13 秘密の放課後
試験前という事で、皆が軽く挨拶して教室を出て行った。
「じゃー、また明日ねー」「おつかれー」「バイニー」
「うん。また明日ー」
唯が手を振って返していた。
「ねー、どこかよるー?」
「んー、スタバかドドール?」
「いや、すぐ帰れし」
まだ残っていた愛とエレナがそんなことを言うもんだから、オカンモード発動の唯がピシッと言ったのだった。
「もー、唯ったら先生みたいなこと言ってー」
「でも案外合ってるよね」
「確かに。ねー唯、先生の格好してよー」
「何言ってるし、もう……。ほらほら。あーしらも帰るし、ね?」
「分かったわよ……。仕方ないわね。じゃ、また」
「そうだね。また明日」
「うん。また明日ね」
手を振って見送る唯。
それと同時に入ってきたのは寧々と静だった。
「あれ、みんな帰っちゃいました?」
「うん」
「では、わたくし達も……。星羅の姿が見えませんね」
「あれ、そういえば……。バッグもないね」
二人はどうやらお手洗いに行っていたようだ。
そして、一緒に帰ろうとしたところで、星羅がいないことに気づいた。
「今日一日様子がおかしかったですしね」
「ふむ。どこかでモフモフさんと戯れている可能性が」
「静じゃないから、それはないっしょ」
と、いうことで、寧々が星羅のスマホに電話をかけると、「先に帰ってて」とだけ言われて切れてしまった。
これはますますおかしいと、目を輝かせる三人。
捜査開始である。
捜査といえば、探偵。
探偵といえば、探偵服。
であれば、着替えるために更衣室へ向かった三人。
こういう時のためにロッカーにはいくつか衣装を保管しているらしい。
更衣室へ向かうと、誰かが出てきて、そのまま歩いて行った。
その人物は、薄い灰色の作業着を着ており、首元には白い手拭いかタオルのようなものを巻いており、頭は麦わら帽子を被っていた。
残念ながら髪の毛や顔は分からなかった。
腰には軍手が挟まれていた。
なぜ、ポケットにちゃんと入れないのかは分からないが、その人物は鼻歌交じりに歩いて去っていった。
こちら側には一瞥どころか、気づいてもいなかった。
「あの人怪しくない?」
「確かに」
「みんな下校してるのに、あんなところから出てくるなんて……」
「不審人物の可能性がありますね」
「追うっしょ」
「はい」「ええ。もちろんです」
唯は平静を装おうとするが、好奇心が声に出てしまった。
寧々は不審感と好奇心半々で、鼻息荒く興奮している。
静は面白そうなものを見つけたとばかりに、愉快そうな顔をしていた。
その人物は三人に気づくことなく、学園にある庭園へ向かった。
「お疲れ様でーす。蘭子先輩」
「あ、星羅ちゃん。今試験前だから部活休みなんだからいいんだよ?」
「でも、水は上げないといけないじゃないですか」
「まぁそうなんだけどね」
「それに一人でやるより二人でやる方が早いじゃないですか」
「ありがとうね。じゃあ、ちゃっちゃとやって帰ろうか」
「はい! あ、でも今日中に花壇に土入れないといけませんよね。取ってきますよ」
「あ、そうだね忘れてたよー」
星羅が振り返ると、その様子を見ていた唯、寧々、静を見て絶句してしまった。
「いやー、まさか星羅が部活に入ってたなんてねー」
「ええ。あたしにも内緒で、こんな楽しそうにやっているなんて意外です」
「お似合いですよ星羅」
気恥ずかしそうな顔をして星羅は被っていた麦わら帽子で顔を隠してしまった。
「(別に隠してたわけじゃないんだけど……)」
それは、聞こえるか聞こえないかの声量だった。
そんな様子を部長である蘭子も、後ろで同じく顔を朱らめて見ていた。
「おー、そんな集まってどうしたー?」
そんな中で一人空気を読まずにきたのは、顧問の神崎修司。3組の担任で園芸部の顧問だった。
彼は、重そうに抱えてきた土の入った袋をどかっと置くと、集団に声をかけたのだ。
「修司、ご苦労様ー」
「お前なぁ、先生をつけろって言ってるだろ?」
「いいじゃない。別に。まんざらでもないんでしょ?」
「星羅?」
神崎先生を下の名前で呼び捨てすることに驚いた寧々。
