番外編27 この学園の人は大体そんなもの
早矢が制服に身を包み、唯、寧々、星羅、静と共に学園へと登校した。
「まさか、来て早々に学園に行くなんて、不思議な感じですね」
「まあ、家に一人だけいても仕方ないですしね」
「そうそう。結構楽しいよー」
静がすました顔で言うと、唯が上半身を倒して言った。
「そうね。やはり名前を売っていかないとね」
「星羅はそれで墓穴掘ってますけどね」
「墓穴は掘ってないわよ。掘ってるのは苗を入れる場所くらいよ」
「とまぁ、一人だけ冗談が通じません」
「実際に墓穴なんて掘ってないもの」
星羅が寧々と静に揶揄われるが、全く意に介さない。
「星羅さんは何かやっているんですか?」
「星羅はねー、園芸部でお花育ててるんだよ」
「へぇ、それはとても素敵ですね」
唯が代わりに答えると、早矢が目を輝かせた。
「ふへへ……。そ、そうでしょう?」
そして、その言葉に少し顔を朱くして下を向く星羅。
「とまぁ、一人だけここでやりたいことを見つけているんです」
「あんた達もみつけたらいいじゃない」
「そうなんだけどね」「そうですねぇ」「そうですね」
「(うちはどうしましょうかね……)」
三人がそれぞれ考えるようなそぶりを見せると、早矢はどうしたものかと考えたのだった。
そんなことを話しながら歩いていると、いつの間にか学園の校門前に到着していた。
校門をくぐり少し歩くと、通路の真ん中に堂々と立つ人物がいた。
その人物は凛とした佇まいで、早矢を見ると颯爽と近づき、美しい所作で武士のような礼をした。
「おはようございます。姫様」
「姫って……うちのことですか?」
「もちろんでございます。早矢様をおいて他に誰がいましょうか」
早矢が笑顔を崩し、珍しく困った顔で左右を見た。
そして、静がそれに応えた。
「まずは理由を伺ってみてはいかがでしょうか」
「そ、そうですね。……あの……」
「はっ。わたくしめ白鷺凛は早矢様の従者を所望します」
そのままの体勢で凛は自分の要求を言った。
「ど、どうしてうちなんでしょう」
「いいご質問ですね」
身体を起こすと、ニコリと微笑む凛。
そんな凛は1組では少し孤立気味だった。
早矢が来るまでは、他の生徒と話すことはあっても、積極的に人と関わろうとはしなかった。
白銀の長髪をポニーテールにしている彼女は、その見た目や言動から1組では二大女神と称されていた。
月の女神と呼ばれ、畏敬も込めて一目置かれていた。
尚、もう一人の女神は静で、残念な氷の女神と呼ばれていた。
そんな凛の家は、代々続く武門の家で、常に誰かに仕えていた。
彼女の兄達は既に誰かに無理矢理仕えており、凛も誰かに支えるなければと悶々と過ごしていた。
そして、早矢を見て、生涯お仕えすべきお方であると説明を始めた。
「わたくしめは思うのです。わたしのライバルなどと言われている静さんは確かに凛々しく美しい。それこそ女神のようです。ですが、従者を必要としていない」
「まぁ、そうですね」
すげなく返答するが、静が求めるのは対等な相手である。傅かれるつもりは元々ない。
「そして、星羅さんは王女様と言うよりは女王様。わたくしめが仕えたいのはお姫様なのです」
「わ、わたしだってお姫様感あると思うわよ!」
「「「どこが?」」」
「どこがって……。どこかしら?」
星羅は対象外と言われ、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「確かに唯さんは『ヒメ』といった気はしますが、『姫』ではないので、ごめんなさい……。その、なんというかオタサーのヒメといった感じがして」
「めっちゃ失礼だし!」
「あー、なんか分かるかも」
「ちょ、星羅」
唯が衝撃を受けているのを放置して、寧々に対しても対象外であると告げた。
「そして、寧々さんですが、さすがにおかーさんに仕えるのは違いますからね」
「…………」
「そして、昨日一目見て、この人だと。この人しかいないと結論を出しました」
そこまで言われて、早矢は真顔で左右を見た。
気がつけば、唯の近くには運動部員がみな腕を組み、うんうんと頷いていた。
星羅の近くでは、女子生徒が胸の前で両手を握り、こくこくと頷いていた。
そしてそれに気づいた唯と星羅は、それぞれの前に立って声を出した。
「はいはーい。今日はかいさーん! 解散だよー」
「ほらほら。今日はここまでよ。教室に戻りなさいな」
そんな様子を見て、早矢は言った。
「あの……この学園の人達ってみんなこうなんですか? まともな人っていないんですか?」
「いませんよ。みんなこんな感じです。強いて言えば、1組の常識人枠は米沢くんと市田くんでしたが、この前返上しました」
寧々がにっこりとどこか黒い笑顔で言ったのだった。
そして、目の前で自信満々に立つ凛。どこか尻尾が見える気がした。
「まずは、お友達からお願いします」
「はい!」
凛の後ろでブンブンとしっぽが振られているように見えたのだった。
そんなやりとりをしていたら、早矢を後ろから抱きしめる人がいた。
「おはよー」
それは、いつも遅刻か遅刻ギリギリで来る春日小春だった。
「おや、今日は早いですね」
「えへへ。なんか早起き出来たんだよねー」
「おー、すごいじゃん!」
早矢に抱きつきながら、唯とハイタッチする小春。
そんな様子を見て、学園とは思った以上に楽しそうなところなのだなと思ったのだった。




