26 早矢と呼んでください
その後、ご飯を食べ終わり、例のごとく戸籍を作らないといけないわけで。
なんであっちでやってなかったんだろうな。
あの書類の束にもそういうのは全くなかった。
まぁ、サインして持っていったものの中にもなかった気がする。
と、いうことで、また来てしまったよ。
「あら、久しぶりね。3ヶ月ぶりくらい?」
「そうなりますね」
「ふーん」
豊島区役所の地下二階で、仲田さんの元へ来たわけだが……。
ゴスロリの女の子が、丁寧にお茶を出してくれた。
これは簡単に帰してくれそうにないな。
早矢さんは隣で書類に必要事項を記載していた。
「全く。四人も女の子を侍らしといて、まだ増やそうだなんて……あんたハーレム系主人公でも目指してんの?」
仲田さんがとんでもないことを言う。
「心外だな。俺はそういう目で見てないぞ?」
「え?」
なんで早矢さんの方から、反応が返ってくるんだよ。
「みんな好感度高いのにねぇ」
「うちもマックスですよ。限界突破してます」
ボールペンを握ったままこっちを見る早矢さん。
「だってよ。まぁ、そう言ってられんのもいまのうちよ」
「そうだな」
「あら、否定しないの?」
「まぁ、いずれ……な」
「ふーん。少しは成長したんじゃない?」
なんでこんな試されるようなこと言われなきゃいけないんだ。
「それで、その子も学校通うんでしょ?」
あ、そうか。そうだよな。
「手続きしないといけないよな」
「あ、光司さん大丈夫ですよ。そっちは手続き済みです」
なんでそっちは手続き済みなんだ?
「ただ、挨拶にはいかないといけませんから、この後一緒に行きませんか?」
「そうだな。俺も先生に挨拶とかしとかないといけないしな」
あの四人が学園で何をやっているのか気になるしな。
「じゃあ、それ終わったら行こうか」
「待ちなさい。まだ全然話聞いてないわよ」
そうは言ってもなぁ……。
「お茶も出したんだから!」
勝手に出したのはそっちじゃないか。
結局無駄に引き止められてしまった。
学園へ向かったのはお昼を超えてからになった。
俺も流石にお腹すいたよ。お茶だけじゃ腹は膨れないよ。
奥で寝転がってる金髪のだぼだぼパーカーの子が食べてるお菓子を出しても良かったんじゃないかな?
その後、区役所を出てすぐに、思い出した。
「スマホとか必要だよな」
「あ、そうですね。連絡手段は必要ですよね」
ニコニコしているが、さっきまで以上に嬉しそうだ。
でもなぁ……。静より高いスマホ選ぶとは思わなかったよ。
まさか、二つ折りのスマホを選ぶとは思わなかった。
「この貝のような、開く情報の殻! パカパカしているのが可愛いですね」
金額は全然可愛くないです。
もうサイズ的にはスマホというよりタブレットですね。
ただ、ヘイズ色のそれを楽しそうにパカパカしていると、そんなことどうでもよくなってしまった。
しかし、店員さん。『またお前か』みたいな目で対応するのはやめてくれませんかね?
結構売り上げに貢献していると思うんだが、目だけは全然笑ってない。
早矢さんと足して二で割ったら丁度いいと思うんだ。
「光司さん、ありがとうございます」
「いえいえ」
お店を出て、早矢さんがニコニコしながらお礼を言った。
「じゃあ早矢さん、行きましょうか」
そう言ったが、早矢さんはその場から動かなかった。
「光司さん。早矢って呼んでください」
「で、でも……」
ニコニコと笑顔のままだ。
しかし、初日から呼び捨てでいいのだろうか。
だが、確かに少し他人行儀だったかもしれない。
それにこれから一緒に暮らしていくんだ。何を躊躇う必要がある?
俺は早矢の目をしっかりと見た。
「早矢……」
「はい。そっちのがうちは好きです」
まぁ、確かに少しよそよそしかったかもしれないな。
「では、行きましょうか」
「そうだな。早矢」
早矢が俺の先へと歩き、振り返った。
そしてとびきりの笑顔を俺に見せてくれたのだった。
*
そして、今に至る。
俺と早矢が、来客者用の入り口から入って早矢の歩く方になんとなく着いていったら、生徒たちの集団に出くわしてしまったのだ。
というか、そこに集まっていたのは、この前うちに勉強会に来た子達だな。
ほぼほぼ見覚えがある。
そして、真っ先に反応したのは、ユイ達四人だった。
というか、ユイは指を指すな指を。
「「「「あっ!」」」」
「初めまして。いえ、お久しぶりですね」
早矢がにっこりと笑顔で返した。
誰かが、「これは、最大のライバル現るって感じかな?」と呟いていた。
そのあとに、みんな様々な微笑みで俺を見た。
意味が分からないんだが、俺はこの子達に一体どう見られているのか、そっちの方が気になってしまった。
「コージ……」「光司」「光司さん」「光司く……光司……」
唯が駆け寄り、寧々、星羅、静が続く。
「まぁ、色々あってな」
こう言うしかないが、他に思いついた言葉をここで言うべきではないなと判断したんだ。
そして、早矢はずっとニコニコと意味深な笑みを浮かべていた。
そんな時、救世主の如く現れたのは、一人の教師だった。
それも、俺の好みどストレートな見た目の人。
確か担任の……なんだったっけな。
「ふむ。やっと来たか」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだ。それにしても……」
担任の先生は早矢の全身を見て、腕組みし、手を顎に当てて考える。
「……ま、いっか。あとはこっちでやっておくからな」
そういったところで、クラスメイトの子達であろうか。
一気に先生に詰め寄った。
「いのりちゃん先生は知ってたの?」「なんで文字化けしてたの?」「この子も帰国子女?」「光司さんの親族って何やってる人なの?」「なんで先生は独身なの?」
などと、先生でも答えられない質問までしていた。
「すまんな。これから保護者と話さないといけないことがあるんだ。じゃあ、御坂、喜築シスターズに人見、あとは頼んだぞ?」
そう言っていのりちゃん先生は俺の腕に自分の腕を絡めて引きずっていった。
これ絶対に質問攻めにあうタイプの輸送方法ですよね?
もう少し穏便にできる方法あったんじゃないですかね?
引きずられている間、ずっと生徒達にあれこれ言われてしまった。
「あれが光司さん」「あれが?」「初めて見た」「普通」「てか、何でいのりちゃんが引きずってんの?」「そりゃお前、婚活だろ?」「ああ……」「なるほど……」「御愁傷様」
なんか悪い方へ話が飛躍している気がするのは、気のせいですよね!?




