番外編29 勧誘②
為すがまま4組へ連れてこられた早矢は、その光景にただ黙るしかなかった。
教室のカーテンが全部閉じられているからだろうか、部屋全体が暗い。
早矢の前方には四つの行灯がありそこだけが明るくなっている。
わざわざ、黒板を隠すように、壁代を後ろに掛けてあるほどの念の入りようだ。
小さくだが、雅楽もかかっていた。
早矢は椅子に座らされ、後ろでは忍者が三人跪いて控えていた。
そこも拘って欲しかったと思ったが、多分用意出来なかったのだろうと結論づけた。
それだけでも異常ではあるのだが、目の前には五人の人物がいた。
直衣を着たメガネの男子生徒が一人。
狩衣を着た長髪の男子生徒が一人。
気恥ずかしそうに水干を着る男子生徒が一人。
そして、白拍子を着た女子生徒が一人。
そして、机を集めて、その上に座っているのは十二単を着た女子生徒だ。
「あの……これは……」
流石に戸惑うしかない。
何か演劇か歴史の研究でもしているのだろうか。そうでなければこんな格好をしている理由がない。
しかし、返ってきたのは予想していなかった言葉だった。
十二単を着た少女が重そうに片腕を持ち上げた。
プルプルと震えている。
「天唐和早矢。うちのクラスに来るといいの」
「はい?」
説明が足らなすぎた。
自信満々にしている少女は、満足したのか、それ以上語ろうとしない。
説明を求めるため、後ろで立つ四人に視線を向けると、直衣を着たメガネの男子生徒が「ふっ」と笑うと、その場で答えを口にした。
「安奈様はこう言いたいのだ。うちのクラスの平均を上げるため、最近やってきた君にうちのクラスへ編入してほしいと」
どうしてそれが、こんな格好でやる必要があるのか、微塵も分からなかった。
「それは、どうしてですか? 校則ではそのようなことは出来ませんし、うちは元から1組なんですが」
次に答えたのは狩衣を着た男子生徒だ。よく見ると、少し着崩していた。ギターとかベースとか持ったら様になるなと漠然と考えていた。
「君の名は……とても雅な響きがある……」
「は、はあ……ありがとう……ございます?」
わざわざカッコつけて言うもんでもないと早矢は思った。
「そんな君には是非ともうちに来ていただきたい」
「えーっと……」
「京都出身かい? それとも奈良?」
「いや、シア……なんでもないです」
「ふむ……」
そういってスマホで調べる麗太。
「姉妹都市は神戸か……」
「ダメじゃね?」
「そうだな」
鏡夜がメガネをクイッと持ち上げて否定した。
そんな時、上から何か黒いものが降ってきた。
その黒いものが立ち上がると、それはくノ一の格好をした寧々だった。
まさか、寧々もそっち側の人間だとは思わなかった早矢。
驚きより、好奇心が優った。
次はどうなるのだろうと期待した。
「遅れてしまいました。迎えに来ましたよ早矢さん」
「むっ! 1組のおかーさんじゃないか!」
麗太が大仰に芝居掛かった言い方をするが、『おかーさん』で台無しである。
「教室の前にはうちの生徒達で塞いでいたはず!」
「どうやってここに……」
だが、寧々はそれには答えなかった。
「もう、ダメですよー。こんなやり方は許しませんよ。めっ!」
「「「「「はい」」」」」
五人とも、反論することなく素直に従った。
一体何をすればこんなに大人しくなるのかと気になったが、聞けなかった。
寧々は早矢の手を引いて、普通に教室のドアを開けて廊下に出た。
4組の生徒が申し訳なさそうに立っていた。
「あ、もう大丈夫ですよー」
そう言うと、自然と撤収となった。
どこかにカメラがあるんじゃないかと、キョロキョロとしてしまった。
しかし、それよりも気になることを聞かなければならない。
「寧々さんその格好は……」
くノ一ではあるが、よくある安いコスプレ衣装のように薄手の黒いサテン生地で、ヒラヒラしていた。
露出は少し多めで、寧々の趣味とは思えないが、不思議と可愛らしい衣装だった。
「あ、唯さんに作ってもらいました。急ぎだったので、この生地しかなくて……」
「そうですか。かわいいですね」
「えへへ……」
そんな状態で教室に戻る途中、燈に会った。
「あ、寧々!」
「燈さん……」
「その格好はー、もしかしてー、忍者部に入ったんだねー」
右に左に揺れながら、ニコニコと言ってのける燈。
「あ、違うんです。これは成り行きで……」
「いえ、寧々様には我々の頭領となっていただきたく……」
振り返ると、先ほど早矢を連行した三人の忍者がいた。
頭巾を外して、寧々の前に跪く。その素顔は三人とも整っていて、どこぞのアイドルグループと言われても違和感が無かった。
「やっぱりー」
「ちがうんですー」
早矢は思った。この学園は普通ではないと。
そして何より、忍者と同じ動きができる寧々をすごいと思った。
「あの、寧々さん」
「早矢さんどうしましょうー」
「あの……、うちも忍者部に入った方がいいのでしょうか?」
「ふぇ?」
「おー! 寧々が部長なら、あたしも入ろーかなー?」
ササッと、忍者の一人が入部届けとチラシとパンフレットを差し出してきた。
「用意周到ですね……」
だが、結局誰も忍者部には入らないのだった。
一方その頃、4組では──
「勧誘失敗ね」
紫音がため息交じりに言った。
「当たり前だろ? そもそもこの格好の意味がわからない」
「鏡夜と麗太が着たいって言うから」
「雰囲気で押せば行けると思ったんだ」
「ああ。それに、よくこういう格好していると聞いたから。だが、受けなかったな」
「早矢さんはまだ慣れてないのかもね」
鏡夜、麗太、哉人、紫音の四人が苦笑しながら、今回の内容を纏めていた。
「重くて動けないのー! というか、足痺れて大変なの。なんとかして欲しいのー!」
一人、机の上で雛人形の如く十二単を着た安奈が重くて動けなかった。
腕を動かそうにも衣装が重い為か、動きは緩慢で、楽しんでいるようにしか見えなかった。
そして、誰も助けなかった。
なぜならば、4組のリーダー兼マスコットキャラクターである。
戻ってきたクラスメイトが全員で写真を撮り終えるまで、そのままなのだった。




