番外編55 もふもふさんに会いに行こう13
まぁ、静が挨拶と言ったらここだよな。
「静はホントにハシビロコウが好きね」
「星羅さん。ハシビロコウ先輩。もしくはボンゴ先輩です……いえ、ボンゴ先輩で統一しましょう」
「ねぇ、さっきもそうだけど、なんで先輩なの?」
「そうそう。答え教えてよー」
「あたしも気になります!」
「うちもどんな意味があるのか、ずっと考えてたんですよ」
「俺も教えて欲しいな」
静はくるっとこっちを見て、『何を当たり前のことを』と言いたげに口を開いた。
「なぜって、わたくしより長く生きているのです。敬意を払うのは当然でしょう」
そう言って、両腕を真横に伸ばした。
どこかのロックバンドのボーカルのようなポーズだ。
まさか、そんな理由だとは思わなかった。
「そういえば、静ってそのポーズも好きよね」
「ええ」
「ほら、そんなとこにいないで中入ろ?」
ユイがまとめてくれなかったら、ずっとここでわちゃわちゃしていたかもしれない。
ウエットランドに入った瞬間、午前と違って随分と静かだった。
俺達のテンションと真逆だ。
滝の落ちる音がやけに響いた。
中へ入るとどうしてか分かった。
「あらあら、お昼寝タイムみたいですね」
早矢が見つめる先では、滝の向こうでクロエリセイタカギシとマガモが眠っていた。
「わぁ、かわいい」
のんびり寝ているな。
そんな中で、やっぱり一番警戒心がないのがアカツクシガモだろう。
「きゃあ、なにぃ? なーんで道のど真ん中で眠ってるのぉ?」
星羅が興奮を抑えながら、近づいて見ていた。
よく見たら至る所で自由気ままに眠っている。
「みんなおねむなんですねぇ」
「まぁ、こんな時間だしな」
しかし、首を後ろへ回し、体を枕にして眠っている。器用だな。
アカツクシガモに気をつけながら、坂を下りていくと、アカカワイノシシが横になって眠っていた。
まじでお昼寝タイムなんだな。
「夜の光司みたい」
「あそこまで酷くないっしょ」
「いえ、ここ最近の激務で零時前はいつもあんな感じです」
「それを寧々が見ながらニマニマしてるのよね」
「マジか」「え、そうなんですか?」
早矢と被ってしまった。
そんなことになっているとは、俺も気をつけないとな。
「無防備な姿を見せるということは、信頼されている証拠ですからね」
「そこから先が難しいのよね」
「ですねぇ」
そこから先ね。まぁ、俺も歩み出さないといけないのは分かってるんだが……。
そんなことを考えていたのに、こいつらときたらさっさと先に行ってしまった。
「わー、なにあれー、足ながーい」
「他の子より長いわね。わたしみたいね」
「いや、あーしでしょ」
「何を言っているんです? あの足の長さはわたくしでしょう」
クロエリセイタカギシを見て、何を言っているんだか……。
そして、フラミンゴもおんなじように、くるっと首を曲げて自身の背中に頭を乗せて眠っている。
二本足で立っているのは安定しているが、一本足で眠っているのはフラついている。
そして、時たま目を開けて頭の位置を直し、また眠るが、そんなに起きちゃうなら二本足で寝ればいいのに。
そして、本日最後のハシビロコウだな。
「ボンゴ様があんな遠くへ」
「なんで様付けになっているのよ」
「そんなことよりも、あそこからあそこまでお歩きになったということ。その瞬間を見れなかったことが悔やまれます」
確かに、すごい距離を移動している。まぁ、小島の端から端なんだけどな。
しかし、全然動かないな。
「仕方ありません。また来月来ましょう」
「あ、来るのは確定なんだ」
「では、ボンゴ先輩に礼! ありがとうございました」
「「「「「あ、ありがとうございました……」」」」」
静の言葉に倣って頭を下げる。だが、全く動じない。
「ねぇ、ここまでする必要あるの?」
「あります」
「あ、断言しちゃうんだ」
ふと、上を見たらカンムリエボシドリがじーっとこっちを見ていた。
横を見ればミゾゴイもこっちを見ている。
他の鳥達もこっちを見ている。
まぁ、ハシビロコウ以外には伝わったんじゃないだろうか。
「ヒロハシサギさんはおやすみ中ですか」
「有給でも取ってるのかしらね?」
そんな会社員みたいなシステムじゃないだろうに。
隣のエリアへ行くと、ジャガーも寛いでいた。
マガモも置物に擬態しているかのように眠っていた。
