番外編37 星羅の美学①
それは、とある日の休日。
試験が終わって最初の休みである。
「そういえば、あの日の服ですけど……」
「ああ、あれ」
「どうしてああいうのを勧めたんですか?」
あの日は結局、時間が足りないということになり、星羅の言う、本気コーデを見ることなく帰宅した。
あれから数日が経ったが、星羅から声が掛からなかったので、意を決して、早矢から声を掛けたのだ。
「だって、早矢って綺麗じゃない?」
「それだけですか?」
否定はしない。
否定してしまったら、何のために光司を想ってデザインしたのに、その意味が無くなってしまう。
自分が思う最高なのだから、卑下することは無い。
ただ、目立つのが苦手なだけなのだ。
「目立つのはちょっと……」
「どの口で言うのよ」
「え?」
「クラスメイトや他のクラスの子達がいる中で、光司を引き連れて、着物姿で来るなんて、心臓強くないと無理よ」
「あ、あれは、たまたまです!」
そう。偶然なのだ。だが、結果としてはそうなってしまった。
プライベートジェットや黒塗りの車で送迎されたことを言えば、どんな反応が返ってくるか、分かったもんじゃない。
だが、星羅にはバレていた。
いや、みんな知っていたのだが、敢えて口にしなかったのだ。
「SNSで映ってるの早矢でしょ? 小さくて分かりづらいけど、この紫の髪は」
「ああっ!?」
早矢らしからぬ大声を上げてしまった。
そこには、『首都高の乗り方』なるタイトルで、十数秒の動画があった。
ほんの数コンマほどではあるが、星羅にかかれば余裕で見つけられる。
「めっちゃ羨ましくってさ。よく見たら早矢っぽいのが映ってたから」
そこそこにバズっていた投稿だ。
「はうぅ……」
「そんな寧々みたいな反応しなくても」
「いや、ホントに恥ずかしかったんです!」
両手で顔を覆いながら訴える早矢。
星羅もそれ以上は問わなかった。
「でもさ、綺麗なんだから、もっと自分を見せた方が良くない?」
「でも……」
「綺麗なものは隠すんじゃなくて、飾るもんでしょ? 花だってそうじゃない。うちの庭みたいにさ」
「そう……ですね……」
確かに星羅と唯で作った花壇は掛け値なしにすごかった。それこそSNSに上げて、愛好家が見たらバズれそうなくらい。
早矢も内心では分かっているのだ。
ただ、やはり性格なのだろう。
「でも、うちは落ち着かないんです」
やはり、踏ん切りはつかなかった。
そんな早矢を見て、星羅はただ黙って眺めていた。
「どうかしましたか?」
「やっぱり、選ばせて」
「ええっ!?」
「一着だけだから。ね?」
「……そこまで言うなら……」
「決まりね。じゃあ、早速行きましょうか」
「え、今から?」
「いいじゃない。それに今なら近くに光司もいるから、偶然を装えるわよ」
「行きましょう」
「え、ええ」
光司の名前を出しただけで動くとは思わず、一瞬、たじろんでしまった星羅。
気を取り直して、二人で出かけることにした。
家に残っていたのは二人だけなので、ちゃんと戸締りとガスの元栓の確認をしてから出かける。
自分達の帰る場所だ。
ちゃんとやることはやるのだ。
自宅を出て、最寄りの地下鉄駅に乗る。
乗り換えなしで行けるのは強い。
二十分弱で、いつもの場所へ着いた。
地下鉄駅まではそう遠くない。だが、星羅と歩くと話は別だった。
センスのいい花壇を見れば立ち止まり、珍しい庭木を見つけては写真を撮り、「この配置いいわね」「勉強になるわね」と呟きながらメモを取り始める。
早矢も最初は付き合っていたのだが、後半は立ち止まる度にスマホを見てしまっていた。
一回だけ、あまりにもプロ級の寄せ植えを見て、奥さんと話し込みそうになったのを、慌てて引き剥がした。
「で、光司さんはどこに?」
「あそこのニトリね。早矢の寝具を買いに行ってるはず」
「そういえば、お願いしてました」
敢えて、光司の選んだものがいいとお願いしていたのだ。てっきりネットで買っているものとばかり思っていた。
「GPSによるとまだいるみたいね」
「待ってください。なんでそんなの入れてるんですか?」
「突然現れて驚かせたいじゃない?」
キョトンとした顔で言うので、どうやら本心からそう言っているようだと早矢は判断した。
サンシャイン前のニトリへと入り、目当ての場所へ行く。
「どう、決まった?」
「うおっ!?」
驚いた様子で振り返る光司。
「なんでいるんだ?」
「光司がここにいるからよ」
答えになってない答えを言う星羅。
そんな様子を苦笑しながら早矢が見ていた。
「早矢もいるんだな」
「はい」
「丁度良かった。早矢の寝具どれがいいかなって」
「光司さんが使ってるのと同じのがいいです」
「お、おう……。安いぞ?」
「別に構いませんよ」
チラッと星羅を見る光司。
「何よ」
「いやぁ、別にぃ……」
「早矢、もっと高いのでもいいのよ。ね?」
そう言って光司にウインクを送る。
「そうですか? では、ご厚意に甘えて……」
光司は了承していないのだが、星羅が言うものだから、てっきり話が通っていると思って、高めのものを選んだ。
「……。配送頼んでくるな」
「良かったんですかね?」
「なーに。心配する必要ないわよ。そんな光司をあっと言わせましょ?」
「はい!」
そうして三人でいつもの場所へと向かったのだった。




