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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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35 夢は全国制覇


 早矢は静とお風呂に入ることになった。

 静は続きを話す気満々だったのだが──


 「はぁああああああっ!」

 早矢の気持ち良さそうな声を聞いて、話題を切り替えることにした。


 「そんなに良かったですか?」

 「いいもんなんてもんじゃありませんよ。これはいいですね。ずっと入っていられます。はぁ〜」

 目を細め、目の前で手を逆さまにして伸びをした。


 「しかも、この家のお風呂広くて大きいですね」

 「ええ。わたくしもついつい長風呂してしまいますね」

 「分かります」

 そのまま二人で肩まで浸かって恍惚の表情を浮かべていた。


 気持ち良さそうに背中を浴槽に預けた早矢を見て、静は口角を上げた。

 「実はですねこのお風呂、ジャグジーやシルキーバスもあるんです」

 「えっ!?」

 驚き、身体を起こす早矢を見て、静はボタンを操作した。

 その瞬間、ボコボコと大きな泡が発生した。


 「わ、すごい!」

 「しかもですね、光るんです。これ」

 静がなおも操作すると、ピンク、紫、オレンジ、黄緑、黄色、水色、青、赤といろんな色に変わっていく。


 「すごい……」

 「すごいですよねぇ」

 ジャグジーのまま楽しむ二人。

 「ただ、残念なのは、入浴剤を入れるときは一袋だと足りないことですね」

 「それは仕方ないですよ」

 少しシュンとした静を見て苦笑する早矢。


 「静さんは入浴剤とか好きなですか?」

 「ええ、まぁ。ただ、できることなら包み紙に書いてある温泉に行きたいですね」

 「あ、いいですねそれ」

 「目指すは全国制覇です」

 「目標がすごいですね」

 「夢は大きく持たなくては」

 随分と庶民的な夢だなと思った早矢。

 だが、実際試すとなると、かなり大変だとも思った。


 「早矢さんはどうなんですか?」

 「うちですか?」

 「ええ」

 「うちも全部はあれですけど、行ってみたいですね」

 「行きましょう」

 早矢の手を取り、真面目な顔をする静。


 「わたくしと早矢さんは、結構趣味とか合うと思うんです」

 「え、ええ……」

 気圧されながらも、なんとか声を絞り出した。

 合うと言っても、お風呂と着物くらいでは? ……あとは、あのカワウソでしょうか、と考えてしまう。

 確かに動物も可愛いが、全てという訳でもない。ただ、先ほどのカワウソは別だ。


 そして、静は語った。

 「まずは、温泉ですね。ただ、旅館やホテルは十五時チェックイン。早くても十四時です。それまでは各地を観光ですね。現地でしか食べられないもの。その場所でしか出会えないモフモフさん」

 早矢は静が自分の願望を言うのを黙って聞いていた。


 「あとは、神社や寺社があれば御朱印を。城があれば登りたいですね」

 「静さんはやりたいことがいっぱいあるんですね」

 「ええ、もちろんです。早矢さんはそういうのはないんですか?」

 「うちは……」

 そこまで言って、早矢は言葉に詰まってしまった。


 まだ、一日しか経っていない。

 早矢の目的は光司に会い、光司と過ごすことである。

 それ以上の目的を考えてはいなかった。

 そんな考えを静は見抜いたのか、ゆっくりと話し出した。


 「早矢さん。わたくし達は、確かに光司くんに会いたくて来ました」

 胸に手を当て、目をつぶる静。


 「ただいろいろあって、彼の横にいるにはかなりの努力が必要であることが判明しました」

 その努力がなんなのかは分からないが、静が言うのだ。相当に難しいことなのだろうと覚悟した。


 「まぁ、高校にいる間に、彼の隣にいるに相応しくなれるようになるのは当然です。ですが──」

 そして、目を見開き、早矢の目をじっと見つめる。


 「折角、この世界に出てくることができたのです。自分のやりたいことをする。まずは、それが重要ではないでしょうか?」

 小首を傾げて、早矢に問いかける静。


 「う、うちは……」

 「見つからないのなら、これから探せばいいし、分からないなら、わたくし達が一緒にみつけます。ただがむしゃらに隣だけを求めても、その頂は簡単には登れません。寄り道をしながら、一歩ずつ登っていくのです」

 それはとても優しい顔をしていた。


 「静さん……」

 「まぁ、途中までは光司くんの受け入りですがね」

 「そう……なんですね」

 「ええ。早矢さんも、何かを見つけるといいかもしれません。その方が光司くんも喜ぶでしょうから」

 「分かりました」

 自分の求めるものは光司だけなのだが、確かにそれ以外のことに無関心ではつまらない女になってしまうなと納得したのだった。


 しかし、一つ気になることがあった。

 「あの静さん」

 「はいなんでしょう」

 「その『努力』とはなんなのでしょうか」

 「…………それは……、みんなで話し合いましょう。光司くんが眠った後で」

 「分かりました」

 みんなで話さなくてはいけないとは一体何があったのだろうかと考える早矢。


 そこで、違和感に一つ気がついた。

 戦闘機で駆けつけ、ライバルが来ないよう研究所を破壊した割には、ベタベタと『愛してる』といった行動をしていないことに。

 これは、一体何があったのか。

 早矢の中の探究心に火がついたのだった。


 「では、そろそろ出ましょうか」

 静がそう言うので、名残惜しいが出ることにした。

 それにしてもお風呂はいい。早矢の中で一つ好きなものが出来た瞬間だった。


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