09 気づけばみんなに愛されていた
柚と話しながら歩く。
「でもあれ実話でしょー?」
「そうなんですよねー。あたしがやったらイメージ壊しそうですしー……」
「そんなことないと思うけどなー」
そんな話をしながら教室へと入る。
「おはようございます」「おはよー」
「おはよー、おかーさん」「おかーさんおはよう」「きゃー、寧々さんこっち見てー」
「なんかアイドルみたいだね……」
「しのびないですねぇ……」
唯と星羅は先に来ていて、軽く手を上げて応じた。二人とも話に花を咲かせているようだ。
「これは……」
「はは……。これは、また……。人気だねぇ」
寧々の机の上には入部届けの紙が置かれていた。
吹奏楽部、製菓部、衣装部、コスプレ研究会、手芸部、科学部、弓道部、花道部、茶道部、書道部、文芸部と主に文芸部の半数以上が置かれていた。
調理部があれば、すぐに入っていたかもしれないが、あいにくとこの学園にはないようだ。
製菓部なら入ってもいいと考えていたが、やはり家事を考えると検討の域を超えられない。
他のみんなもやるにはやるのだが、どうしても自分がやりたいのだ。
寧々はそれを束ねて、軽くトントンさせながら整えてクリアファイルにしまった。
「そういうところだと思うな」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
柚の黒いポニーテールがゆっくり左右に揺れた。
「おはよう寧々〜」
もう一人の友人、織部燈がニマニマしながらやってきた。
少しギャルっぽさもあるが、少し間延びした語尾から人懐っこさと柔らかさがある。
制服の上に大きなパーカーを着ていて、缶バッジを沢山付けていた。
手はポケットに入れており、ゆるいウェーブのかかった栗色のショートボブの髪が揺れていた。
「おはようございます、燈」
「今日も見てたよー」
「ふぇ!? ど、どこからです?」
「囲まれて〜、飛んで逃げて〜、頭に葉っぱ乗っけたまま入ったとこ〜」
「ぜ、全部じゃないですかー……」
「だって、忍者みたいで凄いんだもん。あれ見る為に待機してる子いっぱいいるよー」
「はわわわわ」
てっきり全部隠しおおせてると思い込んでいた寧々は、ここからどうやってその噂を払拭させようかと考えていた。
「で、それなに?」
「え? あ、ああ部活の入部届ですね」
「ついにどこ入るか決めたの?」
「いやー……」
「忍者部とかあればよかったのにね」
これはもう、払拭できないなと諦めた寧々。
「「にんにん」」
二人して忍者のポーズを取る。
「もー、やめてくださいよー」
寧々は胸の前で両こぶしを握って抗議した。
燈が寧々の机に両手を置いて、話題を切り替えた。
「ところで〜、今日のお弁当も旦那さんの手作りでしょ?」
「もう……旦那さんだなんてぇ」
「否定しないんだもんねー」
「ね。お熱いことで」
二人は寧々の様子をニンマリした顔で眺めていた。
「な、なんですか?」
「だって、ねぇ」
「うん」
「ふぇ?」
何を言われるのか予想していなかった寧々。
燈と柚が寧々の前にぐいっと近づいて言った。
「例のスピーチで言ってた相手でしょ?」
「あれ、うまく隠してたわよねぇ」
「そ、そんなぁ……」
満更でもない様子の寧々。
両頬に手を当てて、顔を朱くする。
「そんな彼お手製のお弁当」
「ね。いつも綺麗で栄養のバランスもいいし、ちゃんと考えられてるもんね。愛されてるなーって」
「えへへ」
「ほんと、彼のことになるとすぐ惚気るんだから」
光司と自分のことを言われて嬉しさのあまり、ついつい肯定してしまう。
でも、ふと思い出したのか、燈が疑問をぶつけた。
「でも、それ、みんなの分作ってるのよね?」
「えっ! ええ、そうですね」
続けて柚がずっと思っていた疑問を尋ねた。
「唯ちゃんに、星羅、寧々、静さんと四人分。ねぇ本当に四人とも一緒に住んでるの?」
「はい。みんな仲良しですよ」
「そうなんだ。唯っちと静っちとは親戚同士だって聞いたけど」
「そうですね。遠からず近からずって感じですね」
「そうなんだー。ふーん」「へぇ〜」
二人は意味ありげに顔を見合わせた。
「ほ、本当ですよ?」
「別に疑ってないわよ。実際仲良いしね」
「でも、帰国子女って頭いいし、運動神経もいいんだね。わたしびっくりだよ」
「あ、それあーしも思った」
「ぜ、全員がそうとは……」
「首席が四人の時点で信憑性ないわよ、それ」
「そうそう。でも、五人目の人は495点だったんでしょ?」
「でも、その人、学校来てないらしいね」
「へぇ、そうなんですね」
他の人の点数には興味が無かったのか、初めて聞く情報だった。
「まぁ、それは置いといて、ゴールデンウィークってどうだったの? どこか行った?」
「あ、いえ……、家でゆっくりしてましたよ。みんなと……光司さんと」
「そうなんだー。ふーん……」
「はい。作った畑の手入れや花壇なんかを見て過ごしてました」
寧々はゴールデンウィークにあった出来事をいくつか話した。
「羨ましいわ。今度家行ってもいい?」
「え? ええ。まぁ、はい……」
「絶対よ絶対」
「楽しみだわー。その光司さんって人にもね会ってみたいわ」
「はわわ」
「全くもう。真っ赤な顔しちゃって、もう」
「言動と行動が一致してないのよね」
嬉しさを隠そうともしない寧々を、二人は微笑ましく眺めていた。




