番外編36 料理を習おう③
さて、みんながそれぞれ料理を完成させたのだが、唯達五人は本当にイベント事好きらしい。
リビングには長机が用意され、背もたれの高い椅子まで並べられていた。
赤いクッションに金色で縁取られた椅子だ。
一体どこでいつ買ったんだろうか。
だが、光司の関心は寧ろ五人の格好だろう。
唯はノースリーブの黒いイブニングドレスを。
肩を出しているが、首周りはスパンコールがあしらわれた布地で覆われている。
二の腕まである長いグローブも着けていた。
腰から下は巻きスカートのような形になっていて、片側だけ脚が見えた。
どこかの映画祭にでも出るかのようだ。
寧々は、どこぞの料理学校の学長みたいな黒い詰襟みたいな格好をしていた。
どうしてそのチョイスなのかは分からないが、中々に新鮮な格好だ。
髪型も、ビシッと決めていて、男装はこれが初めてじゃないだろうか。
ただ、寧々のトレードマーク的な三つ編みおさげは外してあるが、そのボリュームまでは御せなかったらしい。
どこぞの吹奏楽部の部長さんみたいになっている。
星羅はやはりというか、真紅のドレスを着ていた。
フリルの多いフラメンコで着るようなドレスだ。 鳥の羽が付いたつば広の帽子を被る必要はあったのだろうか?
見える範囲だと、しっかりと髪の毛を編み込んでいる。
一体いつそんな時間があったのか。
もしかしたらだが、美味しかったら、踊ってくれるのかもしれない。
既に横ノリのリズムを刻んでいる。
静は意外なことにスーツをビシッと決めていた。
その姿は、スナイパーのようにも経営者のようにも見えた。
ストライプの入った濃いめのグレーのスーツに、赤いネクタイを付けている。
どちらも、高級そうな光沢を纏わせていた。
胸ポケットにはちゃんと白いハンカチを入れていた。
そういえば、部長もこんな感じのスーツ着てたなと思ったのだった。
早矢は着物だ。それも今まで着ていたような明るい女の子向けの着物ではない。
極妻で着てそうな黒い留袖。作り帯も銀色で絶対に高いだろうことは遠目からでも分かった。
しかし、髪型までそっちに寄せなくてもいいのではないかと光司は思っていた。
エレナが目をキラキラさせながら早矢を見ていた。どうやら、自分の好みのスタイルだったようだ。
「準備完了です」
机の上に握った手を置いて、静がそう宣言した。
「そこまで本格的にやる必要あるんか?」
「え、そういうものじゃないの?」
「折角用意したんだからいいじゃない」
「やっぱり、これは普通ではなかったのですね」
光司が問うと、唯と星羅と早矢が反応した。
それに対してクラスメイト側は、「やっぱり普通じゃないのか」と反応した。
「いいじゃないですか。何事も楽しんだもの勝ちです」
「そうですよ。それに、指針があった方が分かりやすいですよね」
静と寧々はポジティブに反応した。
その返しに、クラスメイト達は、「なるほど」と簡単に流されるように頷いた。
そして、そんなクラスメイト達を裏切るように光司が、いつ着替えたのか司会風のタキシードを着て、長机横に置かれた司会者台の前に立った。
その司会者台もマイクもマイクスタンドも光司が用意したらしい。
唯達がそうするのであれば、その作法に則るのが正しいと判断したようだ。
最近はどんどんと寄せられていることに、本人も気づいていなかった。
「それでは、始めて参りたいと思います」
「「「「「えっ!?」」」」」
そういう反応になるのも当然だろう。
「佐藤さんからどうぞ」
「えっ!? あっ、はい」
なんの説明もなく始まる料理コンテスト。
桃李は、作った料理を並べていく。
「こちら、真鯛のソテー〜春風を添えて〜で、ございます」
桃李も負けじとそれっぽいことを言う。
「もう初夏ですが」
「…………」
静の鋭いツッコミに苦笑いするしか無かった。
そして、それぞれが食べ評価していく。
それは、本番以上に緊張感のある空気だった。
「採点の方よろしいでしょうか」
光司が相変わらず司会者然とした感じで話していく。
それに五人が頷いた。
そして何故か、桃李を含めたクラスメイト側も、目を瞑り両手を握って祈っていた。
今この場にツッコミ役は存在しない。
「でました。7点、8点、7点、7点、9点。合計はー! 38点! 暫定一位です」
どこぞの司会者のような言い方をする光司。
いつも以上にノっているらしい。
「ほっ……」
「では、感想を聞いていきましょう。ユイさんから」
「はい。味は申し分ないです。ソースの配分も完璧ですね。ただ、盛り付けが物足りないのと、付け合わせのアスパラに火を通し過ぎてます。ただ、全体的には纏まりがよく、最初にしてはいいんじゃないでしょうか」
いつもの口調ではなく、ちゃんとした言葉遣いに桃李達は一瞬戸惑ったが、緊張感の方が上のため、そこまで意識できなかった。
「ありがとうございます。お次は寧々さん。お願いします」
「はい。とても丁寧に作られてますね」
ニコリと微笑むと桃李が一瞬顔を朱らめた。
「まず、火の入れ方がお上手です。お魚の場合形が均一ではないため、どうしてもムラが出てしまいますが、いい感じに火が通ってます。皮目もパリパリで、身はふっくら。ただ、唯さんの言う通り付け合わせが少し残念でした」
悔しそうにするが、初めてでここまで褒められれば十分だろう。
「ありがとうございます。お次は星羅さんお願いします」
「はい。まず、魚本体の方は申し分ありませんが、やはり盛り付けですね。魚がメインですから、もう少し演出をしても良かったかもしれません。料理は見た目も重要ですから、見た瞬間に美味しそうと、訴えかける力が少し弱かったですね。ただ、味は良かったです」
星羅もいつものお嬢様口調ではなく、ちゃんと審査員らしい丁寧な口調だった。
ただ、踊りが無かったので、星羅自身が10点を出すか、満場一致で満点を出さないとフラメンコはやってくれないのかもしれない。
「ありがとうございます。次は静さん、どうぞ」
「はい。まず、お魚さんも報われるんじゃないかなといった捌き方と焼き方で、非常に良かったです。ただ、わたくしとしましては少し、ソースとの相性が弱いと感じました。魚本来の味にソースが追いついてないと感じました。あとは、みなさんの言う通り、アスパラの火加減ですね。ただ、概ね完成度は高いので、今後に期待ですね」
それはまるで、会社の経営状態を審査するような口調で、一番緊張が走ったのだった。
「ありがとうございます。最後は早矢さんお願いします」
「はい。うちはとても満足いく完成度だったんじゃないかな、と思います。確かに粗はあったんですが、誰かの為に作るといったまごころを感じました。うちはそこのところをプラスさせてもらいました。これからも伸び代のある料理で、大変良かったなと思いました」
料理の出来よりも、誰かの為を思って作ったことを見抜いた早矢。
他の四人が、「それ、自分も言いたかった」と後付けで言うくらい暖かい感想だった。
そんな感じで進行していったが、最後にエレナが、「なにこれ」と呟き、全員が何ともいえない表情で頷いたのだった。
しかし、まさか次回、そんなことを言ったエレナが六人目の審査員になるとは誰も予想ができないのだった。




