番外編56 もふもふさんに会いに行こう15
「「「「「ああああああああ〜〜〜〜〜」」」」」
浴室に響き渡る五人の声。
「ああ〜。うち、今日温泉来て良かったです」
「そうよね。急遽予定したけど、やっぱり泊まりにして正解だったわね」
「コージへのサプライズにもなったしねー」
「あの、戸惑った顔が可愛かったですね」
「ただ、一緒に入らなかったのが難点ですねー」
寧々が混浴の話題を切り出すと、それぞれの顔が朱くなった。きっと長いこと湯船に浸かっていたからだろう。
それもそのはず。既に二時間近く入っているのだ。
最初は、他の宿泊客の奥様やおばあちゃん。後は海外から来た人などと話していたが、みんなそこそこに出ていった。
流暢な言葉遣いで話すものだから、相手の方がびっくりしていたくらいだ。
「お嬢ちゃん達すごいねぇ」
「オー! パーフェクト!」
などと絶賛され、「いやぁ、それほどでも〜」と、照れていた。
尤も、彼女達にしてみれば、世界中の言語で話すことなど造作もない。
静に言わせれば、動物さんの声が聞こえなければ意味がないと考えている。
しかし、今だけはそんな煩悩も全てお湯に溶けていくというもの。
「ああ〜。これずっと入っていられるっしょ」
「ホントですねぇ。温度も泉質も完璧です」
「これはますます美人になっちゃうわね」
「ええ。光司くんもイチコロです」
「貸し切り露天風呂借りられれば良かったんですけどねぇ」
寧々だけが、まだ諦めきれないようだ。
ロビーで、奥様扱いされると思ったら娘さん扱いされたからだ。
当たり前の話ではあるのだが、衝撃か疲れからか、その場で固まってしまったくらいだ。
「寧々は、光司の前じゃないと大胆になるわよね」
「はうぅ」
顔をさらに朱くさせた寧々。
そこで、ふと気になったことを聞いた早矢。
「そういえば、気になったのですが、どうして静さんは、光司さんがいないところでは『光司くん』って言うんですか?」
「あ、いいところ気づいたねー」
ユイが早矢に寄りかかりながらニマニマしながら言った。
「みなさん知ってるんですか?」
その答えは静本人が言ってくれるようだ。
「コホン」と咳払いしてから、うっすらと目を開けた。
「最初は『光司君』呼びしてたのですが、ご本人が恥ずかしいからと言うので、こっそりいない時につけてます。『君』ではなく『くん』なのは、より対等な感じがしますので」
なるほどと早矢は思ったが、『くん』付けした時の方が、表情が柔らかいことに気づいた。
「ちなみにわたしも最初は『様』付けしてたけどやめたわ。やっぱり、自分で言うより言われる方がいいわよね」
「星羅さんは変わらないでいいですね」
「そう思うでしょー?」
ユイが早矢に聞き返した。
「え、違うんですか?」
「照れ隠しです」
寧々が答えを言った。
星羅は恥ずかしさのあまり、ブクブク言いながら湯船に沈んでいった。
「ちなみに静さんのも照れ隠しです」
静が目を閉じて、同様に沈んでいった。
「それにしても、皆さん旅慣れしすぎてませんか?」
「まぁ、前も出かけたからねー」
「はい。いちご狩りが最初ですね」
「へぇ。それはいいですね」
「次回は早矢も一緒だからね」
「はい。楽しみにしてます」
ユイと寧々と早矢がニコニコしながら語っていた。
「あ、でも折角ですし、何かそういったフルーツ狩りに、うちも行きたいですね」
「お、早矢っちいいねー!」
「もう少ししたら、さくらんぼ狩りができますね」
「今年は早いから、もう行けるんじゃない?」
早々に復活した星羅が混ざった。
「あら、そうなんですか?」
「今年はどのフルーツも早いですよねー」
「たけのこも早かったねー」
「メロンもですね」
復活した静がしれっと混ざった。
「今年のメロンは美味しかったねー」
「では、また機会があったらいただいてきますね」
「あ、その時はわたくしもご一緒します」
「あ、わたしも行ってみたいかも」
「じゃあ、あーしも」
「うちもご挨拶してみたいですね。ちなみにどんな方なんですか?」
いつの間にか全員で挨拶に行くことになった。
「はい。升農さんっていう女性の方で、すごい美人さんですね」
「わたしより?」
「うーん…………はい」
寧々は少し考えたが、途中でめんどくさくなってやめた。
「なんか農業強そうな人ね」
「そもそも寧々はそこで何をしているの?」
星羅が目を輝かせ、唯がどうしても気になったので聞いた。
「まぁ、いろいろと……」
視線を横にずらして、言い淀んでしまった。
「じゃあ、あとで答え合わせしましょうか」
「そうですね」
「あーしはねー、お片づけしてると思う」
「わたしはそうね…………同じだわ」
「意外とスマホの使い方教えてたり」
「縁側でお茶を飲んでる可能性も否定できません」
みな好き勝手言い合っていた。
「ちなみにその人、いくつなの?」
唯がヒントを貰おうと寧々に尋ねた。
「えーっと、人間の年齢だと十九か二十くらいらしいです」
「どゆこと?」
唯の怪訝なツッコミに、他の三人もじーっと寧々を見てしまった。
「わ、分からないですよーもうー。あ、そういえば夕食って何時からでしたっけ」
それ以上突っ込まれても困ると思った寧々は、無理矢理に話題を変えた。
「確か十八時にしたんでしたっけ」
「十九時じゃなかった?」
「十八時半じゃない?」
「今何時よ」
「ここに来たのが、十七時前ごろ……。で、もう二時間近く入って……」
五人は慌てて立ち上がった。
「早くするっしょ」
「そうよ。つい。話に花を咲かせちゃったわ」
「もう、もっと早くに気づくべきですよ」
「気持ちよすぎたのがいけないんです」
「とりあえず、早くいきましょう」
そうして、五人は急いで脱衣所へ向かったが、髪の毛を乾かしたり、化粧水を塗ったりで随分と時間が掛かってしまった。
「随分とゆっくりしてたんだな」
光司がマッサージチェアで気持ち良さそうにしながら出てきた五人に声をかけた。
「光司、夕飯って何時だっけ?」
「もう過ぎてる」
「「「「「え?」」」」」
「大丈夫だ。十八時から十九時半の間にいけばいいから」
みな、ほっと胸を撫で下ろした。
「じゃ行こっか」
そう言って立ち上がった光司。
星羅がニマニマした顔で言った。
「ねぇ、光司ー。そんな疲れてるなら、食べ終わったあとに踏み踏みしてあげよっか?」
「え?」
早矢が、そんな羨ましいことを? みたいな感じで反応した。
「いや、食べた後に踏まれたら苦しいからいいよ」
「えー」
「ほら、お腹空いてるんだから行こうよー」
「待ってください」
「何?」「どしたん?」
星羅と唯が振り返って聞き返した。
寧々と早矢もどうしたのかと首を傾げた。
「まず、化粧品とタオルを部屋に置いてからにしましょう」
それぞれが自分の持っているものを見て、そして光司を見た。
「なんで俺を見た?」
そして、さっと顔を背けたのだった。




