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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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34 一方その頃/静親衛隊


 静に連れられ、静の私室に入った早矢はニコニコ笑顔のまま固まってしまった。

 なぜなら、部屋はとても広かった。

 確かに二人一部屋でもいいと思った。


 だが、部屋の中は無数の動物のぬいぐるみが我が物顔で占有していた。

 ベッドの上、チェストの上、テーブルの上、デスクの上、床一面埋め尽くしそうな程だ。


 「あの……静さん。これは……?」

 「これですか? これはうさぎさんです。名前は──」

 「あ、いえ……」


 早矢が聞きたかったのはそれではないのだが、きっと何を聞いても同様の答えしか返ってこないだろうと思った。

 確かにかわいい。かわいすぎて今すぐ抱きかかえてしまいたいと早矢は思った。

 

 しかし、綺麗に並べられているこの状況でそんなことをしていいのかの判断がつかなかった。

 そして、今日はこの部屋で寝るのだ。どこまでが許され、どこからが許されないのかを見極めなければならなかった。

 もっとも、その早矢の考えは全て無駄なのであるが……。


 とりあえず、一つ一つ聞いていくことにした。

 「あの……。この黒いのはなんですか?」

 一番存在感のある黒い物体。それはカラスのようにもキーウィのようにも見えた。

 しかも一番いい場所に陣取っていた。

 そしてその周りを大量のカワウソ達が取り囲んでいた。

 これは何かの儀式なのではないか。静なりの考えがあるのではないかと思っていた。


 「これですか? これはカラス隊長です」

 真顔で答えた静。

 その顔には一切の戸惑いや疑念はなかった。フラットな表情でそう答えた。


 「カラス……隊長……」

 「はい。静親衛隊のカラス隊長です。現在、お嫁さん募集中ですね」

 また謎のワードが出てきた。『静親衛隊』とは……。

 いや、『お嫁さん募集中』も中々にキラーワードすぎる。

 だが、それを聞く前に、静が悠然と歩き出して、それぞれを案内していった。


 「そして、こちらを取り囲んでいるのがカワウソ隊員達ですね。みんな手をぎゅうっと合わせてかわいいですねえ。それにこれ手のところに磁石が内蔵されておりまして、ほらこうしてハグできるんです。カワウソ達で手と手を取り合えることもできるんです。あと、こっちのは磁石はないですが、こうして……腕の……中に……っ……。ふぅ……。無理に押し込んでも綺麗にハグできるんです。こちらの少し小さめのカワウソもそれぞれ表情が違くて──」


 なんか、ところどころツッコミしかないが、これは割り込んではいけないなと、笑顔を絶やさずに聞くに徹する。

 しかし、少し硬い顔になっていたのだろう。

 二匹のカワウソを早矢に手渡した。


 「わ! ふわふわ!」

 「そうでしょう」 

 「あ」

 「気づきましたか?」

 「はい。微妙に違うんですね」

 二匹のカワウソがなんともいえない愛くるしい表情で早矢を見つめた。


 「ええ。こっちはニコニコ。こっちは悠然としてますね」

 「はい。そちらはジャックとダニエルといいます」

 「え?」

 「ジャックとダニエルです」

 「あ、はい」


 カワウソと見つめ合いながら手を動かす早矢。

 そんな様子を満足げに眺める静。

 そして、隊員達の名前を一匹ずつ言っていくのだが、そのネーミングセンスにはツッコミたくなるほどだった。


 「それで、こちらから、カティ、サーク、フォア、ローゼス、ブラック、ニッカ、山崎──」

 総勢三十匹全て言い終えて、どこか満足そうだった。


 ちなみにカワウソ達と似たようなもので、プレーリードッグ、マーモット、ミーアキャット、アライグマ、アナグマ、レッサーパンダ、タヌキ、キツネ、オコジョ、イタチ、フェレット、ビーバー、ウォンバットとチェストの上で仲良く一列になって早矢を眺めていた。

 本当に動き出しそうなくらいだ。

 もしかしたら、本当に動くかもしれない。そう思わせる雰囲気があった。


 そんな静はベッドの横に山積みに。文字通り、ピラミッドのように山積みになったペンギンを手に取った。

 「そして、こちらペンギン隊員。どっしり構えているのが、副隊長のエンペラーペンギン。彼女募集中です」

 一個一個持ち上げて教えてくれた。

 キングペンギン、マゼランペンギン、フンボルトペンギン、アデリーペンギン、ジェンツーペンギン……。子供のフワフワのまである用意周到さに、思わず心が温かくなった。

 ほぼ全種類あるのではないだろうか。


 「そして最後は、新入りのハシビロコウさんですね。大使に就任です」

 「星羅さんが買ったものですね」

 『大使』の部分はスルーした早矢。静も特に気にした様子はない。


 「はい。わたくしに似て、とても凛々しく優雅ですね」

 「うん?」

 「聞こえませんでしたか? わたくしに似て──」

 「あ、いえ、そこじゃないです」

 「では、どちらが」

 「わたくしに似て。とは?」

 それを言って後悔した。


 静の表情が急に柔らかくなったのだ。

 そして、どうしてそうなったかの経緯を話してくれた。

 星羅が静に似た動物はハシビロコウだと。


 そして、スマホを取り出した静は各動物園にいるハシビロコウの画像を見せながら、詳細に語って聞かせてくれた。

 それは、寧々がお風呂が空いていると言いにくるまで続いた。


 「では、続きは寝る前に」

 「あっはい」

 それしか言うことができなかった。

 だがしかし、早矢はこの部屋が何だか愛おしく、名残惜しくなってしまったのだった。

 それはきっと腕の中にいる二匹のカワウソの表情のせいだろう。


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