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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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30 唯の本気


 「もう! いい加減にしなさいよ。これ返品してくるわよ」

 そこまできつい言い方ではなかった。寧ろ呆れまじりに苦笑していた。

 だが、ピタッと止める静。

 その目はとても困惑しており、視線を彷徨わせていた。


 「そ、そんな赤い顔して、冗談に決まってるじゃないですか……ふふ……」

 その言い方には、余裕より焦りが見えた。

 「え、冗談なの?」

 「はい冗談です」

 早矢が寧々の袖を引っ張って聞くが、寧々はいつものことだと生返事に近い感じで答えた。


 「(今のは本気だと思うけどなぁ……)」

 唯だけが、いつもと違うことに気づいたのだった。

 「さて、早矢さんの普段着を買わないといけませんね」

 さっきのことなど、なかったかのようにキリッとした表情をする静。

 なぜか名残惜しそうな顔をしている星羅。


 その後、須永家のファッションリーダーの唯を先頭にいろんなショップを回って行った。

 「あの……こんな生地が少ないのが普通なんですか?」

 「これから暑くなるし、ノースリーブの服とか必須じゃん?」

 「でも肌を露出するのは……」

 「古風すぎない?」

 「はうう……」


 唯が選んだのは、夏へ向けてのワンピースだった。

 唯にしてはかなり早矢よりの服を選んだのだが、確かに少し布面積が少なかった。

 生地や色合いはいいのだが、やはり早矢の好みからは離れているデザインが多かった。

 何より暑くなるというのに、フェイクレザーのフリルのミニスカートなど必要なのか分からなかった。


 「仕方ないわね。次はわたしの番ね」

 星羅が早矢の腕をひっぱり別のショップへ向かった。

 星羅はというと、やたらと無駄にフリルのあるシャツばっかり選んでいた。

 ただ、それよりも原色系が多く、早矢の好みとは真逆だった。

 それに少しボディコンシャスで、体の曲線を強調するようなものが多かった。


 「これは星羅さんが着てこそだと思います」

 「ええ!? だってこんなに可愛いのよ?」

 「そうですね。ではこっちの方なら……」

 シンプルなデザインで、そこまで主張してないものを選んだ。


 「ええ、地味じゃない?」

 「またの機会ということで」

 「むぅ」

 そこで、早矢は静と寧々を見た。


 「お二人は何かありますか?」

 「じゃあ……」「では……」

 二人の選んだものは意外と普通だった。

 いや、かなり実用的にも関わらず、デザインも早矢好みだった。


 トップスは淡い紫や白、クリーム色で、レースや刺繍の入ったブラウスを選んでいた。

 袖はフレアスリーブや七分丈で露出は控えめだ。

 スカートはミモレ丈やマキシ丈のフレアスカートを選んでいた。


 ワンピースは花柄や小紋などの和柄の雰囲気のものを選んでおり、Aラインのマキシ丈でウエストにリボンやサッシュベルトが付いていた。


 リブ編みの薄手のカーディガンも何点か購入していた。

 これも淡いラベンダーや白だった。

 靴はメアリージューンのパンプスとローファーを購入。

 意外なことに白系のニーハイソックスを選んでいた。


 別のお店で小さめのカゴバッグを。

 そして最後につば広で、大きなリボンのついた麦わら帽子を寧々が。

 静が布帛のベレー帽を選んでいた。


 「どうですか?」「どうでしょう?」

 「はい。うちの好みです」

 「それは良かったです」

 「まぁ、わたくしにかかればこんなものでしょう」


 早速着替えた早矢がお披露目をする。

 寧々は両手を合わせて微笑み、静は腕を組んでうんうんと頷いていた。一体どこから出したのか分からないメガネもかけていた。


 そんな中でがっくり肩を落としているのが、唯と星羅だ。

 「折角早矢っちがかわいいと思ったのを選んだのに」

 「わたしのだって、流行の最先端なのに」

 「ごめんなさい。でも、ちょっと着るには勇気が要りまして……」

 「まぁ仕方ないか。でも、これが早矢っちの好みね」


 上から下まで真剣に眺める唯。

 「うん。覚えたっしょ」

