そうね」

 寧々と星羅が俺に続くと、ユイと早矢と静も名残惜しそうに踵を返した。


 「あ!」

 ユイが指を指して何かを見つけたようだ。


 「どうした?」

 「エイが、バイバイってしてるように見えたからさ」

 「あ、ホントですね。ヒレが手を振っているように見えますね」

 「本当にバイバイってしているように見えますね」

 何匹ものエイがこっちにお腹を向けてヒレをヒラヒラとさせていた。


 「偶然ではなさそうですね」

 「可愛いとこあるのね」

 暫くエイと何匹かのサメがその場から去るまで待ってから、次のフロアへ向かった。

 エイ達は優雅に奥の方へと泳いでいった。


 次のフロアはクラゲのコーナーのようで、いろんなクラゲが展示されていた。

 意外と小さく、クラゲは全部大きいもんだと思っていた。


 そして、奥へと進んでいくと、ミズクラゲの水槽が二つあった。

 「おお!」「おぉ!」「わぁ!」「ほぅ!」

 ユイ、寧々、星羅、静がそれを見て感嘆の声を漏らした。


 「ど、どうしたんですか?」

 早矢も、「わあ!」と声を漏らしたが、四人の表情を見て違和感に気づいたようだ。


 あの日を思い出すな。

 そして、それは四人も同じだったようだ。


 「や、その……ねぇ」

 ユイが顔を朱らめながら寧々を見る。


 「ええ。あの日は始まりでもありますから」

 慈しむような笑顔で静を見る寧々。


 「確かに、まだわたくし達もぎこちなかった頃ですね」

 チラッと星羅をみる静。


 「確かにね。一番キザだった頃よね」

 星羅は一人、水槽の前へと進み、振り返った。


 「あの時は静が最初に始めたのよね」

 「へぇ。どんな感じなんですか?」

 早矢が目を輝かせて続きを求めた。


 「じゃあ、光司ちょっと来て」

 「ええ、他のお客さんもいるから、ちょっと……」

 ベンチも用意してあり、他のお客さんも座ったり、水槽の前に立って眺めている。


 俺達も階段を降り、水槽の前に立っているが、ちょっと気恥ずかしい。

 他のお客さんは、全く意に介していないが、あの時の再現をしたら、それこそ俺の顔はチンダル現象よろしく真っ赤っかになってしまうだろう。それこそメンダコのように。


 「もう、仕方ないわねぇ。静」

 「はい。では、早矢さんにあの時のことをお教えしましょう」

 そう言って三人でベンチに座って共有しだした。


 早矢は両手で口元を隠して、目を大きく見開いて興奮していた。

 まぁ、少し気恥ずかしい気もするが、まぁ通過儀礼みたいなもんだしな。


 俺はユイと寧々の三人で逃げるように奥の方へ移ってクラゲを見ていた。

 あの二人は変に脚色をしないことを祈るばかりだ。


 「やはり、クラゲさんがいっぱいいると星空のようですね」

 「さっきのが天の川なら、こっちは満点の夜空だな」

 「あれれー、コージがそんなロマンチックなセリフ言うなんてー」

 「ちょ、茶化すなよ。そう思ったんだから」

 「いやいや、いいと思うよー。もっとキザっぽいセリフ、普段から言ったらいいのにー」

 「それは、いいですね。最近鳴りを潜めてますから、ここはリバイバルを兼ねて言っていきましょう」

 「えー」

 二人が期待に満ち満ちた目で俺を見てくるが、そんなの無理に決まっているだろう?


 「いえ、ここは、うちにも一つ何か言ってもらいたいですね」

 早矢の声がしたので、振り返ると、早矢を筆頭に、星羅と静が後ろでニマニマしていた。


 「言わないとダメだよな?」

 「もちろんです」

 辺りを見ると、なぜか先ほどまでいたお客さんが誰もいなくなっており、クラゲの水槽は紫色のまま変わらず、クラゲもその場で動かなくなっていた。


 「静さんは、光司さんを見つけると。唯さんはみんなで見つけると。寧々さんは帰ってくる場所になりたいと言い、星羅さんは捕まえにいくと」

 確かに言ったな。要約しすぎだが、合ってる。


 「うちにも送れなかったメッセージ。ありますよね?」

 それも聞いたのか。……参ったな。


 頭を掻いて、後ろを向くと、ユイと寧々が優しい顔をして見守っていた。

 「いつかそれを聞くのを楽しみにしてますね」

 「ああ。分かった」

 時間にして数秒くらいなのだろうが、とても長く感じた。


 「うちは、寧々さんに近いですね。光司さんがいつでも戻ってこれるように横はキープしておきます」

 「あっ、ずるい!」「そうです! ちょっと踏み込みすぎです!」

 後ろでユイと寧々が俺の前に割って入った。


 「いいじゃないですか。唯さんも寧々さんも、あれから少し進んだんでしょう?」

 「いやー……どうかなー」「そう……ですね」

 なんだ? 俺は進んでると思ってるんだが?


 「光司さん、答えを聞かせてください」

 「あ、ああ……」

 そうだな。なんて言ったものか。と言っても、これしかないんだよな。


 「みんなでずっと、同じ景色をこうして、見れたらいいな」

 チラッと静を見る。


 「ふむ。79点」

 「1点追加ね」

 「むぅ……厳しいな」

 早矢を見ると、ぽかーんとしていた。


 「どうした?」

 「いえ、低いな……と」

 「そうだよな?」

 「でも、もう少し光司さんの願望とかを言ってもらえたらいいかなとも思ったので、まぁ妥当……ですかね?」

 「だってさ、光司」

 ニンマリと笑いを堪えてるような顔で星羅が言う。

 言いたいことあるなら、言っていいんだぞ?

 気がつけば、水槽の色はピンクや緑、水色に黄色と変わっていて、クラゲもプカプカしながら動いていた。


 「では、早矢さん」

 「はい、なんでしょう」

 静は早矢の手を取った。

 それを見て、首を傾げた。


 「クラゲの水槽の前で告白したら、踊る。これは須永家の必須行事です」

 「えぇ!?」

 静に手を取られ踊る。

 前もあったなぁ。

 だが、早矢の踊りは完璧で、静は未だにぎこちない動きをしていた。


 「おかしい」

 「おかしいのはあんたよ静」

 星羅が呆れた顔をして、ため息を吐いていた。

 ユイと寧々は二人で手を繋いで踊っている。

 気がつけば、お客さんも集まっていた。


 星羅は顔を朱らめながら、手を差し出してきた。

 「ほら!」

 でもなぁ。お客さんいっぱいになってきたし。

 俺はその手を掴んで、次のフロアに向かったのだった。


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