第十八話
自分の気持ちを落ち着け、執務室に戻る。扉をノックしようとすると、扉が勝手に開いた。お?
「ん?あぁ、シズカ殿。すまない」
「こちらこそ申し訳ありません。レビ隊長」
敬礼をし、脇によける。レビ隊長は、私にもう一度謝罪すると帰っていった。…やっぱカッコイー!女性なのに、出してるオーラから何から、男でも圧倒されそう。カッコよすぎる!レビ隊長は私の目標。だって、あんな女の人いないもん!ホクホクしながら執務室に入る。
「お前、レビと俺たちの対応が違いすぎるんだが」
「当たり前じゃないですか。レビ隊長は、私の目標ですよ。というか、珍しいですね」
ジト目で言ったウィルさんにそう言った。特攻隊と情報隊には接点が少ない。緊急事態でもない限り、レビ隊長自らがここにくる事はまずない。自然と、体に力が入る。何か問題が起こった場合、一番初めに特攻隊が動かねばならない。
「あぁ、最近貴族に不審な動きをしている奴がいると報告が前にきてな。その再報告と、そいつの処分について、話し合ってた」
「それじゃあ、緊急事態ではないんですね?」
「あぁ。その貴族がちょっと厄介な奴なだけだ。そこまで気を張る必要はない」
その言葉にホッとした。なーんだ。良かった。その言葉を聞き安心した私は、残りの書類をサッと片付け、ウィルさんの手伝いを少しして、ちょうどいい時間になったのでご飯を食べに行く。ウィルさんはもう少ししてから行くそうだ。いつもの定食を頼み、空いている席に座る。
「いただきます」
小さく声に出して言い、黙々と食べ始めた。書類が終わったからと言って、暇になったわけではない。訓練に必要な刃を潰した剣や、新しく鎧を作り直す費用など、する事など様々。副隊長は何気に忙しい。やれやれ。
「あ、シズカちゃん。久しぶりだね」
その言葉に振り向くと、定食を持ったシャラさんがそこにいた。シャラさんに軽く頭を下げる。
「お久しぶりです、シャラさん」
「一緒に食べてもいい?」
「はい」
シャラさんがそう言ったので、どうぞと一人で使っていたテーブルのスペースを少し空けた。シャラさんは私の正面に座ると、ニコニコとしていった。
「学校はどう?」
「皆さん聞きますねぇ。まだ、二日目なのでわからないですよ」
「そっか。ゴメンゴメン。ところで、もう学生の調査報告書貰った?」
シャラさんの言葉に首を横に振る。
「あのね、多分これは報告書に書いてると思うんだけど…生徒の中に、君をよく思わないものが数名と、明らかに魔族に害を加えるために入学してる奴が数名いるんだ」
「…詳しい人数、わかりますか?」
「前者は、五名程度。後者はわからないかな」
その言葉に思わず溜息をついてしまった。分かっていたことだ。この学校ができることで、その中に絶対魔族に危害を加えようとする者が現れると。だけど、いざその場面になってみると面倒。前者はまぁ、何とかするとして、問題は後者。いつそうなるかわからないのと同時に、どれだけの被害になるかもわからない。取り敢えず、教師たちに注意しておくように言うのと、春翔に伝えておこう。
「ありがとうございます」
「うん。何かあったら頼ってね。僕も、できる限り動くから」
「はい。ぜひ頼らせてもらいます」
笑ってそう言うと、シャラさんは頼もしく任せてよと言った。じゃあお言葉に甘えて少し頼らせてもらおっと。
「初日は魔族も人間も緊張していましたが、今日はその緊張が少しばかり和らいでいたと思います。しかし、一方で魔族に危害を加えようとしている貴族がいるんですよね。もし、魔族に危害を加えた貴族のせいで、その魔族が人間を恐るようになった場合どうすればいいんでしょうか」