「おう、優等生じゃないか。お前達も園芸部に興味があるのか?」
腰をトントンと叩きながら、声をかける。
「いえ。ただ、星羅が何をやっているのか気になりまして」
「そうそう」
「なんだ。星羅言ってないのか?」
「……そうね。言ってなかったかも」
軽く目線を逸らした星羅。
「いいじゃないか言っても」
「言うタイミングが無かったのよ」
「そうか」
「そうよ。それよりも、ほら! まだ持ってくるのあるでしょ?」
星羅が背中をバンバン叩きながら言う。
それは生徒と先生の関係には見えなかった。
どちらかと言うと、同じ教師同士の会話に見えた。
「人使いが荒いなぁ……」
星羅と神崎先生が、いつも通りといった感じで話していた。
「星羅は男の人を手玉に取るのが上手いんですね」
寧々が目を少しだけ細めて言った。
「そ、そんなんじゃないわよ」
「聞いてくれるか? こいつ酷いんだぞ? 俺のことパシリにしてさー。それに、ヒゲ剃れだの、眉毛整えろだの。ちゃんとシャツにアイロンかけてこいだの。お母さんかよって……」
「ちょ、そこまで言ってないし、やらせてないでしょ」
星羅が腕組みして不満そうに言う。
「でも、そうすれば玲子ちゃん先生とお付き合いできるわよ?」
「マジで?」
そこで神崎先生が前のめりになる。
続けて三人もその話題に乗った。
「確かに篠宮先生は清潔な方の方が好みだと聞いた気が……」
寧々は、普段の篠宮先生と話した時の会話を元に話した。
「え?」
「玲子ちゃん先生、結構ズボラなところあるからちゃんと言えばイケるんじゃない?」
唯は隠れてカップラーメンを食べている篠宮先生をよく目撃している。しかも嬉しそうな顔で食べている姿を。
恐らくイメージを壊したくないのか、それとも……。
「どっちなんだよ……」
「当たって砕けろってことです」
「いや、砕けちゃダメだろ」
静がとどめを刺した。
「お前らは容赦がないな」
「これでも抑えてる方なんですが……」
「これでもって……」
「ねぇ、修司ー、これだけだと足んないんだけど?」
花壇に土を入れた星羅が、振り返り言った。
「でもなー、俺も腰が痛くてな。今日はこれだけじゃダメか?」
星羅が、進まないことに少しだけ苛立ちを覚えた。
「……もう。分かったわよ。わたしが持ってくるわ」
ムキになった星羅は一人奥の方へと歩いて行ってしまった。
それはきっと恥ずかしさからきているのだろう。
先生への当たりが強いのもきっとその影響かもしれない。
「あ、星羅ちゃん。あだすもいくよー」
少し鈍った口調で蘭子も後をついて行った。
その場に残された唯と寧々と静と神崎先生。
「いつもああなのですか?」
「いや、いつもはもう少し……いや、あんま変わらんな」
「そうですか」
それを聞いて嬉しそうな顔をする静。
「いつから星羅は園芸部に?」
「ゴールデンウィーク前くらいかな? 四月の下旬頃かな」
「うちで庭を作ったあとくらいですね」
顎に手をやり考える寧々。
「多分そこでハマったんだろうね。ほら、さっきの蘭子さん? だっけ、うちらで行った園芸店で手伝いしてた子だよね」
唯が気づいたことを言えば、二人も反応した。
「ああ、言われてみればそうですね」
「光司さんしか見てませんでした」
「ははは。まぁ、喜築……。どっちもだな。星羅が園芸部に入るとは俺も思わなかったよ」
三人の反応に神崎先生が笑って答えた。
「今何人で活動してるんですか?」
「あの二人だけだよ」
「え!?」
「大変じゃないの?」
「まぁ、でも楽しそうにやってるよ。おかげで俺も駆り出されてるがな」
「そうですか」
三人が、星羅の活動っぷりを聞いていたら、奥から二人が戻ってきた。
二人とも25リットルの土の袋を三つ抱えて。
「俺より力あるんだもんなぁ。俺いらなくね?」
「そんなことないわよ。……ほら、今日中にやらないといけないのあるんだから……寧々達も手伝ってくれるの?」
「あー、制服なので……」
「そうよね。まぁ大丈夫よ」
「だなあ」
そうして、星羅と蘭子が二人でほぼほぼ作業を終わらせていった。
楽しそうに活動する星羅を三人はにこやかに眺めていた。




