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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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番外編34 料理を習おう①


 1組の男子は放課後に、全員で改めて張り出された成績を見て固まっていた。

 「やはり、難関高の名は伊達じゃない、か」

 米沢鷹臣が、呻くように呟いた。


 八位、花咲 薫 (1組) 479点

 二十四位、米沢 鷹臣 (1組) 440点

 三十位、市田 柊真 (1組) 420点

 四十位、狭山 悠真 (1組) 398点

 四十一位、佐藤 桃李 (1組) 395点

 四十四位、万願寺 匡人 (1組) 385点

 四十九位、聖護院 正親 (1組) 374点

 五十二位、明石 エルヴィン 湊 (1組) 369点

 五十五位、関 隼人 (1組) 361点


 薫を除いて、女子勢よりも点数が低かったのだ。

 とはいっても、十分に上位である。

 彼らも勉強会に参加したはずなのだが、点数が下がった原因を各々が考えていた。


 しかし、答えは出なかった。

 勉強会の翌日に、須永家へ料理を習いに行ったが、それが成績に影響したとは微塵も思っていなかった。

 なぜならば、薫がトップ10入りを果たしているからだ。


 そんな薫は、男子たちに髪の毛をわしゃわしゃとされながら褒め称えられていた。

 「さっすが、薫きゅん。頭いいねー」「男子として鼻が高いぞ」「可愛くて頭いいなんて最強じゃん」「付き合いたいな」「それな」「お前ら薫のこと狙うのは止めろ」「でも、薫なら男でもよくね?」「それな」「お前ら……」


 そんな彼らだが、全員で押しかけるのは良くないと、シフトを組んで光司の元へ料理を習いに行っている。

 もっとも、料理教室に通えばいいのだが、変に居心地が良くついつい足が向いてしまうのだ。

 女の子ばかりが住む家だというのに、彼女らには全く見向きもしないのはどうなのかと思うが、誰もそのことに言及しない。いや、思い至らないのだった。



 とある日の日曜日。

 今日は須永家では出かける予定はないとのことで、料理を習いに何人か来るそうだ。


 「男子達もマメだよねー」

 ソファに深く沈み込んで言うのは唯だ。


 「まぁ、光司モテるしね」

 唯の横にポスッと座ったのは星羅だ。


 「おい、男にモテても嬉しくないんだが……」

 唯の横で狭そうに座っているのはこの家の家主、光司だ。


 「そうですよ。これ以上ライバルが増えたら困ります」

 的外れなツッコミを入れるのは、野菜の収穫を終えた寧々だ。


 「寧々さん、安心してください。ライクとラブの違いです」

 ひょいと採りたてのきゅうりを齧るのは静だ。


 「この家では、これが普通なんですか?」

 まだ慣れない様子で戸惑うのは早矢だ。


 そんな早矢の問いに、それぞれが顔を見合わせると、何かおかしかったかと、みな首を傾げた。


 そんなタイミングでチャイムが鳴ったので、きゅうりをばりぼりと食べながら静が玄関に向かった。

 「よくきゅうり食べられて怒らないわね寧々」

 「え? ……あっ! ちょ、静さん! なんで勝手に食べちゃうんですかー」

 カゴを抱えたまま追いかける寧々。


 数分後、二人の後ろには三人の男子と一人の女子と薫きゅんがいた。

 「よろしくお願いします」

 真っ先に挨拶したのは、1組の数少ない常識人、佐藤桃李。爽やかなイケメンだ。

 「光司さん、これを」

 「そんな気にしなくていいのに」

 わざわざ菓子折りを持ってくる桃李。

 横から星羅と静が手を出すが、光司と桃李の腕が邪魔をして奪い取れなかった。


 「今日こそは完璧に覚えたいね」

 青い目でウインクするのは明石・エルヴィン・湊だ。

 ウインクする相手が女子なら決まっていたのに、ウインクした相手は光司だった。

 「まぁ、がんばれ」

 呆れ顔で嘆息するように光司は言った。


 「親方、今日もよろしくお願いします!」

 元気いっぱいに挨拶するのは関隼人だ。

 「その熱量が空回りしないといいな」

 「……うっす!」

 隼人はそこで、初めて自分の空回りが点数に影響していると気付いた。


 そして、その後ろでニコニコしているのは、海道・メリー・エレナだ。

 「エレナは食べに来てるでしょ」

 星羅が言うと、エレナはすかさず反論した。

 「違うわよ。今回はちゃんと習いにきたわ」

 「あら、そうなの?」

 「うん。食べさせたいやつがいてさ」

 「へぇ〜」

 ほんのりと頬を朱くするエレナ。

 それを見てニンマリと笑顔になる星羅。

 「エレナも隅におけないわね」

 「そりゃそうよ。わたし大人だもん」

 ない胸を堂々と前に突き出すエレナ。

 「まぁ、そうしないと勝てないからさ」

 「ふーん」「へぇー」「ほぅ」

 星羅と唯と静が、ニマニマと隠そうともせずにエレナを見ていた。

 

 最後は学園の愛されマスコット薫きゅんこと花咲薫だ。

 薫は、当初、光司に女子だと思われていた。

 それもそのはず。男子成分は皆無だからだ。

 例え脱いでも見つからないだろう。

 未だに嘘をついてると思われてるくらいだ。

 学園に複数いる男の娘の中でも、頂点に君臨するのが、薫なのだが、本人にその自覚はない。

 「じゃあ、薫くんは料理するのにメイド服に着替えないとだね」

 唯がそんなことをサラッと言うと、両手をぶんぶんと振った。

 「い、いや着替えないよ。普通でいいよ」

 「そう?」

 「そう。僕、男の子だもん」

 「男の子……ねぇ」

 静も疑うように薫を見ていた。

 「薫くんも誰かに作って上げたいんですか?」

 寧々がそう尋ねると、顔を真っ赤にして小さく頷く薫。

 「うん。いつかは……」

 そう返事した薫に、男子と女子がいろめきだった。

 「ほら、変なことしてないで」

 光司だけが、やんわりと嗜めた。


 という事で、早速光司が教えていく。

 それはさながら料理教室を開けそうな教え方だった。

 「そう。背中から入れて、腹側は骨をすくように。……上手いな……」

 「最近は家でもやってるんです。両親遅いし、妹に作らせるのもなんか違うなって」

 「そうか」

 「ええ。上達すると、喜んでくれるんで、僕も嬉しいですね」

 桃李が魚を捌きながら、家でのことを話していた。


 「まぁ、俺も嬉しそうに食べてくれると嬉しいし、作り甲斐もあるからな。感想もあると次はこうしようとかいろいろ考えられるし」

 「ですよね」

 そこで、光司はチラッと唯達の方を見る。

 いつの間にかリビングでは何かの準備が始まっていた。


 「何やってんだ?」

 「何って……、審査するんでしょ?」

 「その為に買ってきたんですから」

 「おかしなこと聞くわね」

 唯と静と星羅が不思議そうな顔して、準備していた。

 リビングに長机と五人分の椅子。そして、点数棒を置いていた。


 光司が寧々の方を向くと、きょとんと首を傾げていた。どうやら、今回は寧々は期待できそうにないらしい。

 早矢はというと、戸惑いと期待半々といった顔をしており、だんだんとこの家のノリに染まってきているようだ。


 それを見て光司が桃李達に言った。

 「作る量が増えちゃったな」

 「「「「「ええ……」」」」」

 まさか、光司もそっち側とは思わなかったのだった。


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