18 有罪
そして、唐突に始まった裁判。
「被告人須永光司前へ」
お誕生席で静がスクランブルエッグを食べながら言う。
多分、裁判官の役なんだろう。
というか、朝ごはん食べながら裁判をするのはどうなんだろうか?
前へも何も、横に座らされてるんだが?
「じゃあ、わたし検事やるわ」
「では、あたしは弁護士やりますね」
なんで寧々が弁護士をやるんだ? 原告じゃないのか?
「じゃああーしは書記官やるね」
後ろにホワイトボードを持ってきたユイ。
ロールパンを頬張りながらマジックを持った。
「では、弁護人、何かありますか?」
「ありません」
いきなり弁護を放棄しないでほしい。
「では検察側はいかがでしょか?」
「これはもう揺るぎないくらい有罪ね」
「「「「異議なし」」」」
日本の司法制度じゃないんだぞ?
「では、続けて被告への罰を言い渡します」
ケチャップついたままだぞ?
「主文、本日作るお菓子の量を二倍にします」
「ええ……」
「「「異議なし」」」
今日どれくらい作るか知ってるのか?
「待て、それは多くないか?」
「いえ、寧ろ少ないくらいです」
ま、まぁ、このくらいの罰ならいいか。
後ろを振り返ると、ホワイトボードにびっしりと料理とお菓子のメニューが書いてあった。
「……これを全部?」
「あたしも一緒にやるから安心してください」
「あっはい」
寧々の気迫に押されて、俺は何にも言えなくなった。
ユイ達のクラスメイトたちが来るまでそんなに時間はない。
昨晩下拵えしていて良かった。
急ピッチでやっていく。
これテレビの料理ショー並みの速度なんだが……。
クッキーを焼き、ラングドシャを焼き、マドレーヌを焼き、フィナンシェを焼き、マフィンを焼き、カヌレを焼き、マカロンを焼き……。
もうオートメーション化された機械のごとく次々と作っていく。
冷蔵庫の中を確認する。上から四段目まで全部カップデザートが入っている。
ちなみに一番下の五段目には台湾カステラが四つ鎮座していた。
『ピロッピロッピロッ……ピロッピロッピロッ……ピロッ! ピロピー!』
『ピーローピーローピーローピー……ピーローピーローピロピロピー……』
『ピンポーン』
オーブンで焼いていた最後のお菓子が出来た。そして炊飯器と同時にチャイムが鳴った。
やりきったぞ俺。
プシュッとビールを開けたい気持ちをなんとか堪え、炭酸水で我慢する。
ユイがあの格好のまま玄関へ向かった。
「うわっ、マジ先生じゃん」「唯似合ってるね」「てか、なんで先生の格好?」「本格的だね……」
「えへへー。やっぱり格好から入るのは基本っしょ」
基本とは?
同じことを考えていたようで、何人かが「基本とは?」と返していた。
ユイはそれには答えず、「ほら、入って入ってー」と言いながら先頭で戻ってきた。
そして、続くクラスメイト達が、「こんにちはー」「お邪魔します」「お世話になります」など挨拶があった。
俺もただ突っ立ってるわけにもいかないので、営業スマイルで「いらっしゃい」と言ったのだが……。
「「「「「「「「「「普通……」」」」」」」」」」
という、なんとも言えない評価をされてしまった。
「え、おかーさんが言うから、もっとかっこいいと思ってた」「なんか地味」「うん。普通だよね」「いやでも中の上じゃない?」「わたくしは、まぁまぁだと思います」「うちが期待してたのと違ったんだけど」「ね、あんなに言うから期待値爆上げだったのに」「え、普通にカッコイイと思うけど……」「あたしもアリよりのアリだと思う」「そう? あたしはもっと王子様みたいの想像してた」「おかーさんが結構盛ってたんだと思う」「わたしは普通にイケメンだと思うけどなぁ……」
なんというか散々な評価だ。俺泣いてもいいかな?
だが、男性陣は違ったようだ。
「何言ってんだよ。普通にカッコイイじゃん」「こんなにお菓子作れるなんてスゲー」「料理もできるんでしょ? マジヤベエって」「俺、普通に教わりたいもん」「男が惚れるタイプの顔してるよな」「な。化粧したらイケるって」
何人かヤバイ奴もいるが、概ね評価が高くて良かったよ。うん…………。
しかし、多いな。何人いるんだ?
うちのリビングってかなり広かったけど、こんなギュウギュウになるくらい集まるなんて前代未聞だよ。
俺と寧々で作ったお菓子を並べていく。
飲み物は申し訳ない。ペットボトルのお茶やジュースを置いていく。
流石に人数分のグラスは無いので紙コップだが。
「これ、おかーさんが作ったの?」
「あたしと光司さんで作りました」
寧々が照れながら言う。
そして、一口食べると、みんな目を見開いた。
「うまっ!」「おいしっ!」「何これ! やばぁ!」「うまうま」「止まらないっ!」「止まらないよぉ」「これを食べる為に来た?」「お持ち帰りは? お持ち帰りはあるの?」
絶賛してくれて良かったよ。これで口に合わなかったらどうしようと思ったよ。
しかし、気になる言葉がある。
「おかーさんのおかーさん、料理めっちゃ上手だね」
寧々がおかーさんなのも気になるが、俺がおかーさん呼びなのは一体何故なんだろうか。
「はいはーい。みんな、勉強しに来たんでしょ?」
ユイが先生みたいなことを言いながらホワイトボードを叩いていた。
「唯もまじオカンだよね」
「そうなると、この家にオカンが三人いることになるのか……」
「そう考えるとなんかすごいね」
話がどんどん飛躍していく。どうしてそういう結論になるんだろうな……。
いったい四人は学園で何をしているんだ?




