番外編31 ラジオをやろう
星羅とティノが放送委員になった日の放課後。
各クラスの放送委員がとある教室に集められ、お昼の放送の順番決めをすることになった。
そして二人のクラスである1年1組は丁度中間くらいの順番になった。
「最初じゃなくて良かったねー」
ティノがほっと胸をなで下ろして星羅に言った。
「まぁ、どんなものか分からないものね」
翌日のお昼。
3年の担当がお昼に音楽を流していた。
「やっぱり音楽流すのが普通なのかな」
「どんな音楽でもいいのよね?」
「流石に変なのはダメだと思うよ」
「そっかー」
お昼に流れている小気味のいいジャズを聴きながらお昼ご飯を食べている。
「ちなみにティノはどんなの掛けようと思ってんの?」
「そりゃあ、自分の好きなものでしょ」
「へー、どんなの聞くの?」
「んー、邦楽だとディルとかホルモンとか?」
「お、いいねー」
「何、星羅もそういうの好きなの?」
「うん。結構聞くわよ。まぁ、他にもいろいろ聞くんだけどさ」
「それって、光司さんの趣味?」
「ま、まぁ……そうね」
顔を真っ赤にして、口をモニョモニョとさせる星羅。
そんな星羅をみんなで暖かく眺めていたのだった。
それからも、2年と3年のクラスが、それぞれ音楽をかけていたのだが、流れが変わったのは、1年3組の番になった時だった。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
いつも通り音楽を流して終わりかなと思っていた二人。
だが、今回は様子が違った。
今年の1年である。普通なわけがないのだ。
「1年3組の放送委員、朝倉曜とー」
「朝比奈暦でお送りいたしまーす」
星羅は思った。これは普通に始まらないなと。
好奇心から、顔が緩むのが抑えられなかった。
「星羅、なんか楽しそうだね」
「そりゃあそうよ。だって、絶対に音楽流して終わりにしなそうでしょ?」
「確かに」
その予想は当たっていたようで、二人は普通に会話を始めた。
「──それでですねぇ、あたしは落語が好きでして、僭越ながら、敬愛する志の輔師匠の落語を──」
「あ、いいねぇ。ということでやってもらいましょうか」
「んっ、んんっ……じゃあ、みどりの窓口を──」
まさか、お昼の放送で落語を演るとは思わなかった二人。
そして、周りでも聞き入ってしまっていた。
結局、終わるまで誰も食べることを忘れていた。
「ティノ、これはやばいわ」
「そ、そうだね」
「うちもなにかやらないとまずいわね」
「そうだねー。でも、何やるの?」
「まさか、初っ端からこんな手を打ってくるなんてね。負けてられなわいわよ」
「そんなつもりないと思うけど」
「いいえ、これは1組への宣戦布告よ」
すっくと立ち上がり、拳を握って、決意をあらたにしていた。
「とりあえず、食べよ?」
「そうね」
──放課後、教室。
「で、どうするの?」
星羅とティノは向かい合って座っていた。
机の上には星羅が用意したのであろうノートがあった。
「ラジオをしましょう」
「まぁ、それしかないよねー」
満更でもない顔をするティノ。
「そういう決断早いところ好きよ」
「あ、ありがと」
頬を朱くするティノ。
「……もう」と小さく呟いた。
「じゃあ、まずは番組名決めないとね」
「そうね」
舌を少し横に出して、ペンをカチカチとさせる星羅。
「なにかいい案でもあるの?」
「そうねぇ、『喜築星羅のひざまずきなさいラジオ』はどう?」
「わたしもいるんだよ?」
困ったような顔で問うティノ。
「あ、そうよね。ごめんごめん」
「もう……」
呆れた顔をしながら、椅子の背もたれに背中を預けるティノ。
「あと、『ひざまずきなさい』はお昼からダメね」
「そっかー」
「そうよ。…………あ、あとで『ひざまずきなさい』って言うのは録音させてね」
「え? まぁ、うん……」
