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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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番外編37 星羅の美学①


 それは、とある日の休日。

 試験が終わって最初の休みである。

 「そういえば、あの日の服ですけど……」

 「ああ、あれ」

 「どうしてああいうのを勧めたんですか?」


 あの日は結局、時間が足りないということになり、星羅の言う、本気コーデを見ることなく帰宅した。

 あれから数日が経ったが、星羅から声が掛からなかったので、意を決して、早矢から声を掛けたのだ。


 「だって、早矢って綺麗じゃない?」

 「それだけですか?」

 否定はしない。

 否定してしまったら、何のために光司を想ってデザインしたのに、その意味が無くなってしまう。

 自分が思う最高なのだから、卑下することは無い。

 ただ、目立つのが苦手なだけなのだ。


 「目立つのはちょっと……」

 「どの口で言うのよ」

 「え?」

 「クラスメイトや他のクラスの子達がいる中で、光司を引き連れて、着物姿で来るなんて、心臓強くないと無理よ」

 「あ、あれは、たまたまです!」

 そう。偶然なのだ。だが、結果としてはそうなってしまった。


 プライベートジェットや黒塗りの車で送迎されたことを言えば、どんな反応が返ってくるか、分かったもんじゃない。

 だが、星羅にはバレていた。

 いや、みんな知っていたのだが、敢えて口にしなかったのだ。


 「SNSで映ってるの早矢でしょ? 小さくて分かりづらいけど、この紫の髪は」

 「ああっ!?」

 早矢らしからぬ大声を上げてしまった。


 そこには、『首都高の乗り方』なるタイトルで、十数秒の動画があった。

 ほんの数コンマほどではあるが、星羅にかかれば余裕で見つけられる。


 「めっちゃ羨ましくってさ。よく見たら早矢っぽいのが映ってたから」

 そこそこにバズっていた投稿だ。

 「はうぅ……」

 「そんな寧々みたいな反応しなくても」

 「いや、ホントに恥ずかしかったんです!」

 両手で顔を覆いながら訴える早矢。

 星羅もそれ以上は問わなかった。


 「でもさ、綺麗なんだから、もっと自分を見せた方が良くない?」

 「でも……」

 「綺麗なものは隠すんじゃなくて、飾るもんでしょ? 花だってそうじゃない。うちの庭みたいにさ」

 「そう……ですね……」

 確かに星羅と唯で作った花壇は掛け値なしにすごかった。それこそSNSに上げて、愛好家が見たらバズれそうなくらい。


 早矢も内心では分かっているのだ。

 ただ、やはり性格なのだろう。

 「でも、うちは落ち着かないんです」

 やはり、踏ん切りはつかなかった。

 そんな早矢を見て、星羅はただ黙って眺めていた。


 「どうかしましたか?」

 「やっぱり、選ばせて」

 「ええっ!?」

 「一着だけだから。ね?」

 「……そこまで言うなら……」

 「決まりね。じゃあ、早速行きましょうか」

 「え、今から?」

 「いいじゃない。それに今なら近くに光司もいるから、偶然を装えるわよ」

 「行きましょう」

 「え、ええ」


 光司の名前を出しただけで動くとは思わず、一瞬、たじろんでしまった星羅。

 気を取り直して、二人で出かけることにした。

 家に残っていたのは二人だけなので、ちゃんと戸締りとガスの元栓の確認をしてから出かける。

 自分達の帰る場所だ。

 ちゃんとやることはやるのだ。


 自宅を出て、最寄りの地下鉄駅に乗る。

 乗り換えなしで行けるのは強い。

 二十分弱で、いつもの場所へ着いた。

 地下鉄駅まではそう遠くない。だが、星羅と歩くと話は別だった。


 センスのいい花壇を見れば立ち止まり、珍しい庭木を見つけては写真を撮り、「この配置いいわね」「勉強になるわね」と呟きながらメモを取り始める。

 早矢も最初は付き合っていたのだが、後半は立ち止まる度にスマホを見てしまっていた。

 一回だけ、あまりにもプロ級の寄せ植えを見て、奥さんと話し込みそうになったのを、慌てて引き剥がした。


 「で、光司さんはどこに?」

 「あそこのニトリね。早矢の寝具を買いに行ってるはず」

 「そういえば、お願いしてました」


 敢えて、光司の選んだものがいいとお願いしていたのだ。てっきりネットで買っているものとばかり思っていた。

 「GPSによるとまだいるみたいね」

 「待ってください。なんでそんなの入れてるんですか?」

 「突然現れて驚かせたいじゃない?」

 キョトンとした顔で言うので、どうやら本心からそう言っているようだと早矢は判断した。


 サンシャイン前のニトリへと入り、目当ての場所へ行く。

 「どう、決まった?」

 「うおっ!?」

 驚いた様子で振り返る光司。


 「なんでいるんだ?」

 「光司がここにいるからよ」

 答えになってない答えを言う星羅。


 そんな様子を苦笑しながら早矢が見ていた。

 「早矢もいるんだな」

 「はい」

 「丁度良かった。早矢の寝具どれがいいかなって」

 「光司さんが使ってるのと同じのがいいです」

 「お、おう……。安いぞ?」

 「別に構いませんよ」

 チラッと星羅を見る光司。


 「何よ」

 「いやぁ、別にぃ……」

 「早矢、もっと高いのでもいいのよ。ね?」

 そう言って光司にウインクを送る。

 「そうですか? では、ご厚意に甘えて……」

 光司は了承していないのだが、星羅が言うものだから、てっきり話が通っていると思って、高めのものを選んだ。


 「……。配送頼んでくるな」

 「良かったんですかね?」

 「なーに。心配する必要ないわよ。そんな光司をあっと言わせましょ?」

 「はい!」

 そうして三人でいつもの場所へと向かったのだった。


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