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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第三章

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10 五分だけの理事会


 静が向かった先は、学園の管理棟にある大会議室だった。

 扉に近づくにつれ、二人ずつ壁に背を向けて待機し始めた。

 それは誰もここを通さないという圧を感じるかのように。


 颯爽と歩き、装飾の施されたドアを躊躇いなく押して入っていった。

 後ろを小走りで付き人が付いていった。


 「人見様、朝の忙しい時間に申し訳ございません」

 理事長の秘書である女性、瑞亀睦が恭しく頭を下げた。

 きっちりと整えられたお団子ヘアと切れ長の目が印象的だ。

 メガネが、窓から差し込む光に照られて眩しく反射していた。

 首元まで覆う黒のタートルネックワンピースを着ているせいか、秘書よりメイド長と言った方が適当な見た目をしていた。


 「構いませんよ。わたくしもこの学園の理事の一人ですからね」

 実は、静を含め唯、寧々、星羅の四人は入学後、この学園の理事となっており、運営費として多額の寄付をしていた。

 そのため、現在英愛学園では補助金は殆ど受け取っていない状況である。

 いや、寧ろ向こう何十年と学費や諸経費を貰わなくてもやっていけるくらいの金額をいただいており、学園側としては頭が上がらない状況だった。


 もっとも、運営に関することは全部静に丸投げの状態であり、お金は出すけど口は出さないようだ。

 そもそもが、学生生活を謳歌したいため、関わる気は無いようだ。


 ただ、寄付をしたのは、余っていたに他ならないのだが。

 そんな中で、ちゃんと一人運営に携わっているのが静だ。

 静は庭を歩くような感覚で、学園の経営の問題点を指摘し、改善していた。


 その過程で、何人かの理事と監事一人が学園を去ることになった。

 それは、表にできない不正行為を行なっていたからだった。

 そんな静に全幅の信頼を寄せているのが、理事長であり、秘書であり、教師であり、職員なのであった。


 静が入った大会議室は、テレビのドラマで使われるような豪華な造りをしており、天井から吊り下がるセンスのいいシャンデリアと真紅のカーペットとカーテンがそれを際立たせていた。

 黒檀で作られた大きな楕円形のテーブルがあり、奥には理事長である原結那と秘書の瑞亀睦がいた。


 理事長の原は、妙齢の女性で、静をもってしても捉え所のない感じがした。

 シンプルな白のインナーとアイボリーのジャケットを着ていた。


 静は引かれた椅子に座ると、横に立った職員の一人がタブレットを見えるように掲げる。


 それを見て、瑞亀は理事長の横に立ち、同じようにタブレットを見えるように差し出した。

 タブレットの画面を見て、理事長の原が申し訳なさそうに口を開いた。


 「ごめんなさいね。急な要件で貴女の力を借りたかったの」

 「これが、その案件ですか……ふむ。これは難儀な」

 そこに映し出されていたのは、とある官僚の天下りの依頼だった。


 「この前、やっとのことで追い出したんですけどね。どうやら席が空いたことで目をつけられたのね」

 「確かに、前にいたのは酷かったですね」

 淡々と返す静。


 「しかし、この男は前よりひどいですね。………………………ふむ」

 顎に手をやり、軽く目を閉じる。


 「どうかしら?」

 目を開いて、端的に結果を述べた。

 「賄賂が数件。東南アジアへの渡航歴もかなりありますね」

 どうやって調べたのかは分からないが、詳細に問題点を上げていった。

 その内容は、確実に学園側にダメージを与えるものだった。


 「あら、そんなに?」

 「まぁ、こんな小物を入れる必要はありません。大丈夫です。わたくしの方でなんとかしておきましょう」

 静はうっすらと微笑んだ。


 「助かるわ。なんとお礼を言ったら……」

 「でしたら、飼育部の為に動物さんをたくさん……」

 「うちでは難しいわね」

 「………………そうですか」

 淡々と話していた静が、しゅんとした表情をした。

 動物を都内の学園で飼育するのは難しいのだ。


 いくらこの学園のセキュリティが高いとはいえ、昨今の不審者侵入は必ずしも防げるものではない。

 また、疑いたくはないが、内部で行うものが出てこないとも限らないのだ。

 以前あった乗馬部がなくなっているのはそれが理由である。

 ちなみに、その馬達は理事長の家で飼育しているそうだ。


 「もしよければ、今度うちのお馬さん達に会いにきて──」

「行きます!!」

 「──もらえるなら……」

 理事長の話を遮る形で、食い気味に了承する静。

 暫く静寂が会議室を支配した。


 静は目を輝かせて続きを待った。

 「そ、そう。いつでも来ていいからね」

 「では、今度の試験が終わった後、お伺いいたします」

 「分かったわ。準備しておくわね」

 「今から予定表に入れておきます」

 瑞亀が、震える指でタブレットを操作していた。

 口元は緩んだままだった。

 それを見て満足そうにした静は、初めて椅子の背もたれに背中を預けた。

 

 約束の五分に達した為、静はそっと立ち上がった。

 「では、わたくしは授業がありますので」

 あまりにも急な切り替わりに、一瞬返答が遅れた。


 「ありがとうね」

 「お気になさらず」

 静が大会議室を出ると、外で控えていた職員が列をなして、一斉に頭を下げたのだった。


 そして、扉が閉じられると、室内には三人の人物が残った。

 理事長と秘書。そして1組の担任である。

 「どう?」

 「とてもいい子達ですよ。不器用ですが、ちゃんと成長している。まぁ、変なところだけ突出してますが」

 担任の教師は窓に近づき、登校してきた生徒達を慈しむように眺めていた。


 「まぁ、理事になるのは、私も予想外でしたが」

 「私もびっくりしたわ。向こう何十年と補助金も学費もなしでやっていけるもの」

 「……私も出した方がいいですかね?」

 「ふふ……今更大丈夫よ」

 「そうですか」

 理事長が軽く頷くと、担任の教師は姿を消していた。


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