私の恐ることは唯一つ。直すこともできないほどに、魔族と人間の関係が悪化してしまう事。それは、どちらかがどちらかに危害を加えるというもので。心の底から起こる恐怖心は、どう頑張っても残ってしまう。普通に友達と話していても、怖い思いをするかもしれない。そうすれば、どうすることもできないのではないだろうか。そんな事を考えている私に、微笑んでシャラさんは言った。
「簡単だよ。その魔族を死ぬ気で守ってあげればいいんだ。そうすれば、その魔族は自分に危害を加える者もいれば、自分を死ぬ気で守ってくれると認識する。後は、いかに心の壁を壊せるかだけどね」
「その心の壁を壊すのはどうすればいいんでしょうか」
「それは、人にもよるからこれといって解決方法はないよ。勘」
…その勘が分からないんですよぉ!そうですか、といい、再び夕食を食べ始めた。シャラさんより先に食べ終わったのでシャラさんに別れを告げ、席を立った。部屋に戻るついでに、団長の部屋に寄る。
「失礼します。シズカ・アプロスです」
「入れ」
その言葉を聞き、扉を開ける。費用など、お金に関する事は団長に言わないといけない。
「特攻隊隊員の鎧の新調、その費用の予想金額についてですが」
「また、か?お前達、この前もじゃなかったか?」
「アレは結局、団長が許可してくれなかったじゃないですか」
「お前らの申し出をいちいち許可してたら、騎士団が潰れる」
その言葉に苦笑する。
そりゃそうだ。私達が申し出を出したのはつい二週間前。それを却下され今ここにいる。うちの隊員達は、馬鹿みたいに筋肉をつけていく。ので、すぐに鎧のサイズがあわなくなったりする。それも凄いペースでだ。もうね、やめろと言っても聞かないの。あの人達、それが楽しみでもあるからね。
「隊員達には、これ以上無駄に筋肉をつけるようなら練習量を減らすと伝えますし、大丈夫だと思います」
「その方法で本当に大丈夫なのはお前達、特攻隊くらいだぞ。他の隊なら喜んで筋肉をつけるだろう」
「その前に、練習量を減らすまで筋肉をつけませんよ。他の隊ならば」
苦笑したままそういうと、それもそうだと団長は頷く。ようやく許可を貰い、書類などにサインをして団長の部屋を出ようとすると呼び止められた。
「あまり無理するなよ。お前が倒れて困るのは、お前だけじゃなんだから」
「…何だか団長、兄さんみたいです」
私がそう言うと、団長は不思議そうに首を傾げた。
「彼方殿?圭太殿ではなくて?」
「まぁ普通は圭兄だと思いますよね。圭兄はあぁ見えて、割と適当なんですよ。昔、私が無茶をして倒れた事がありまして。その時、圭兄は怒らなくてまぁ仕方ないねくらいだったんです。一番怒ってたのは兄さんですね」
「意外、だな。見た感じて言えば、彼方殿の方が適当に見える。人は見かけによらないな」
団長はそう言って笑った。
うん。私も、そう思う。実際、兄達を見てきたほとんどの人が、圭兄と兄さんの中身が逆なら納得すると言ってたし。無理はしないようにと再び言われ、それに頷き団長の部屋を出た。取り敢えず終わったので寮に帰るとするかー。と、その時、誰かに呼ばれ振り向いた。
「副隊長!街で喧嘩があったらしくて」
そう言ってきたのは特攻隊の一人で、私を見つけ走ってきた。
「四、五人で向かってください。ただの喧嘩ですよね?」
「はい。酔っ払い同士の喧嘩らしいです」
「それで十分でしょう。他のものには一応待機と言っておいてください」
はい!と良い返事をして猛ダッシュで去る。早…。私は溜息をついて執務室に向かう。もうじき寮に帰らないといけないので、制服に着替える。どこでって、トイレで。…いや、本当にトイレで。さっと着替えれば、大丈夫だし。髪と瞳の色を変え、トイレから出て転送魔法をかける。学校の外に降りた私は、寮へと帰るため、学校の門をくぐった。




