番外編63 お魚さんを見に行こう3
入ってすぐにお土産コーナーへカニさん歩きで近寄る静。
「ちょ、静、まだ早いわよ」
「すいません。わたくしとしたことが」
「星羅さんもですよ」
ミイラ取りがミイラになるように、奥にあるぬいぐるみを見て、右に左に揺れる星羅。
そうしたら、みんな気になるんだろうが、グッと堪えたようだ。
だが、下口唇を噛まなくてもいいんじゃないか?
「で、静はやっぱり年パスなんだな」
「? 当たり前じゃないですか」
何を変なことを聞くんだと言った顔をする静。
だが、ここまでどうやってくると言うんだ?
俺の意図を汲み取ったのか、ウインクする静。
仕方ないな。
那須のどうぶつ王国の年パスあれば、少し割引が効くのだが、やはりというか、みんな年パスにするんだな。
「当たり前っしょ」「当たり前ですよね?」「当たり前に決まってるでしょう」「当たり前なんですね。……まぁうちも年パスにしましたけど」
まぁ、この辺はよく来る気がするから、年パスでも問題ないか。
と、いうことで、中に入る。
入ると、右手に今日のイベントスケジュールが載っていた。
やはり、静はスマホで撮影して確認する派なんだな。
そして、左手には円柱形の水槽があり、魚やイカが泳いでいた。
「こんなこと言ったら失礼だけど、美味しそうだよな」
「お昼はお寿司にしましょうか?」
「海鮮丼って、手もあるわよ」
そんなことを言われてるとは思わずに、優雅に泳いでいた。なんか、申し訳ない。
そうして、緩やかな坂に差し掛かる前に、右手に小さな水槽があった。
なんだろうかと、中を見ると小さな生物がたくさん泳いでいた。
「クリオネですね」
「へぇー。こんなちっちゃいんだー」
「あたしも、もっと大きいものだと思ってましたー」
俺も、もっと大きいものを想像してたんだが、現実には、かなり小さい。メダカより小さいな。
「あれ、これ死んでる……ワケじゃないよね?」
「全然動かないわね」
「え、大丈夫なんですかね」
下の方で、固まったままのクリオネ。全く微動だにしない。
しばらくみんなで見ていた。
そして、一、二分すると、泳ぎだした。
「「「「良かったー」」」」
「あれは、『省エネモード』なんです。クリオネって、一回エサを食べたら一年くらい動かずに絶食しても平気なんですって」
「「「「へぇー」」」」
意外なことに、寧々が解説してくれた。
「補足すると、驚異の飢餓耐性を持っていますので、動かない時間は、食べたエサのエネルギーを極限まで長持ちさせるための『お休み時間』なのだと言われてます」
「「「「へぇー」」」」
寧々と静は博識だなぁ。しかし、これ巻貝の一種なんだよな。俺にはそうは見えないが、大きくなったら分かるんかな?
「ちなみに、クリオネは、水流に逆らって泳ぐことは出来ませんからね。パタパタと可愛く動かしてますが、流れがないところ限定ですね」
「寝ぼけた唯にホールドされたときの光司みたい」
「あの、それはどういう状況で……」
早矢が困惑を隠そうともせずに聞いた。
「早矢も一度体験してみたらいいわ」
「え?」
「そうだな。ものは試しだな」
「ええ。それがいいでしょう」
早矢の顔がどんどん曇っていく。
「ちょ、待つし。あーしそんなに酷くないし」
「尚のこと早矢さんの評価待ちですね」
早矢の顔は外の天気同様に曇天だ。
「ちょっとー、もーやめてよねー。てか、静っちも結構凄いじゃん!」
「そ、そうでしょうか?」
「あと、星羅も」
「まさかー」
抱き枕同盟の三人の持つ抱き枕は全部くの字やWの形になるほど、中の綿が断絶しているからな。
よく、ユイがリビングで星羅と静のと合わせて、詰め替え作業しているのを見る。
「でもさー、一年に一回しか食べられないのなんて、あーしは耐えられない」
「ええ、わたくしもです」
「え、なんで?」
「だって、コージのご飯食べらんないじゃん」
「一字一句同意です」
ユイと静が言うと、寧々、星羅、早矢が何回も頷いた。
俺としては、楽でいいと思うんだけど、と思ったが、ふと社畜時代を思い出して、頭を振った。
ちゃんと食べる方がいいな。
そんな感じで、クリオネの前でかなり見入ってしまった。
そのまま緩い坂を下る途中、右手に長い水槽があった。
水槽というより、池かな。断面が見える感じだ。
黄色と黒の横縞柄の魚が沢山泳いでいた。
その間をいろんな種類の魚が泳いでいる。
「伊勢海老もいるみたいですね」
「え、どこどこ?」
「え、いる?」
うっすらと岩陰に潜んでいた。
「あれじゃないか?」
「おー、いたー」
「わたし、伊勢エビって食べたことないのよね」
「あたしもですね。光司さん」
それは、食べたいってことなんだろうか。
そんなことを口々に言うもんだから伊勢エビさんは隠れてしまった。




