番外編40 お姫様も大変らしい
それは、星羅に新しい可能性を見出され、クラス内でも話題になっていたのが原因だった。
「早矢様、お話があります」
早矢の机の前に、早矢を敬愛する白鷺凛が、どこか目が据わった状態で立っていた。
「はい。聞きますよ」
いつもの調子で、にこやかに返すと、凛は大きくかぶりを振った。
「ここではなんですから、……そうですね。行きつけのお店で話しましょう」
「はい。分かりました」
人に聞かれると困る内容なのかな、と早矢は考えていたが、それが間違いだとすぐに気づいた。
「では、行きましょうか。小春、準備を」
「はーい。じゃあ早矢ちー、失礼するねー」
一体どこにそんな力があるのか分からないが、4組の忍者のように、春日小春は早矢を音もなく抱きかかえると、そのまま素早く移動を開始した。
普段のほほんとしているのに、この素早さはなんなのかと戸惑う早矢。
幸いにも、肩に担がれるのではなく、お姫様抱っこなので、そこまで苦ではないし、早すぎて恥ずかしがる余裕もなかった。
凛もその横を武士のような走り方で付いてきた。
一体この二人はなんなのだろうか。
そう考える間もなく、目的の喫茶店へと着いた。
そこは、学園の近くにある喫茶店で、生徒や先生なんかもよく利用しているお店だ。
なんなら、普通に他の席にもいるので、別に教室でも良かったんじゃないかと思う早矢。
「では、折角なので、何か頼みましょうか」
多分、これが目当てなんだなと察したのだった。
「なんでもいいですが、おすすめはありますか?」
「こちらのパフェなど、どうでしょうか」
写真に映るパフェは、普通の喫茶店のものより、量も値段も桁違いだった。
商売になるのだろうかというくらい、大きく、そしてかなりのクリームとフルーツが盛られていた。
場所が場所なら一万円近く行くのではないかと思えるほどだ。
よく見ると、それはこのお店の看板メニューの爆盛りパフェらしい。
しかも、『初級』と書いてあるが、重量3キロと書かれている。
その後に、『中級』『上級』『煉獄級』『地獄級』『深淵級』『冥王級』と凄いのか凄くないのかよく分からなかった。
今は気分ではないので、やんわりと断る。
「いえ、うちはコーヒーだけでいいですよ。えっと、そうですね……ブレンドをホットで」
ブレンドは、そのお店のこだわりが分かるので、初めて入ったお店ではブレンドを頼むという、光司のこだわりを早矢も守っているのだ。
「よろしいのですか? こちらのプリンアラモードなどもオススメですよ?」
だから、どうして『爆盛り』の方を薦めるのか気になった早矢。
「あの、出来れば普通サイズの方が」
「そ、そうですか? 早矢様のご家族も量の多い方をペロリと平らげてるので、てっきり」
そう言って上の方を見ると、『地獄級爆盛り十分以内完食!』と書かれた色紙に、唯、寧々、星羅、静の四人がピースサインで、一緒に貼られた写真に映っていた。
どうりで。と、思った早矢。
出来ないことはないが、今日は相談ごとを聞くのが優先なので、気が散ることはしない。
とりあえず、薦めるので普通サイズのカスタードプリンを頼んだ。
凛はミルクセーキと『初級』のプリンアラモードを。
小春はメロンソーダと『初級』のパフェを頼んでいた。
そして、目の前に置かれたそれは、普通サイズであるはずなのに大きかった。
「えっ!?」
まさか、ミルクセーキとメロンソーダが腕の長さくらいありそうなジョッキで来るとは思わなかった。
早矢のコーヒーもそれなりに大きなカップに入っていた。
どおりで、すぐに満席になるのだと理解した。
しかし、普通の定義が狂うお店だなとも思った。
二人に連れられて、五分しないうちに、うちの生徒達でいっぱいになってしまった。
尚のこと、教室内でも良かったのでは? と、凛を見ながら思うが、美味しそうにプリンを食べているので、もしかしたら、こういうのがやりたかっただけなのかもしれないと思った。
暫くコーヒーとプリンを楽しむ早矢。
食べても食べても減らない。
大きいから、大味と思いきや、ちゃんと作ってある。
どこぞの有名店並みの味をしており、何度も驚き、目を見開いてしまう。
コーヒーもコクと酸味と苦味と甘味のバランスが良く、複雑な味わいと飲んだ後の余韻が素晴らしかった。そして何より香りが良く、どこか異国にいるかのような気分になった。
半分程平らげたところで、凛がスプーンを置いた。
流石に限界だろうか? そう思ったが、神妙な顔つきになったため、本題に入るのだなと感じとった。
「早矢様……」
もう、様づけも慣れた。
いや、慣れないと話が進まないのだ。
「はい。なんでしょうか」
早矢も佇まいを直して、聞く態勢になる。