やはり、鳥は背中が枕になるんだな。
しかし、このあと、コツメカワウソのエリアに行くと、カワウソがそれぞれ自由に動いていた。
泳いだり、石を取り合って喧嘩したり、木の切れ端をカジカジしたりしていた。
そして運良く、お食事タイムだったようだ。
係員さんが、二種類の餌をあげていた。
それを窓際まで登って器用にキャッチするものもいれば、餌が口元に当たって落ち、水の中へ取りに行くものもいた。
餌を咥えて、離れた位置でもぐもぐするものもいた。
餌が欲しくて鳴いているのもいた。
可愛い顔をして意外とアクティブなんだなと、そのギャップに驚かされた。
そしてみんなで寧々を見た。
「どうしてあたしを見るんですか?」
「そりゃあ可愛いからよ」
「そうですかー」
なんだろうな。少し黒い感情が漏れている気がするのは。
「わっ!」
そんな寧々を後ろからギュッと抱きしめたのは、意外にも早矢だった。
「あ、すいません。カワウソさんが可愛くて、つい」
「じゃ、じゃあしょうがないですねー」
寧々の黒いものが霧散したので、暫くそのままカワウソが泳ぐ姿を眺めていた。
そして、戻る途中に異変に気付いた。
「ちょっと待って、ワオキツネザルのもぐもぐタイムが始まってるわ」
「これはもう少し見ていないといけませんね」
ぶっといシマシマの尻尾を垂らしながら、葉っぱを食べていた。
その間にミゾゴイが鳴き、下でアカカワイノシシがお散歩したり、いろんな鳥が下を歩いたりと、かなり情報が多い。
しかし、ずっとしっぽ垂らしたまんまなんだな。可愛すぎだろ、おい。
そして、ハシビロコウの方を見ると、バサバサ動いていたり、フラミンゴが起きて散歩していたりしていた。
「光司、二周目行きましょうか」
「そうだな」と言う前に俺の腕を引いて連行していく。
みんなワオキツネザルとハシビロコウを交互に見て忙しいな。
そして、再度ジャガー、コツメカワウソ、ワオキツネザルと見ていき、外に出る。
「じゃあ静のオキニにも会ったんなら、ラストは寧々のオキニにも会わないとじゃね?」
「そうですね。では行きましょう!」
今度は寧々がふんすと胸の前で拳を握っている。
「…………」
みんなでビントロングを見ていた。
しかし、ただ眺めているだけではない。
目をキラキラさせていた。
器用に尻尾を使って降りている。
しかし、木の上で交差する時、仲よさそうに顔をスリスリさせたりしている。
まさか目の前でイチャイチャを見せつけられるとは。
「コージはあれを見て勉強しないと」
「そうですね。もっとベタベタしましょう」
「あら、それいいわね」
まぁ、そうだな。俺もそれを望んでいたわけだしな。
でも、なんでだろうな。どうしてそんな気分が遠のいてしまったのか。
それから暫く、目をキラキラさせてビントロングを見ているユイ、寧々、星羅の方をじっと見ていた。
そういえば、早矢と静はどうしたんだろうか。
後ろを振り返ると、早矢は入り口近くでずっとレッサーパンダを見ている。
静は真ん中の木の上にいるレッサーパンダをずっと見上げていた。
二人とも随分と緩んだ顔をしているな。
しかし、奥の方のレッサーパンダが帰りたそうに住処へ続く穴の前をウロウロしていた。
定時退社前のやる気がない会社員みたいだ。
心なしか、おっきな尻尾が下がっている気がする。
「ずっと出口の前でうろうろしてますね」
「これはこれで可愛いけどね」
「なんか、眠そうな顔してますね」
「朝の寧々さんそっくりです」
「あたしこんな眠そうな顔してます!?」
うん。しているな。寧々は朝弱いからな。
そんなレッサーパンダ達を見て、ぎこちない笑顔で振り返った寧々。
「仕方ありません。お土産を買いに行きましょうか」
流石に引き留める訳にもいかないしな。
アジアの森を出て、お土産屋さん前のトラのところへ行く。
「おおーおっきい!」
ユイもトラを見れてご満悦だ。
最後にサービスとばかりにいっぱい近づいてきてくれる。
「足ぶっといねー」
「まぁ身体もおっきいしね」
なんというか、ネコ科は甘え上手だよな。
ふとそんなことを思って隣にいるユイを見てしまった。
「どったの?」
「いや、なんでも」
暫くみんなでトラを見ていた。
心なしか、早く帰らないかなって顔をしているのは気のせいだと思いたい。




