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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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番外編50 もふもふさんに会いに行こう8


 ザァザァと雨が降る中で、カピバラは優雅に水に浸かっていた。

 暖かいお湯が流れ込んでいるからか、気にせずそのまま浸かっている。

 広場には入れるようだが、この雨では濡れて風邪を引いてしまう。

 しかし、あんなに気にすることなく入ってるなんて、自然に生きてる動物はすごいなと。

 そのおおらかさを見習いたいなと思った。


 そして、奥へ向けて歩いてると一枚のポスターが目に入った。

 『こどもが生まれました! 優しく見守ってください。』

 うちも家族が増えたんだよな。

 ふと、横を見ると早矢がニコニコしながらいたので、つい頭を撫でてしまった。


 「えへへへー」

 その瞬間、もう片側から背筋が凍えるくらいのオーラを感じた。

 「寧々……」

 「はい!」

 寧々からなのかは分からなかったが、頭を撫でたら謎の感覚は消え去った。

 何だったんだろうな。


 「えへへ……」

 それを見たユイと星羅が声を上げた。

 「あ、ずるい!」

 「光司!」

 はいはい。分かりましたよ。


 「んふふふー」「ふへへへー」

 そして、特に何も言ってない静の頭もついでに撫でてしまった。

 「わひゃっ!」

 静らしからぬ声だ。意外だ。

 どうやらマヌルネコを真剣に見ていたらしい。


 「もう、光司くん……。そういうのは二人きりの時にしてください」

 「あ、すまん」

 そしてそんなマヌルネコは俺に背中しか見せてくれなかった。

 俺が右へ回れば、くるり。

 左へ回れば、またくるり。

 まるで俺だけを避けるように、器用に背中を向け続ける。


 「もう、コージが来たら、背中向けちゃったじゃん」

 「そうです。光司さん動かないでください!」

 「あ、はい」

 本気で怒られた。

 俺は言われた通り、その場で直立不動になる。俺は空気。俺は空気……。

 それでもマヌルネコは、微動だにしない。振り返りもしない。


 「光司、あの子は背中で語るタイプですので、背中を見れただけでも感謝すべきです」

 「そうよー、顔を見せないなんて完全に女王様気質じゃない」

 静と星羅に、よくわからない慰めを受ける。

 その瞬間、マヌルネコが、ふっとこちらへ顔を向けた。


 「おっ!」

 思わず、顔が緩み、一歩近づく。

 ──くるり。

 マヌルネコがすぐに背中を向けた。


 「だから動かないでくださいって!」

 「光司、こっちを見てくれませんので、少し離れていてください」

 「そうね。その壁と壁の間で待機してもらえるかしら?」

 前言撤回が早すぎる。


 「扱いが野生動物以下なんだが……」

 「まぁまあ、そういう時もありますよ」

 早矢だけが、俺の横でニコニコしていた。

 「(マヌルネコさんには感謝しませんとねー)」


 そんな中でずっと視線を感じていた。

 他のお客さんや監視カメラじゃない。

 圧倒的強者の視線だ。

 振り返るとニホンカモシカが、岩の上に座ってじっとこっちを見ていた。

 それは王者の風格に満ち満ちていて、つい頭を垂れてしまった。


 「強そう」

 「光司もあのくらい堂々としてればいいのにね」

 「無茶言うな。あの頂には到達できんよ」

 「大丈夫よ。わたし達が引っ張り上げてあげるもの」

 「そうですね」

 星羅と静がそんなことを言うが、ちょっと違うんだな。


 「出来れば、自分でそこまで登りたい」

 「では、あたし達はフォローに回りますね」

 「背中押してあげるっしょ」

 そのまま真下に落下しないだろうな?

 「そのまま崖下に落とさないでくれよ」

 まぁ、持ちつ持たれつってことで。


 「ふふっ。では、次に行きましょうか」

 早矢が手を差し出した。

 「あっ!」「むっ!」「ふふっ!」「ほぉ……」

 五人で手を差し出した。


 「どうかしましたか?」

 「ほらほら、コージ」

 「光司さん。どうぞ」

 「まさか、逃げるなんてしないわよね?」

 「試練が試されますね」

 俺は、一人ずつ手を叩いて先に進んだ。


 「えっ?」

 「ちょっ!」

 「ふぇ!?」

 「仕方ないわねぇ」

 「まぁ、今はそれでいいじゃないですか」

 俺は思わず視線を逸らした。

 ああ、暑いなぁ。

 きっと雨で蒸し蒸しするからだろうな。

 うん。きっとそうに違いない。


 笹の生えてるエリアに来た。

 「ついに寧々さんが寧々さんと対面するんですね」

 「たくさんの寧々がここに」

 「二人とも後でお話しがあります」

 静と星羅の発言に寧々が黒い笑顔で問いただした。

 「どうしてレッサーパンダが寧々さんなんです?」

 「まぁ、会えば分かるっしょ」


 入ると、どこか香ばしいにおいがした。

 「これが、レッサーパンダの匂い?」

 「いや、多分あそこのビントロングの匂いだろうな。ジャコウネコの仲間だし」

 「ジャコウネコ……コピルアック!」

 「これがその匂い……」

 星羅とユイが真っ先に反応した。


 この独特なフレーバーはなかなかに形容しがたい。

 オリエンタルな香水とも違うし。

 炒ったナッツのようなフレーバーなんだよな。

 しかもそんなビントロングは枝の上で器用に寝ている。

 話が逸れたな。


 そういえば、寧々と静と早矢は静かだな。

 そう思ったら、目を輝かせてレッサーパンダを見ていた。

 「寧々さんそっくりです」

 「ええ、ええ。わたくしの目に狂いはありませんでした」

 「あたしかわいい……」

 両手を上げるレッサーパンダを見て、寧々がうっとりしながら言った。

 認めていいんだろうか。


 「寧々ー、写真撮るからポーズ取ってー」

 星羅が言うと、満足げに両手を上げるが、対するレッサーパンダは腕を下ろして笹を食べ始めてしまった。

 「ああっ! なんでですかー」

 レッサーパンダに翻弄されすぎではないだろうか。

 他のレッサーパンダも駆け回ったり、歩いたり自由に過ごしている。


 「あ、今チャンスよ」

 なんとかギリギリで撮ったそれは、なんとも愛らしかった。

 「星羅それ送って」

 「光司がそんなこと言うなんて珍しいわね」

 「撮ろうとして撮れるもんじゃないからな」

 「星羅さん、わたくしにも」

 「はいはい。グループLINEで送るから。確認して」

 確認すると、みんなが撮った写真もいっぱい貼られていた。


 外に出ると、雨もポツポツ程度だった。

 「今がチャンスね」

 「チャンス?」

 ずんずんと前に一直線で向かうとトラがいた。

 ホント、ネコ科好きだな。

 そんなトラは温泉で寛いでる感じで、大きな背中を見せていた。


 「こっち向いてくれないわね」

 チラッと見ただけで、また前を向いてしまった。

 「くっ……」

 暫く見ていても全然動かなかった。

 「まぁ、トラもネコ科ですし、気まぐれだから仕方ありませんね」

 「もう知らない」

 ずんずんと離れていくと、トラがこっちをチラチラ見ていた。

 遊ばれてんなぁ……。

 「ホント困っちゃいますね」

 気のせいかトラがこくんと頷いた気がした。

  

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