 そう言って再び早矢の手を握る唯。

 「へ?」

 「リベンジさせて欲しいなー」

 にっこりと微笑む唯に、早矢はほんの少し不安に駆られた。


 そして本気を出した唯。

 相手の好みが分かれば、これほどまでに完璧にできるのかと全員が舌を巻いていた。

 そして、気がつけばオーディエンスが周りに集まっていた。

 その半数以上はここでお店を開く人達だ。唯のコーデにはみんなが一目置いていた。


 「じゃあまずはあーしのイチオシからね! 清楚なのにめっちゃあざといコーデ!」

 「あ、あざと……?」

 一つ目は淡いピンクのオフショルダーのAラインのマキシ丈ワンピ。


 胸元はハーフカットで鎖骨と胸の谷間を少し強調していたが、いやらしさは感じなかった。

 袖は肩が大きく落ちるデザインで、落ちそうで落ちないあざとさを演出していた。

 ウエストは、大きめのリボンベルトでキュッとマークしており、白のカーディガンをわざと、片側だけ肩から落として、肩掛けしていた。

 そこに白のレースソックスとクリーム色のパンプスを髪の毛は低めのツインテールに大きめのピンクのリボンをつけていた。


 最初は拒否られたのだが、こうして見ると、意外と似合っていた。

 でも、本人は少し顔を朱らめていた。


 「こ、こんなに肩出していいんですか?」

 「勝負服としていいと思うよ!」

 「そ、そうですか」

 両腕をキュッと閉じて恥ずかしそうに俯いてしまった。

 だが、意外と悪くはないとも思っていた。

 周りからも拍手が起こっていたのが、余計に拍車をかけたのだろう。


 「じゃあ次ね。お嬢様なににちょっと小悪魔コーデ」

 「小悪魔!?」

 「分かる」「まぁ確かに」「言われてみれば納得です」

 「ええ!?」


 トップスは白の刺繍入りブラウス。胸元に少しレースが透ける感じだ。

 ボトムは淡いラベンダーのティアードスカート。ふんわりと多段で可愛いが、膝上は15cmと短めだ。

 他は長めのものを買っているので、その差は歴然だ。


 そこに薄いクリーム色のカーディガンを前を開けて羽織っている。

 大きめの白リボンのヘアクリップにアメジストのチョーカー。そこに大きめリボンの麦わら帽子。

 足元は白のニーハイにメアリージューン。


 「こ、こんなにスカート短くて……透け感あるんですか!?」

 赤面しているが、今度も割れんばかりの拍手が轟いた。

 「これは……アリですね」

 「確かに、基本を押さえつつ冒険してるわね」

 「早矢さんが着ると、こんなにも大人な感じになるんですねー」

 三人の評価も上々だ。


 「じゃあ最後。甘々で無自覚に色っぽいコーデ」

 「無自覚……」

 「確かに早矢さんは無自覚なところありますね」

 「し、静さん!?」


 白地に淡いラベンダーの小花柄。胸下切り替えのエンパイアワンピで、レースフリル多めで少しボリュームがあった。

 袖はパフスリーブで可愛く、サッシュベルトでウエストをマーク。

 早矢の買ったカゴバッグに薄いラベンダーのベレー帽。耳元のイヤリングが光る。

 足元は白のレースソックスにクリーム色のおしゃれなローファー。


 「もともと大人びてましたが、こうして見ると女の子ですね」

 「「確かに」」

 「ふ、ふぇええ!?」

 最後も盛大な拍手で幕を閉じた。

 

 「あ、あの唯さんこれ……」

 「落ち着いたのもいいけど、たまには冒険するのもいいかなーって」

 「ま、まぁ悪くはないです。うちにはできないコーディネイトですし」

 「にしし。かわいいよ早矢っち」

 「はい……ありがとう……ございます」

 真っ赤な顔だが、嬉しそうにはにかむ早矢。


 「本当はもっと派手にしようと思ったけど、やりすぎもよくないしね」

 「そうですよ、もう」

 唯と早矢が話していると、ハシビロコウの置物を抱えた星羅が早矢の袖を引っ張った。


 星羅は少し不満だった。

 せっかく綺麗なのだから、もっと着飾ればいいのにと思っていた。


 「星羅さんどうかしましたか?」

 「わたしもリベンジしたいんだけど」

 「え!?」

 静がそっと置物を抱えると、手をワキワキさせ始める星羅。


 「お、お手柔らかに……」

 「覚悟しなさい!」

 それはどう聞いても、適切な言い回しではなかった。


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