番外編35 料理を習おう②
「ハーイコージィ!」
『ハーイジョージィ!』のノリで言うなと、内心で突っ込みながら、準備をする光司。
「あれ、分からなかった? じゃあ……ハーイコージィ!」
バットを顔の前に掲げて満面の笑みで言う明石・エルヴィン・湊。
「俺その映画観てないんだよ」
「でも、このシーンだけは有名じゃないすか」
「まぁ……うん」
「だったらー」
「先に、料理……な?」
「仕方ないねー」
光司も普段の生活で慣れているからか、軽くあしらう。
「そうそう。皮剥がすときは、滑るからペーパータオルで抑えるといいぞ」
「こうだねー」
「上手い上手い」
「へへっ。実はばーちゃんの誕生日近くてさ。誕生日で、何かプレゼントするより、こういう方がいいかなーって」
「いいと思うぞ。しかし、プレゼントが料理とは思いきったな」
「まぁ、うちのばーちゃん、大体のものは持ってるからね」
「へぇ」
気になったが、そこまで踏み込むべきではないと判断する光司。
そこにフラッと唯が来た。
「味見は無しだぞ」
「違うし!」
「じゃあなんだ?」
「一応言っとこうかなって。湊っちの家は都内にいっぱいビルもてるんだよね」
「まぁ、親のだけどね。ボクのじゃないし」
「あと、おばーちゃん有名なデザイナーなんだよー。あーしもめっちゃリスペクトしてるし」
「そうなんだ」
「そうなんすよ。マジで凄い。ボクもリスペクトしまくりです!」
興奮しながら、その人の凄さを教えてくれる湊と唯。
ただ、光司には、それだけを言いに来たようには見えなかった。
なぜなら、ずっと料理の方を見ており、後ろで星羅や静がその様子をじっと見ていたからだ。
そして、「まさかな」と思いながらも、それ以上は突っ込まなかった光司。
それ以上は突っ込むべきではないと、話を切り替えた。
「で、いつなんだ?」
「来月の──」
「まだ、時間あるな。じゃあそれまでに驚かせられるように特訓だな」
「オー! コージィ!」
抱きつこうとしたが、やんわりと止められた。
「それはなんの映画なんだ?」
次は暑苦しい関隼人だ。
「うす! 親方、うすっ!」
「親方はちょっと……」
「では、師匠!」
悪化してると思い、好きに呼ばせることにした光司。
正直、呼び方以外はまともで、一番腕が良かった。
「ホントに上手いな。骨に身が殆どついてないし、骨の抜き方も完璧だな」
「ええ。実はうち病院なんです」
「え?」
「ただ、俺は人切るより魚や肉切ってる方が合ってるというか」
「まぁ、向き不向きがあるしな。継がないといけないとか結構プレシャーとかあるんだな」
どうりで扱いに慣れていて上手いんだなと納得していた。
「まぁ……そうっすね。ただ、兄貴が継ぐみたいなんで俺はそこまで求められてないっすね」
「なんか大変だな」
「そうでもないっす! 俺は俺で独立してお店開きたいですしね」
「そうか。ちなみに親御さんってやっぱり外科なのか?」
「え? いや、美容整形っすね」
「え?」
「え?」
「……外科じゃないんだ」
「そりゃそうっすよ! うちの看板いっぱい出してますし」
「……そういうものなのか」
まぁ、少し切ったりするかと思いながらもそれ以上は突っ込まなかったのだった。
ただ、誰よりも盛り付けが綺麗だった。
次は、光司が最近まで、女子だと思っていた花咲薫だ。
男子だと言う割には、フリフリのエプロンを付け、頭巾を頭に巻く時点で、疑わざるを得ない。
何の疑問も持たずに、フリフリのエプロンを付けるのに、なぜメイド服は拒否するのか分からない。
「光司さん、よろしくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
声も話し方も女子だ。なんなら喉仏も無い。
まつ毛も長く、線が細い。ムダ毛や髭なんて痕跡すら見当たらない。
そして、料理を習いに来た理由だが、いつか彼女に作りたいのだと。
百合かな? なんて光司が勘違いしてしまうのも仕方がないだろう。
だが、センスはいいのだが、少し不器用だった。
「はぅ……」
「あ、すまん」
「……いえ、だいじょーぶですよー」
光司が、少し手を添えるだけで、顔を朱らめるのだ。光司はもうお手上げだ。
寧々を呼び出してしまうくらいに。
最後は今日唯一の女子勢、海道・メリー・エレナ。
湊と同じくハーフらしいが、どう見ても向こうの血が強い気がする。
ただ、中身は完全に日本人だった。
静や星羅と張り合えるくらい、食い意地……食にこだわりがあるらしい。
「萌歌に勝てるくらい上手くなりたいの」
どうやら、狙ってる彼には、もう一人恋敵がいるらしい。
中々に趣深い理由だ。
しかし、なんというか、やる気と実力があっておらず、一番不器用だった。
「ここの骨の固いとこに合わせて包丁をすくように」
「こうかしら?」
「そうそう。その調子」
「へへ。なんか、あなたってわたしの好きな人に少し似てるわ」
「そうなのか?」
その瞬間、光司は理解した。
きっと、その彼も苦労人なんだろうと。
そして、そんなことを言うもんだから、唯、寧々、星羅、静、早矢の五人が勢いよく飛んできた。
唯と星羅は急ぎ過ぎたのか、テーブルに身体の一部をぶつけていたが、痛みよりもエレナの発言の方が気になったらしい。
「ちょ、そんな焦らなくても取らないわよ! 例えよ例え! 私は亨一筋だし。(言っちゃった!)」
「そ、それならいーし」
「そうですね。これ以上ライバルは入りませんからね」
「全く。冗談はやめてよね」
「ええ。笑えませんしね」
「本当ですよ。対策を考えないといけませんからね」
エレナは少し発言に気をつけるよう、心に書き留めたのだった。




