番外編59 もふもふさんに会いに行こう17
それは光司が寝た直後に遡る──
「コージ寝ちゃったねぇ」
「まだ二十一時よ?」
唯と星羅が時計を見ながら言う。
「仕方ありません。結構お疲れですからね」
「じゃあー。まだまだ時間あるし、今日のこと話そうよ」
「ええ、いいですね。賛成です」
寧々がお茶を用意して、全員が語り合う態勢になった。
星羅がこんな時間だというのに、スナック菓子の袋を開けると、唯がチョコ菓子を開け、早矢が和菓子を用意した。
テーブルの上にはパンフレットが開いて置いてあった。
「しっかし、静には感謝しないといけないわね」
「そうですね。まさかこんなに楽しいとは思いませんでした」
「そうでしょう、そうでしょう」
静は満更でもない表情で腕組みしながら頷いた。
「よくここを選びましたねー」
「静、お手柄っしょ」
「そうでしょう、そうでしょう」
鼻高々といった感じで何度も頷く静。
「でも、この中に確実に雨女がいるわね」
「わたくしではありません」
「わたしももちろん違うわ」
「あ、あたしでもないですよー」
「あーしでもないし」
「うちじゃないですよね?」
四人がチラッと早矢を見る。
だが、たまたまだろうと思い、すぐにお菓子に手を伸ばした。
「それにしても、あのハシビロコウには驚いたわ」
「星羅さん、ハシビロコウ先輩。もしくはボンゴ先輩です。間違えないでください」
「わ、分かったわよ。ボンゴ先輩のことになるとムキになるんだから」
「当然です」
「本当に好きなんですね」
「ええ。わたくしの半身みたいなものです」
「そこまでですか!?」
静の様子に驚く早矢。
「ええ。機会があれば神戸の方にも行きたいですね」
「あんたのバイタリティ凄いわね」
「だって、神戸空港からモノレールで一駅です。頑張れば、最終便で帰れます」
「あ、閉園時間までいるんだ」
「もちろんです」
それから暫く、ハシビロコウや他の鳥について話していた。
そして、話題はキャットショーへと移った。
「そういえば、あの猫ちゃんの名前、ネネでしたね」
「でも男の子だったっしょ」
「まぁ可愛いからいいじゃないの」
星羅が寧々の頭を撫でる。
「でも、すごく活発でしたね」
「高いところや細いところをあんなに素早く。まるで……」
「うん。学園での寧々っちそっくりだったね」
「ええ。見事でした」
「…………」
笑顔でおし黙る寧々。
それ以上突っ込んではいけないと、他の四人はお茶の入ったカップに口をつけた。
「どうしました? 続きをどうぞ」
「いや、もう大丈夫です」
唯が視線をずらして言う。
「そうね。次は……」
「まだ終わってませんよ」
星羅が話題を切り替えようとしたが、寧々は逃さないようだ。
「(あの、寧々さんってこんなに迫力あるんですか?)」
「(ここまで迫力あるのは久しぶりです)」
早矢と静がコソコソ言い合う。
「そこ、言いたいことがあるならどうぞ?」
「ないですよ……」「ないですね……」
「そもそも、あたしだけじゃなくて、みんなもできるじゃないですかー、それをあたしだけみたいに言ってー」
お茶をゴクゴクと喉を鳴らして飲む寧々。
ドンっと湯のみを置く。
「ごめんね」
「ダメです。許しません」
「え!?」
普段の寧々と違うことに戸惑う四人。
寧々はミニ冷蔵庫から二本の瓶を取り出した。
それは佐野SAで買った『餃子サイダー』と『佐野ラーメンサイダー』だった。
「これを一息で飲みきったら許します」
もしかしたら、この罰ゲームがやりたくて誘導した可能性があると、四人は気づいた。
寧々が笑いを堪えきれずにいたからだ。
それに、四人もこの飲み物は凄く気になっていた。
光司に飲ませる為に買ったものだが、好奇心の方が優ってしまった。
そして、『餃子サイダー』の方を湯のみに五人分均等に注ぐ唯。
「じゃあ、飲もっか」
「そうね」「そうですね」「死なば諸共ですね」
「え、待ってください。なんであたしまで……」
まさか、自分の分まで注がれると思っていなかった寧々。
「いいから。ほら、ラーメンの方もあるから」
「あっはい」
そうして、一息で口に含むが、喉を通っていかない。
全身で悶絶しながら、なんとか飲みきる。
「はぁはぁ……」
寧々がなんとか飲みきり、起き上がると、湯のみには別の茶色いサイダーが注がれていた。
「寧々が最後っしょ」
「え?」
「ほら……」
「あ、はい……」
さっきよりも多い気がするが、先ほどのサイダーが強烈であったため、そこまで頭が回らなかった。
「あ、こっちの方がまだ……」
「え、ホントに?」
「本当に?」
「では、わたくしも」
「では、うちも少し」
四人がそう言うと、寧々から再び黒いオーラが噴出した。
四人が頭を下げて、昼間佐野SAで買ったホールのチーズケーキを半分差し出してことなきを得た。
五人でケーキを頬張る。
「おいしー」
「おいしいですねー」
「うまっ!」
「これは、おいしいですよ」
「買って良かったですね」
そのまま無言で食べ続ける。
光司の分を取っておこうなどとは微塵も思っていなかった。
