23 お姫様扱いは困ります
プライベートジェットに乗って日本へ行く間、例の研究について、かなり独善的な要求があったが、結果は早矢の圧勝である。
内容は、到底受け入れられるものではなかった。
もっとも、相手も本気でそれを飲ませようとは考えていなかったらしい。
「だよね」と、互いに失笑してしまった。
とりあえずは、上の人物の要求を杓子定規に伝えたに過ぎなかった。
同席者の一人が、報告のために開いたノートパソコンでビデオ通話をしていた。
漏れ聞こえたスピーカーからは、某国の大統領が一人で騒いでいたが、今はそれどころではないらしい。
そんなことをこっそりと苦笑しながら話し合ってしまった。
ただ、次はどうなるか分からないので、その時はみんなに頼ろうと考えていた。
約十時間のフライト。
時差は十六時間。
何もしないのは非常に退屈だった。
先ほどまで、一緒に乗った政府関係者と、ここ最近のニュースなどを話していたが、どれもこれも知っている内容だった。
もちろん、事件の逃亡者や犯人も知っていたが、聞かれていないことを伝える必要もないと微笑むにとどめた。
ただ、要求を突っぱねたことを快く受け入れてくれたお礼に、悪質なクラッカーやサイバー犯罪者など、その他の捕まっていない逃亡者などの情報を関係各所に極秘に知らせておいた。
きっと有効活用してくれるだろう。
それでも、まだ時間がある。
同乗者は、あろうことか口を大きく開けて眠っていた。
光司はどんな顔で、どんな姿勢で眠るのか気になってしまった。
産まれてすぐではあるが、そんなことを夢想しながら少し仮眠することにした。
どれくらい眠っていただろうか。
そっと身体を起こして、襟元を直しながら窓の外を眺める。
眩しさに少し目を細めた。
窓の方へさらに身体を寄せて、下の方を眺める。
「わぁ……」
気がつけば、眼下には関東一円の街が見えていた。
実際に自分の目で見ると感動するものがあった。
飛行機は東京湾の上空で旋回したので、どうやら羽田空港の方に降りるようだった。
滑走路の端には警備車両が並び、一般車両や作業用の車の姿は見えない。
どうやら、早矢の到着に合わせて動いているらしい。
こんなVIP待遇される覚えはないのになと思いつつも、どこかお姫様のような感覚になっていた。
専用のゲートがあるようで、飛行機から降りると、十数人のスーツを着た人間が出迎えてくれた。
恐らく、外務省の人間と、某国大使館の人間だろうと判断した。
同乗者の一人が紳士らしく手を差し出してきたので、軽く微笑んで手を添えた。
あんなにも豪快に口を開けて寝ていたのに、意外と紳士なんだなと、おかしくなって笑みがこぼれてしまった。
これでは、本当にお姫様ではないかと。
ただ残念なのは、自分の王子様がここにいないことだろうか。
危なげなくタラップを降りて、挨拶する早矢。
「こんなお出迎えしてもらえるなんて、びっくりしますね」
「先方より、丁重にことに当たるようにと、申しつかっております」
憮然とした表情で淡々と告げる職員。
よく見ると頬がほんの少し朱かった。
「そうですか」
ここに集まった者は、この少女がどんな存在か詳しく聞かされていない。
ただ、失礼のないようにとしか言われていなかった。
それ故、少女の言うことに従うことしか考えてなかった。
「では、さっそくですが、行きたいところがあります」
「はい。どちらでしょうか。大使館ですか? 外務省ですか? それとも首相官邸ですか?」
「いえ……」
早矢としては、そんなところに用などない。そう、これからも……。
「そういえば今は何時でしょうか?」
「もう少しで十時ですかね」
「なるほど。いい時間帯ですね」
「「「?」」」
早矢が何を考えて、そう発言したのか、この後すぐ分かることになる。
「で、では車でお送りいたします」
「はい。よろしくお願いしますね」
車の前に案内されると、流石の早矢も躊躇した。
笑顔がぎこちなくなった。
後部座席のドアが開けられたので、そのまま従い乗ることになったのだが、まさかセンチュリーに乗ることになるとは思わなかった。前後をトランクにアンテナを二本装着したLSが固めた。
首都高に乗ってすぐに、前後の車から、護衛の人が身を乗り出し、一般車を止めて進んでいった。
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆ってしまった。
これでは本当にどこぞのお姫様ではないかと。
そのまま北上し、目的の場所へ向かった。




