番外編28 勧誘①
それは、試験の結果が発表された日のことだった。
三十一位、伏見 鏡夜 (4組) 418点
四十二位、賀茂 紫音 (4組) 390点
四十七位、八坂 哉人 (4組) 378点
五十八位、松尾 麗太 (4組) 355点
六十五位、平 安奈 (4組) 346点
4組の一部の生徒がその結果を見て、顔を曇らせていた。
「今回のテストは最初だというのに、やたらと難易度が高かった。これからもああいう感じなのだろうか」
そう言ったのは4組の頭脳、伏見鏡夜だ。
動揺しているのか、メガネの真ん中をずっと『くいくい』と持ち上げており、その手は震えていた。
「国語と英語は確かに難しかった。だが、他の三教科もそれなりに難しかった。あんなの引っかかるに決まっている」
自分の結果に納得がいっていないのか、不満げな顔でそう漏らすのは、4組のヴィジュアル担当の松尾麗太だ。
しっかりとトリートメントされた長い髪の毛を、跡がつくくらい『くるくる』と指で巻いていた。
「でも、確かに難しいところは、基本の部分だから仕方ないが、それにしてもこの結果はやりきれないな」
自信の結果と向き合うが、もっと出来たのではないかと肩を落とすのは、4組の常識担当の八坂哉人だ。
『やれやれ』と諦めるように肩をすくめた。
「あーくし、難しいなりにそれなりに出来たと思うんですの。それなのにこの結果は許せませんわ」
『ぷりぷり』と頬を膨らませるのは、4組の紅一点、賀茂紫音だ。
唯の信奉者でもある彼女は、改造してもらった制服の袖をずっと触っていた。
ちなみに、勉強会があったと知ったのは試験が終わった当日だった。悔しさの余り安奈を抱き抱えたまま帰ってしまったほどだ。
「おかしい! こんなのおかしいよ!」
飛び級でもしたのかな? という位背の低い、4組のリーダーである平安奈は、一際自身の点数が低いことに、『ぷんぷん』と頬を膨らませていた。
それはさながらリスのようで、紫音に後ろから抱き上げられていた。
「これは、作戦を練らないとダメなの」
紫音の腕の中で、そう宣言すると、五人は教室へと戻っていった。
「で、どうするの?」
「いい加減下ろして欲しいの」
「ダメよ」
「!?」
紫音は椅子に座ると、膝の上に安奈を乗せた。
もちろん、逃げられないようキツく抱きしめたままだ。
腕の中でもがくが、体力や筋力では敵わないので、そのままなすがまま諦めた。
そして安奈は腕の中から議論を始めた。
「じ、じゃあ、うちのクラスの向上を目指すに当たって、何かあるからしら」
初めに手を挙げたのは鏡夜だった。
メガネをクイッと押すと、自信満々に答えた。
「1組で来ていなかった人の名前があった」
「確かに」
「つまり、転入生枠でうちへ引っ張れないだろうか?」
転入生ではなく、元々記載もあった。
何より、彼らにそんな権限は無いのだが、誰も気がつくことなく議論は進んでいく。
次に口を開いたのは麗太だ。
「すごく、4組向けの名前してたね」
「天唐和早矢さんだね」
「和が入ってるわね」
「京都っぽい」
「そういえば、着物着て挨拶に着ていたな」
「じゃあ、尚のこと、4組向けじゃない」
「うちの隠密からの情報だと、礼儀作法も完璧らしい」
「なるほど」
みんなが盛り上がってる中、一人常識人の哉人だけが、どう修正しようか考えあぐねていた。
「(そんな単純な話じゃないだろうに。それに、そんな理由だけで引っ張っていいワケがない……)」
そんな哉人を見て、紫音が声を掛けた。
「哉人、何か言った?」
「あ、いや……。ただ、着物が似合うとか、名前がそれらしいだけで、勧誘するのは違うかなって」
「哉人は真面目ね」
鏡夜と麗太が、何か気づいたのか、それとも思い出したのか、安奈に続いた。
「例えば、うちのクラス、不知火さんは実家神社で、本人も巫女さんだ」
「そして、秋山。あいつは御朱印巡りが趣味だ」
「えっ?」
それから二人は、これでもかという勢いでクラスメイトの情報を並べ立てた。
「証明完了」「チェックメイト」
メガネの真ん中を持ち上げ、メガネを光らせ、ドヤる鏡夜。
ファサッと髪をかき上げ、満足気に微笑んだ麗太。
「じゃあ、決まりね」
「それは、わたしのセリフなのよ」
紫音が纏めると、安奈が不満そうに紫音の顔を見上げた。
哉人一人だけが、『一体どうしてこうなった』と戸惑うばかりだった。
そして、麗太が手をパンパンと叩くと、忍者の格好をした人物が三人現れた。
一人は天井から。
一人は床から。
そしてもう一人はロッカーから音もなく現れた。
三人は同時に片膝をつく。
「松尾家隠密、北野学、安井縁、石清水泉水ここに」
三名の忍者が傅くと、安奈が紫音の腕の中から片手を突き出して指令を出した。
「天唐和早矢を連れてくるの!」
「「「御意!!!」」」
それはどこか悪役の秘密結社のようだった。
*
翌日、寧々が早矢に学園の中を案内して回っていた。
「あっちの突き当たりが図書室で、その横から美術室、家庭科室、視聴覚室、多目的室で、あっちの突き当たりが音楽室ですね。あ、間にあるのは準備室です」
「結構広いですね」
「はい。迷わないか、毎回気をつけてます」
「ふふ。そうなんですね」
寧々と早矢が図書室の前を通ると、ドアが開いた。
「あれ、おかーさんと1組の復帰した子?」
図書室から出てきた女子生徒が、フレンドリーな感じで声を掛けた。
「寧々さんは、どこでも『おかーさん』呼びなんですね」
寧々はその呟きに顔を朱くした。
早矢は初対面であるその女子生徒に挨拶した。
「初めまして。天唐和早矢と申します。今後ともよろしくお願いします」
「そんな、固くならなくていいよ。あたいは3組で番はってる山東京佳。よろしくね」
「あっ、はい。(番? 番長ってこと?)」
「3組は、その任侠というか、祭り好きというか、結構賑やかというか……」
寧々がどう説明したものか、考えあぐねていると、カラカラと快活に笑う京佳。
「そんな大したもんじゃないさね。3組は少し我が強いってだけさ」
「は、はあ……」
早矢がぎこちない笑顔で返した。
そんな時、三人が違和感を感じた。
京佳が振り返ると、三人の忍者がいた。
「天唐和早矢様、我らが主人がお呼びです」
「「「え?」」」
だが、反応したときには既に遅し。早矢は忍者に担がれて連れさられてしまった。
早矢は、これもこの学園のノリなのかもしれないと、わざとらしく「あーれー」と棒読みをしていた。
その場に残された寧々と京佳。
「またかー」
「またですね」
寧々はおさげを少しぎゅっと握ったのだった。