「どうして、わたくしを呼んでくれなかったのでしょうか」
「はい?」
相も変わらず、パフェを黙々と食べる小春。
「あの……、話が見えないのですが……」
「小春」
凛が小春の名を呼ぶと、小春はスプーンを咥えたまま、スマホを取り出した。
そして、それを素早く操作して、凛に手渡した。
「これです」
「これは!」
そこには、この前、星羅に服をコーディネートしてもらった時の画像があった。
凛が次々とスワイプしていく。
「こんな……くっ……羨ましい……」
嗚咽まじりにそんなことを言うが、早矢の関心はそこではない。
そう。斜め上からだったり、下からだったり、人の間からだったり、どこか隠し撮りしたような画角だった。
「どうして、呼んでくれなかったのです?」
小春も首を傾げて問いかけてきた。
「急に決まったので。というか、小春さんもいたなら、参加すればよかったのでは? 燈さんと柚さんもいましたし」
「それは盲点! 次からは参加するねー」
「待ってください小春。裏切るのですか?」
「小春はー、早矢しゃまと楽しくできればいいかなー」
「せめて食べるか喋るかどっちかにしてください」
凛がそう言うと、食べる方にシフトした。
「では、この後、わたくしが早矢様のお召し物を選びたいのですが」
凛がそう言うが、星羅以上にゴテゴテしていそうだと考えた。
「今は、着れていないものが多いので、またの機会に」
「絶対ですよ、絶対!」
「はいはい」
慕ってくれるのは嬉しいが、少し慕いすぎではないかと思う早矢。
そして、思っていたことを口にした。
「姫様扱いされるのはいいんですが、うちはそんなに弱い姫じゃないですよ?」
そう言うと、目をパチパチと瞬きさせると、「ふははははは」と豪快に笑い出した。
店内にいた全員が凛の方を見た。
「ちょ」
「分かりました。では、早矢様が強いところを見せてくださいな」
「え!?」
「やめといた方がいいと思うけどなー」
小春がボソッと言った。
そして、食べ終わると、そのまま学園へ戻った三人。
学園内にある武道館へ移った。
なぜか、四方には生徒や先生達が大勢観客として集まっていた。
いくらイベンド事が好きでも、流石にこんなに集まるのは想定外だった。
「どうしてこんなことに」
もちろん、唯、寧々、星羅、静、他クラスメイト達も見ていた。
「早矢っちがんばれー」
「はわわわわわ」
「ふーん、剣道ねぇ。いいじゃない」
「早矢さんがこういうことするとは意外でした」
道着と武具を着けて、凛と相対する早矢。
どうして剣道で勝負になったのかは分からないが、手を抜くのはやめようと思った。
「手加減はしませんよ?」
「ええ。負けても大丈夫ですよ。ちゃんとわたくしがお守りしますから」
どうやら、勝つ気でいるようだ。
早矢はすでに真顔になっていた。
「では、行きます」
「はい!」
早矢が一気に距離を詰めるべく、地面を蹴った。
「きえぇええええええっ!」
凛が叫びながら、駆け寄る早矢に竹刀を振り下ろすが、軽く薙ぐとそのまま胴に打ち込んだ。
「へ!?」
それは、一分もかからなかった。
「そんな」
「もう一回やりますか?」
その後、三回やったが、早矢の圧勝だった。
早矢が面を外すと、唯達が駆け寄ってきた。
「早矢っちすごいじゃん」
唯が手を握って喜ぶ。
「やっぱり早矢さんもすごいんですねぇ」
寧々が含みのある笑顔で言った。
「やっぱり派手なの好きじゃない」
星羅が腕を組んで、呆れたように言った。
「でも、かっこよかったですよ」
静が口角を上げて言った。
そして、クラスメイト達が言ったことで知ったことがある。
なんと、凛は全国大会に出る程の実力者で、四強の一人なんだそうだ。
そして、男子と闘っても勝ってしまうくらいの実力者なのだが、そんな凛に圧勝してしまったのだ。
みんながお祭り騒ぎになるのも不思議ではない。
3組では、賭け事をしていたらしく、その周りで天国と地獄になっている者もいた。
そして、凛はと言うと、いつの間にか面を外して傅いていた。
「流石、早矢様ですね。わたくしの目に狂いは無かった」
「いや、たまたまで……」
「これからも一生ついていきますね」
にっこりと笑顔を向けた凛。やはり、ぶんぶんと振る尻尾が見えた。
そして、上から何かが落ちてきたかと思うと、それは小春だった。
「すごいねー。小春も付いていくねー」
早矢に抱きついて言った小春。小春にも何かの尻尾が見えた気がした。
そんな中、早矢だけが付いていけなかった。
「ええ……なんなんですかこれ……」
「早矢っち、輝いてるよ!」
唯がサムズアップするので、周りを見るとみんなキラキラした目で見ていた。
こういうのも悪くないと思ったが、やはり少し恥ずかしかったのだった。




