29 ハシビロコウは突然に
そうしてやってきたのは例のショッピングモールである。
「わぁ……凄いですねぇ」
「まぁ、見るのはあとにして、下着買い行くっしょ」
「まさか必要だとは……」
「どうして調べなかったんですの?」
「そういう情報しか出てきませんでした」
「一体どこで調べたのよ、もう……」
そうして早矢の手を唯が取り、星羅が背中を押していった。
そうして歩きながら考えた早矢。メイカのことは黙っておくことにした。
きっとこっちとあっちでは情報に誤差が出るのだろうと。
そして、お店はまた騒然となった。
なぜならば、以前の四人が超有名高の制服に身を包み、新たな少女を連れてきたからだ。
それも着物姿で。
これはきっと着けていないんだろうなと、漠然と感じ取ったのだった。
「じゃあ測るっしょ」
「その必要はありません」
「ほぇ?」
「アンダーは寧々さん星羅さんとほぼ同じ。トップは唯さんより2cm大きいです」
「早矢さんは抜け目ないですね」
「そもそも、そういうのは事前に確認しておくものでは?」
その言葉に四人はそれぞれ違う方向を見たのだった。
そして、それを聞いた店員さんは、ホッと嘆息しながら、胸をなでおろしたが、どこか一抹の寂しさを覚えたのだった。
「では、こちら6万8000円になります」
「ポイントカードあります」
束で出す唯。一体どれだけ買えばこんなことになるのだろうかと苦笑いする早矢。
「ふむ。意外と安く済みましたね」
実際には、早矢のものはこの半分の金額である。
「うちのだけじゃなくて、みんなも買ってましたからね」
「新作が出てたんだもの。仕方ないじゃない。それに寧々も少し派手なの買ったしね」
「ちょ、星羅!」
「別に今買わなくてもいいのにねー」
「ホントよねー」
こと服飾に関することには唯と星羅はタッグを組むようだ。
「支払いはカードで」
静が真っ黒なカードを出していた。
それを見て、店員さんは、心の中で『やっぱり』と確信したのだった。
お店を出ると、次は服だろうかと早矢は考えていたが、唯が腕を絡めてきた。
「じゃあ次のランジェリーショップ行くっしょ」
「え?」
「あっちもかわいいのあるのよね」
「そうですね」
「支払いはわたくしに任せてくださいな」
静は贖罪の意味も含めて言ったのだろうが、誰一人として意図は伝わっていなかった。
「マジで? じゃあ、あーし欲しいのあるんだ」
「静が出すんなら、わたし買ってみたいのあるのよね」
「じゃ、じゃああたしも」
「なんかすいませんね」
「……いえ……」
心境穏やかではない静は、いつか倍額奢ってもらおうと心に決めたのだった。
そして、もう一店の方へ行ったら、そのお店でもまたぞろ騒然となったのだった。
唯と星羅がここぞとばかりに早矢に派手な下着を勧めていた。
「コージの好みだと思うよー」
「そうね。いっつも鼻の下伸ばして見てるもんね」
そんな事実はないのだが、その言葉を鵜呑みにして、少し多めに選んでしまった。
ちなみに、寧々と静もその情報に踊らされて、追加で購入したのだった。
「いい買い物出来たねー」
「ほんっと。素晴らしいわねー」
ちなみに、その情報が原因で、蒸し暑い日に、庭の草むしりをさせられることになるのだが、それはまた別の話である。
「今度こそ服ですね」
「はい」
「でも、静さんそこは着物屋さんですよ?」
「早矢さん。言われなくても分かってますよ」
「いやいや、ワンピースとか普段着の方でしょ」
「訪問着は普段着では?」
「確かに……」
「早矢っちも納得しない。……って、あれ寧々と星羅は?」
気がつけば、二人はいなくなっていた。
「ごめんなさいー。いい感じの調理小物がありましてー」
寧々が両手に買い物袋を下げて、ホクホク顔で戻ってきた。
「寧々さんは、寧々さんですね」
「うん。変わらないねー」
「いつもこうなんですか?」
「そうですね」「そうだねー」
平然としている二人に早矢は戸惑う。
「え、な……なんですか?」
「なんでもないですよ。そのまま変わらないでいてください」
「うん。そのまんまでねー」
生暖かい目で見つめる二人と状況が飲み込めない寧々。
そんな三人を見ながら、早矢はまだ少し距離感を掴めずにいたのだった。
それから、十分ほど経った頃。
最後に戻ってきたのは星羅だった。
星羅は長く大きな包みを抱えていた。
「やっと戻ってきましたね」
「随分と大層なものを購入したようで」
包みの横からひょいと顔を出した星羅。
「ごめんごめん。梱包に時間かかっちゃったのよ」
「そうですか。ちなみにそれはなんですか?」
「これ? さっき雑貨屋さんで見つけて、勢いで買っちゃったのよ。静にあげるわ。きっと気にいるわよ」
不審な目で星羅を見る静、他の三人も同じ考えだったようで、目を細めていた。
「信用してないわね」
「はい」
「……くっ。ちょっと傷つくわね。これはハシビロコウの置物よ」
「ハシビロコウ?」
「そう。どの子にするか迷ってね。まぁ、帰ったら確認……って、ここで開けようとしないでよ」
勢い余って少し破いてしまう静。
隙間からリアルなハシビロコウが見えた。
「星羅さん……」
「な、何よ……」
「なんで、こんなことしちゃうの? 嬉しいじゃない……。こんなことされたらわたくし、星羅さんのこと好きになっちゃうしかないじゃない」
どこかで聞いた言い回しで愛の告白? をする静。
「ま、まぁ喜んでもらえて何よりだわ」
「はい。これはもうキスするしかありませんね」
なぜか、その返事には甘い成分が含まれていた。
「いや、いらないわ……って、待って! 手塞がってるから、ちょ! 見てないで止めてよ」
「だって、ねぇ……」
「ええ。静さんのハートを鷲掴みにしちゃってますからね」
「止めなくていいんですか?」
「大丈夫だと思うよ。多分……」
「ええ。このまま眺めていましょう」
「ええ……」
周りを歩く通行人がチラチラと見ながら去っていくのだった。




