16 放課後はデートのはずだったのに
翌日───
「おかーさん」
いつもの呼び方にすっかり慣れてしまった寧々は、違和感なく振り返った。
「はいなんですかー?」
声のする方を見ると、クラスの女子生徒と男子生徒が立っていた。よく見ると、他のクラスの子までいた。
「どうか……しましたか?」
「おかーさん。うちらも勉強会に参加したいんです」「俺らも勉強会に参加したいです」
全員が一斉に言ったので、少し驚き固まってしまった。
1組は一人欠席中だが、二十九人いる。他のクラスの生徒が約十人くらいだろうか。
一応はリビングに入れるが、追加の人員について光司に言わなくて大丈夫かと思案する寧々。
だが、そこに唯、星羅、静もやってきた。
流石に多いと言ってくれるのかと思っていた寧々。
みんな等しく見てあげたいが、光司に迷惑かけるのは違うなと思っていた。
だが、その予想はあっさりと裏切られる。
「いいよいいよ。みんな来ちゃいなよ」
「そうね。みんなまとめて面倒見てあげるわ」
「ふっ……。教えがいがあると言うものです」
寧々は思った。これは大変だと。
勉強を教える方ではない。光司にお願いしていた料理の方だ。
これでは足りない。圧倒的に足りない。
何より男子生徒より食べる三人がいるのだ。これは戦場になるぞ。と、寧々は一人戦々恐々としていた。
なし崩し的に大勉強会が催されることになってしまった。
ちなみに大人数のため、もし次回やるとしたら教室になるだろうなと、寧々は漠然と考えていた。
寧々はこっそりとスマホを取り出し、光司にLINEでメッセージを送った。
『←今日の放課後スーパーの前でお待ちしています』
数分で返信が来た。
「りょ→」
仕事で忙しかったのか、唯みたいな返信が返ってきて、思わず笑ってしまった。
放課後、星羅は案の定、お花に水やりしてから帰ると言っていたので、教室で別れた。
唯と静は何やら用事があると先に行ってしまった。
もしかして配慮されているのかなと思っていたが、好都合だと割り切った。
スーパーの前で待つ寧々。
これが銭湯なら歌の通りだな、なんて思って一人でにやけてしまう。
「すまん。遅くなった」
「いえ、大丈夫ですよ。寧ろ早いくらいです」
光司は、少し早めに早退してきてくれたようだ。
「良かったんですか?」
「今日は暇で暇で退屈だったんだ。俺だけじゃなくて部長も早く帰るかーって言ってたしな」
「ええ……。それで会社回るんですか?」
「課長も室長も一緒くたになって帰っちゃったからなんとも」
どんな会社なんだろうと、寧々は聞くのが少し怖くなってしまった。
「ところで、人数が増えるって聞いたんだが……」
「はい。うちのクラス全員と他のクラスの子達も」
「多いな……。まぁいいんじゃないか? それだけ慕われてるってことだろ?」
「え、ええ……まぁ」
生憎と、問題児はいないので大丈夫だろうと寧々も思っていた。
なんせ、一番の問題児は唯、星羅、静なのだから。
そう勝手に結論づけていた。
「じゃあ、買っていくか」
「はい」
これはもう実質デートでは? なんて思いながら、カートにカゴを乗せて買い物を始めた。
光司がカートを押しているので、その横を付かず離れずの距離で並ぶ。
スマホアプリでどっちが得かを確認したり、お肉の脂の層を見ながら判断したり、野菜の艶とかハリを見ながらカゴに入れていった。
今だけは凄く楽しい時間だった。
だが、近所のスーパーである。
知り合いに会う可能性はゼロではない。
「あら、寧々ちゃんじゃない」
声のする方に振り返ると、近所の奥様がニコニコしながら立っていた。
「あら、今日はご主人も一緒に?」
「やだもう。ご主人だなんてー」
否定はしないが、声が弾んでいた。
それを聞いて、ペコリと軽く頭を下げる光司。
「あ、どうも家主の須永光司と申します」
「ご丁寧にどうもー。いつも寧々ちゃんにはお世話になってるのよー。あ、わたしは大塚っていいますー」
「いつも寧々がお世話になってます」
「いいえー、いつもこっちが助けたれてるのよー」
「そうなんですか?」
「ええ。それはもう──」
そしたら、次々と知り合いに遭遇した。
「どうもー滝野川ですー」「尾久ですわぁ」「町屋でーす」「中里と申しますの」
次々と寧々は知り合いに会ってしまい、なかなか買い物が進まなくなってしまった。
最後は、一緒にスーパーを出て、いろいろ追加でもらってしまった。
「寧々は普段何をやっているんだ?」
光司が疑問を口にするが、寧々もどう答えたものかと困った顔をしてしまった。
「まぁ、そのうちな」
「はい……」
奥様方にもらった食料がとても重く感じたのだった。
そして家に帰るとリビングにはホワイトボードが置いてあった。
「なんだそれ?」
「昨日頼んどいたんだー。今日届くって言ってたから」
唯が早速ホワイトボードに落書きをしていた。
静も一緒になってなんだかよくわからない動物の絵を描いていた。
「随分と本格的だな」
「でしょー」「ええ」
勉強会とは一体なんなんだろうかと寧々は改めて考えてしまった。