それに気がついたのは、綺麗にクリームをこそぎ取った後だった。
しばしの静寂の後、話題を切り替えるように、唯が口を開いた。
「あ、あーし的にはヨタカとビントロングが一番良かったかなー」
「へぇ。それはなんで?」
星羅は分かっているのに、あえて続きを促した。
この場にいるみなが、頬をほんのりと朱らめていた。
それはその二種類の動物の行動か。それともケーキを食べて満足したからかは分からない。
「だって、ヨタカはぴったりと寄り添ってたじゃん」
「はい。オスの方は目を閉じてましたけど、仲睦まじい様子が良かったですね」
「うちとしては、あれはとても理想的でした」
「まぁ、家では唯とかよく光司にぴったりくっついてるけどね」
「サンドイッチみたいになってますよねー」
「いいじゃん! ……でも、あんな風になれたらいいなって思うんだ」
「わたしもそう思うわ」
「あたしも」
「うちも」
「ええ、わたくしも同感です」
そして、またしばしの静寂。各々がその様子を夢想していた。
だがそんな空気をぶち壊したのは、静だ。
「でも、雄が雌に乗っかってましたね」
「あれは、確かにびっくりしたわ」
「大胆でしたね」
「初めて光司の家に行った日の寧々を思い出すわね」
「ぶふっ!」
寧々が驚いて、口直しに淹れたお茶を吹き出してしまった。
「え、どういうことですか?」
「それはねー、寧々が光司の上に……」
「ちょ、星羅! それ以上はダメです」
「これは、あとで共有してもらわないといけませんね」
「も、もうやってないですからー!」
寧々が慌てふためきながら、手をバタバタさせていた。
「一番、抜け駆けにうるさいのに、一番に抜け駆けしたのが寧々なのよ」
「わー! わー!」
「へぇ」
早矢に寧々の黒さが移ったのか、黒い笑顔を浮かべていた。
「まぁまぁ、そこまでにするっしょ」
「そうです。もっと動物さんのお話をしましょう」
唯と静が、よくない流れを断ち切った。
「あと、ビントロングですね」
「そうそう。この子達も、木の上でスリスリしたり、顔をくっつけたりしていて可愛かったねー」
「本当にねぇ。いつもは寝てるらしいわよ」
「いい時に見れましたねー」
「でも、唯も結構光司にべったりしてるわよね?」
「ちょ、星羅っち、今はそれはいいって……」
「唯さん。寧々さん。あとで、詳しく教えてくださいね」
「や、なんもないって」
「そうですよ。もう、なにもありませんってー」
「どうですかね」
次々と地雷をセルフで設置して、セルフで踏んでいく唯と寧々。
あとが怖いなと思ったのだった。
「さて、結構話し込んでしまいましたね」
「もう二十二時半……。そんなに話してた?」
「ええ。それはもう」
それぞれが、寝る準備をしようと寝室を開けると、光司が見当たらない。
更に隣の部屋を開けると、光司が布団を敷いて、端っこで眠っていた。
「全く光司くんは」
「まぁ、こういうところが光司らしいというか」
「直して欲しいところなんですよねー」
それぞれが呆れ混じりに見ていた。
「折角ベッドがあるんだし…………あ!」
「唯さん。うちも同じ考えです。運ぶんですね」
「そう! じゃあ、あーしが」
「待ってください。ここはうちが」
「ここは一番身長の高いわたくしが運ぶべきでしょう」
「いやいや、身長関係ないでしょ。ここは普段重いものを持ってるわたしが」
「いえいえ、普段家事をしている私こそふさわしいです」
そこで五人が輪になって、それぞれの顔を見る。
「仕方ありませんね。ここは大富豪で勝敗を決めましょう」
そうして、急遽始まった光司運搬決勝戦。
結果はというと、静が大富豪で一抜けし、他の四人がカードをまだ持っているにも関わらず、颯爽と光司の元へ向かって、止める間もなく光司をベッドの真ん中へ運んだ。
「んっふっふー」
そして、そのまま添い寝しようとしたところで止めたれた。
「静、そこまでよ」
「なぜです? わたくしが勝ったんですよ?」
「それは光司を運ぶのがでしょう?」
「どういうことです?」
「横に寝ることができるのは今から決めるのよ」
星羅の後ろを見ると、唯、寧々、早矢がニマニマと笑顔を浮かべていた。
「謀りましたね」
「謀ってないわよ。そもそも、運ぶ人を選んだだけで、そこから先はまだ決めてなかっただけよ」
「くっ!」
「ほらほら、やらないなら不戦敗でいいわね」
「いいわけないでしょう。ほら、やりますよ」
そうして、再び戦場に戻った静。
だが、今度の手札はそれはもう、酷かった。大貧民とカードを交換しても酷かった。
「じゃーあー、一位と二位が光司の横ね」
「では、三位は光司さんの寝ていた布団ですね」
「四位と五位は別のベッドで慰め合いながら寝てくださいね」
「言いかたぁ!」
そうして、再び勝者を決めるべく大富豪をやったのだが、なぜかハマって、ポイント制になっていた。
そして、結果はというと、五人がベッドで川の字になって眠り、光司はベッドとベッドの間に挟まっていたのだった。
それは、「ちょっとずつずらせば全員入れるんじゃない?」という誰かの一言が、全ての始まりだった。




