25 寧々さんはズルいです
振り返ると、ガラス一枚隔てたすぐそこにみんないた。
ニマニマしながら見ていた。
三壁さんだけ見当たらないのは、既に拡散しにいったのだろう。最悪だ。
「まぁ、いろいろあるだろう。半休取るか?」
「……はい……」
部長の優しさが身に染みるよ。
部長が早矢さんの方を見て、ウインクしている。何かを感づいているようだ。
まぁ、折角だし午後は有給を使うとしますか。
と、いうことで一旦職場に戻って私物を取りに行っていたら、三壁さんがいろいろ吹聴していた。
まぁ、いつものことだが、よくもまぁあんなに好き勝手言えるよ。
あそこで集まっている間に回収して早矢さんのところへ戻る。
「じゃあ行きましょうか」
「はい!」
部長もまだいたので、挨拶をしておく。
「部長……」
「あとは任せておきなさい」
「もう既にひどいことになってましたよ」
「だからあの人はいつまでも評価が一番下なんだよ」
さらっとエグいことを笑顔で言うな。
会社を出ると、やっぱり目立つな。
スーツ姿の俺と袴スタイルの早矢さん。明らかに成人式かなんかの写真でも撮りに行った帰りみたいだ。
結構視線を感じる。
まぁ、場所が場所だからな。
そんな時、横から『ぐぅ〜〜』という長めの音が聞こえた。
横を見ると、真っ赤な顔して俯いて立ち止まっていた。
「あ……」
「もしかして何も食べてない?」
「ええ。最初は光司さんの手料理が食べたくて」
「そ、そうか」
そんなこと言われると照れるな。
「あれ、光司さんも朱くなってます?」
「ん、んんっ……まぁ……な」
そんなこと言われたてドキッとしないほど鈍くはない。
「じゃあ、俺のお弁当でよければ、あるけど……食べるか?」
「はい!」
その満面の笑顔はズルい。さっきから俺の心臓は上下に揺れっぱなしだ。
会社近くにある大きな公園に移動する。
散歩やランニングしている人や、のんびり家族ですごしているのもちらほらと見えた。
俺と早矢さんの二人でベンチに座る。
間にお弁当を置いた。
「どうぞ」
「わぁ……。これ全部光司さんが?」
「漬物は寧々が漬けてますが、それ以外はそうですね」
「すごい……。あ、でもこれ光司さんのお昼ですよね」
「まぁ、俺は朝食べてきてるんで、どうぞどうぞ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
目を細めてお礼を言う早矢さん。
弁当箱を自分の膝の上に乗せて見ている。
ちなみに今日のお弁当は、梅と大葉のおにぎり、おかひじきのおにぎり、焼きたらこを入れた普通のおにぎり。
おかずは、厚焼き玉子、塩唐揚げ、きんぴらごぼう、アスパラの肉巻き、大根のゆかり和え、寧々お手製のきゅうりとカブの漬物だ。
会社では、女子のお弁当だと散々言われまくってるお弁当だ。
ちなみに、部長と佐良含め何人かが俺っぽいお弁当を作っていたりする。
「どれから食べるか迷っちゃいますね」
「はは。まぁ分かる」
厚焼き玉子を一口に切って頬張ると、目を大きく見開いて口に手を当てこっちを見る。
「おいしい!」
「それは良かった」
そのままの勢いで、梅と大葉のおにぎり、きんぴらごぼう、塩唐揚げと頬張っていく。
そして、漬物を食べて一言。
「寧々さんはズルいです」
「ズルい?」
「光司さんのお弁当にこうして自分の場所を作ってるんですもん」
なるほど。なかなか変わった発想だな。
「うちもこういうの作れたらいいのにな」
「作れるさ」
「そうですか?」
「ええ」
「……えへへ」
嬉しそうにはにかむ早矢さん。
とたんに、梅と大葉のおにぎりの半分を俺の元へ手を添えて寄せた。
「はい。あーん」
「ちょ、恥ずかしいな」
「いいじゃないですか。ほらー」
「わ、分かったよ……あーん」
「どうですか?」
「酸っぱい」
「甘酸っぱいの間違いじゃないですか?」
「ま、まぁそういうことで……」
「ふふ……」
酸っぱいはずなのに、口の中がとても甘く感じた。
そんな早矢は少し胸をつっかえていた。
「大丈夫か?」
「あ、ちょっとつっかえちゃいました」
「ほらお茶」
「ありがとうございます」
コクコクと喉を鳴らしながら飲む。
「そんな慌てなくても」
「いえ、光司さんが顔を朱くするのが、なんだか嬉しくって……」
「そ、そうか」
「あれ、また赤くなってます?」
「……なってない」
ユイ達と違って、何回も攻め立ててくることはないのがせめてもの救いかな。
それにしても、ホント美味しそうに食べるねぇ。
作った甲斐があるってもんだよ。
木漏れ日の中で、こうしているのも悪くないって、俺は思った。




