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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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32 早矢、初めての団欒


 「じゃあ、ご飯にするか」

 「光司さんの作ってるところ見てもいいですか?」

 「ん? いいぞ」

 一瞬だけ、寧々の顔が暗くなった気がするけど、気のせいだろう。


 「では、あたしもお手伝いしますよ」

 「寧々さんも料理するんですね」

 「はい。光司さんに負担かけられませんし、光司さんの味を完璧に覚えたいですから」

 「それはいいですね。……あ、いつかうちも作ってみたいですね」

 「…………そうですね」

 「寧々?」

 「ええ、いいと思いますよ」

 なんか、間があったな。星羅もユイも。なんなら静も料理してるんだからいいと思うんだけどな。


 「じゃあ……、何か希望はあるか?」

 静や星羅みたいに高級な食材を使った凝った料理をお願いされたら困るが、早矢ならそれはないだろう。


 「じゃあ、光司さん。肉じゃがって食べたことないんですが、作ってもらえますか?」

 肉じゃがか……。いいな。丁度、新じゃがに新玉の季節だ。


 「分かった。とびきりの作るからな」

 じゃがいもはなにがあったかな。今あるのは、とうやときたあかりとインカのめざめか。

 肉じゃがにするならとうやかな。あ、肉。何があったっけ。牛バラと豚バラがあるな。これは悩む。

 だが、豚バラはお弁当で使うからなぁ。牛肉の方を使うか。


 「じゃあ、あたしはお吸い物と出汁巻き玉子作りますね」

 「分かった。頼むよ」

 最近二人でいるとよく分担してるんだよな。


 さて作っていくか。

 普通に作ると、時間がかかるから、時短レシピで。

 まず、糸こんを熱湯でさらして臭みを取る。

 鍋に糸こんとじゃがいも、玉ねぎ、人参を入れ、100cc程度の水と料理酒を入れて蒸し煮する。

 沸騰して少しそのままにすると、すぐに柔らかく煮えるんだ。

 油も使わないからヘルシーだしな。

 そこに砂糖、味醂を入れて、少し煮る。水が無くなってきたら少し足す。

 最後に肉と醤油を入れて一煮立ちさせれば完成だ。二十分とかからないから他の煮物でも応用可能だ。

 最後に茹でた絹さやを盛り合わせの時に乗せれば彩りも完璧だな。ふっふっふ。


 出来上がった頃にご飯も炊けた。

 そんな様子を早矢を筆頭にユイ、星羅、静と眺めていた。


 「いつ見ても手際いいわよね」

 「そんな簡単に作れるんですねぇ」

 「ちゃんとほくほくして味しみしみだよー」

 「唯さんは食べたことあるんですね」

 「それはもう」

 「うちの定番よねー」

 「ただ難点なのは、翌日まで残らないことです」

 「静が食べちゃうからね」「星羅さんが食べちゃうからです」

 星羅と静が睨み合う。

 そしてそんな様子を見てユイと寧々が呆れたように苦笑した。


 「なんかいいですね、こういうの」

 早矢が嬉しそうに言った。

 「まぁ、いつもこんなだよ」

 「賑やかでいいですね。ほんと……」

 その顔は少し憂いを帯びていた。


 「あ、ごめんなさい。湿っぽいのは良くないですね」

 「早矢……」

 「でも、これからは、うちも遠慮しません。覚悟してくださいね」

 その笑顔は今日見た中で初めて見た笑顔だった。

 いろんな感情がないまぜになったその顔はとても反論を許さない迫力があった。


 そして、夕食になったのだが、それはまるで戦場のようだった。

 「「「「「「いただきます」」」」」」

 その合図と共に、目に見えぬ速度で消えるおかず。


 小鉢だと、おかわりするのがめんどくさいと言われてから、大皿で出しているのだが、今日に限っては早い。

 いや、早いなんてもんじゃない。アハ体験も真っ青なレベルで目の前の状況が変わっていく。


 山のように積んであったお漬物はきゅうり、カブ、カブの茎の順で消えていく。

 厚焼き玉子は秒で消えた。

 そして肉じゃがは、糸こんの切れ端や玉ねぎの欠けら、じゃがいもの崩れた部分しか残っていなかった。

 まぁ残るよりはいいんだが、俺まだ何も食べていないんだが?


 食事後に、食器を洗っていると、早矢がやってきた。

 ユイと静と寧々は部屋に行っており、星羅はお風呂に入っていた。


 「光司さん、とっても美味しかったです」

 「それは良かった。どうだった?」

 「唯さんの言うようにホクホクで味しみしみでした」

 「あの作り方だと簡単にああなるんだよ。また作るよ」

 「はい。楽しみにしてますね」

 ニコニコとしながら後ろ手を組んでいた。


 「ただ……」

 「ただ?」

 「いつもあんな戦場みたいな食事なんでしょうか?」

 「はは……。いつもはもう少しゆっくりだよ」

 「え、そうなんですか?」

 「たまにああなる時はあるよ。でもあんなに早いのは初めてかな」

 「うちは必死で追いかけてたんですが、毎回あれだと大変だなって思ったんですが、違うんですねぇ」

 「俺なんてご飯とお吸い物しか食べてない。いや、残った切れ端みたいのは食べたかな」

 「なんか申し訳ないです」

 「気にしなくていいよ」

 そこで、ふと考える仕草をする早矢。


 「(もしかして、恋の勝負と食事の取り合いを勘違いした? まさかそんな。でも……)」

 「どうかしたか?」 

 「あ、いえなんでもないです」

 食器を洗い終え、手を拭いたところで重要なことを思い出した。


 「そういえば、明日から学園だよな」

 「はい。無事に制服も来てますね」

 「大神先生の手配の早さにはびっくりだよ」

 「あの人凄いですよね」

 「な」

 俺と早矢でクスクスと笑いを堪えきれなくなってしまった。


 「そういえば、お弁当。どういうのがいいんだ?」

 「光司さんにお任せします。うちはなんでも食べますよ」

 「そうか。まぁ、希望があったらいつでも言ってくれな」

 「はい」

 その時、お風呂から上がった星羅が来て言った。


 「ねぇ、光司」

 「ん? どうした?」

 「明日キャラ弁とか作れる?」

 俺と早矢は再び顔を見合わせてしまった。


 「な、なによ」

 「いや、なんでも……。早矢、こういうのだぞ」

 「勉強になりますね」

 「だ、だからなんなのよ……」

 遠慮しがちなのも問題だが、毎回難題をふっかけてくるのも問題だよな。

 さて、何のキャラ弁を作るか考えないといけないな。


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