15 勉強会の前に
「光司さん。うちで勉強会してもいいですか?」
寧々が帰ってきて早々に、珍しくお願いをした。
学生らしい内容なので、拒否する理由はないと光司は頷きながら答えた。
「勉強会? いいけど」
「ありがとうございます。みんな喜ぶと思います」
「みんな?」
「そう。うちのクラスメイトがね、勉強教えて欲しいって言ってきたからね」
寧々に軽く寄りかかるように抱きついた星羅が補足するように言った。
「それは構わないけど、どんだけ来るんだ?」
光司は一度、リビングに視線を移し見回した。
広いリビングは多くの人が集まっても余裕がある。なんならここでホームパーティをしてもまだ余裕があるだろう。
そんな物件を格安で借りられたことに、問題を起こしてくれた前の住民に軽く感謝したのだった。
「うーん、と……。愛ちゃん、陽菜ちゃん、美羽ちゃん、麗華っち、燈ちゃん、柚ちゃん…………」
「待て待て、名前を言われても分からんぞ」
唯が指折り数えている。なんで麗華って子だけ『麗華っち』なんだと、そこはかとなく静みたいな人なんだろうかと勝手に判断する光司。
「じゃあそんなに来るのなら、何か食べられるもの用意した方がいいのかな?」
そう光司が提案すると、唯と寧々が目を輝かせた。
「オカン! コージまじオカンだね」
「ええ。我が家のお母さんは流石目の付け所が違いますね」
「なんで母親扱いなんだよ。いや、そんなに集まるならお腹空くだろうなって思ったわけで」
「ありがとうございます。ちゃんとあたしもお手伝いしますね」
寧々が小さくガッツポーズをとったが、誰も気づいていなかった。
なぜならば、光司がなんの料理を作るのか想像するのに忙しかったからだ。
その日の夜──
「光司さん……」
「寧々どうした?」
お風呂上がりの寧々が光司の横に座った。
「もしかして、何を作るか考えてます?」
「ん? まあ……」
苦笑いしながら背もたれに背中を預けた。
「じゃあ、一緒に考えましょうか」
「そうだな。寧々は何がいいと思う?」
「いっぱい来ますからねぇ。今の時期だと……ちらし寿司とかどうでしょう?」
「いいね。唐揚げとかも必要かな?」
「ええ。きっと喜びますね」
紙に箇条書きしていく。
「デザートは何がいいかな」
「少し暑くなってきましたからね」
「じゃあプリンっぽいのがいいかな」
「そうですねー」
「プリン、プジン、イタリアンプリン、ブランマンジェ、パンナコッタ、ババロア……いや、冷やしてカッサータってのも」
「そんなに作れませんよー」
「そうだよな。はは……」
そんな様子を三人は呆然と見ていた。
「これは入っていけないね」
「そうですね。下手に入るとわたくしの食べる分が減ってしまいますしね」
「それは……あるわね。でも……」
星羅が、光司の前の椅子を引いて座る。
「わたしはシュークリームがいいわ」
「シュークリーム……。霧吹きがいるな。明日買ってくるわ」
「もう。そこは突っ込むところでしょうに。でもまぁ作ってくれるなら、カスタードと生クリーム二層仕立てがいいわ」
「硬いのと柔らかいのどっちがいい?」
「出来ないって言わないで、そういう返しするとこ好きよ」
「なんだよそれ。で、どっちなんだ?」
「ふふ。じゃーあー……」
寧々がジト目で星羅を見るが、星羅も負けじと案を出していく。
そんな様子を見て、唯も瞬間移動したかのようにテーブルの横へ素早く動いて手を上げた。
「あ、じゃあさじゃあさ、あーしはこの前作ってくれた台湾カステラがいい」
「分かった。任せろ」
「うん!」
唯の時は微笑ましい顔をする寧々。
「ではわたくしはー……」
唯の横へゆっくりと移動する静。
「ローストポークを所望します」
「ローストビーフはいいのか?」
「いいんですか?」
「食べたいんだろ?」
「はい……」
うっとりとした顔をする静を見て、寧々は苦笑いするしかなかった。
「あ、そうだ。コージ聞いてよー」
「どうしたユイ?」
「星羅ったらねー」
「ちょ、ちょっと唯ダメよ」
「モゴモゴ」
唯の口を押さえて、ソファの方へ連れていく星羅。
「(ちょっと何を言おうとしたのよ)」
「(え、星羅の部活を)」
「(ダメよ)」
「(何で? 別にいいんじゃないの?)」
「(こ、こういうのは順序ってものが……)」
「実はね光司さん。星羅ったら部活に入ってたんですよ」
「ちょ、寧々!」
「しかも園芸部です」
「あ、静!」
唯が言わずとも、寧々と静が先に答えてしまった。
「星羅らしくていいじゃないか。別に隠す必要もないだろうに」
「そ、そう? 変じゃない?」
「俺は素敵だと思うぞ」
「そ、そっか……ふへへ……」
そんな様子を見て、寧々は再び黙ってしまうのだった。