ティノの提案に首を傾げた星羅。だが、それよりも番組名を決める方が優先だと考えを打ち切った。
「じゃあ、そうね『星羅とティノのシークレット・デトックス』とかどう?」
「毒に塗れてそうなんだけど」
一体どこにデトックス要素があるのかとティノは思った。
それに、校内放送だ。公にするのにシークレットとはなんなのだろうかと眉間にシワを寄せた。
「……ちなみになんだけど、デトックスって何?」
「わたしの声を聞いたら心が浄化されるでしょう?」
残念ながら煩悩に塗れてしまうので、デトックスは一生不可能だなとティノは思った。
だが、そんなことは言わない。
ここは敢えて逆のことを言っておこうと口を開いた。
「浄化どころか、胃が痛くなる人もいると思うんだけど? お昼にはちょっと重すぎるわよ」
「そう?」
「そう」
寧ろ、ご褒美なんだけどなと思うティノだが、流石に常識があると自負しているので、星羅の案は却下せざるを得ない。
だが、ファンクラブの広報誌のタイトルには使えるかもしれないと、スマホのメモ帳に入力した。
「じゃあ、そうねー『女王様と迷える子羊たちの悔い改めラジオ』」
「却下」
「えー!」
星羅が、両手を突き出して突っ伏しながらティノを見た。
「これもダメなの?」
「ダメ。わたし的にはアリだけど、ダメ」
「そうなんだ。……ん?」
「どうしたの」
「ティノ的にはいいんだ」
「あ……」
言われて、仰け反るように驚くティノ。
つい、反射的に返答してしまった。迂闊だったと悔い改めてしまうティノ。
「ほ、他にはないの?」
「そうねぇ…………」
ティノが星羅の書いたノートを覗く。
さっきまで言っていたのが、可愛く見えるくらい尖っていた。
どれも採用できなかった。
そんな中で、一つまともなのがあった。
「これはまだ使えそう」
「『星羅とティノのおねだりラジオ』? 地味じゃない?」
自分で考えておいて地味とは? と心の中でセルフツッコミするティノ。
「じゃあ、どうせなら混ぜましょう」
「え?」
「『女王様と迷える子羊たちのデトックスランチタイム』どう?」
「長いよ」
「そう?」
「あと、情報量が多い」
「ええ……」
「女王様だけで一個の要素なのに。子羊連れてきて、デトックスして、お昼ご飯まで食べて……ジンギスカンでも食べてるの?」
「そんなつもりないわよ……」
流石に気圧される星羅。
「あと、流石にお昼のラジオで女王様は無理。多分コードに引っかかる」
「ええ……。じゃあ……デトックス消す?」
「そこじゃないよ!」
それから暫く二人で案を出すが、煮詰まってしまい、気がつけば下校時間になっていた。
外は夕焼けの茜色になっていた。
「明日だよね?」
「そうよ」
そうして、二人は一度天井を見て、深く息を吐いた。
「ねぇ、星羅」
「なぁに?」
「『星羅とティノのおねだりラジオ』が一番マシだと思うの」
「そう……」
もう疲れて、なんでもよくなっていた。
「じゃあ、後ろに(仮)をつけておきましょうか」
「うーん。…………そもそも『おねだり』って何よ」
「いろんなお便りを頂戴って意味で」
「あー、なーる」
上体を起こして、星羅を見る。
「(仮)はいらないわ。それで行こう」
「分かったわ。じゃあ、決まったってことで、明日何話すか決めましょうか?」
二人が立ち上がって、握手をしたタイミングで大神先生が廊下から声を掛けてきた。
「おーい。もう下校時間過ぎてるぞー」
「「はーい」」
仕方なく帰る準備をした二人。
「じゃあ続きはサイゼで決めよっか」
「そうね」
そうして、無事第一回目のラジオは終了し、他のクラスへ衝撃を与えた。
そしてその後、1年2組で行われたラジオドラマに苦い顔をし、1年4組のコメディ寄りの討論に、衝撃を受けたのだった。
そして、それに触発されて、2年と3年でも似たような編成になっていったのは言うまでもない。




