第6話
かくして眞美は、彩芽と再び「友達」になるために、今日彩芽にあの頃のことを謝ろうと決めていた。
しかし、眞美はなかなか行動に移せずにいた。
今がチャンスだ。
いや、もう少し場が温まってからにしよう。
でも、そんなことしてたらまたタイミングを逃してしまう。
じゃあ、今言うしかないか。
ううん、やっぱりもう少し様子を見てからにしよう。
まだ席に座ったばかりだし。
ぐるぐると考えを巡らす眞美の様子に何かを感じたのか、彩芽がいぶかしげに顔を覗いてくる。
「どうしたの? もしかして飲み物に何か入ってた?」
「い、いや! このアイスコーヒー、高いだけあって本当においしいなと思って」
「だよね! やっぱ、高いだけあるよね。こんな高級なアイスカフェラテ、今まで飲んだことないもん。さすがは東京駅!」
彩芽が満足げな表情を浮かべながら、再び目の前のグラスに手を伸ばす。
眞美も苦笑いを浮かべながら、ストローに口をつける。
口内に広がる苦いだけの液体が、眞美の心をコーヒー色に染めていく。
たぶん今日はダメだ。
このまま何事もなく一日が終わるだろう。
眞美は弱い。
自分自身のことだからよく分かっている。
だからこそ眞美は彩芽を見捨てた。
それは今も変わらない。
あの頃から何も成長できていない。
結局自分がやろうとしていることは、逃げて逃げて逃げ惑った挙げ句、疲れてもう歩けないからから許しを請おうとしていることに変わりないのではないか。
追われている理由には目もくれず、目の前の苦しみだけを取り除こうと躍起になっている。
根本的な理由を解決しない限りは状況は良くならないのに、それを選ぼうとしない。
なぜなら、それを選べば自分がより苦しくなるから。
自分が犯した罪なのに償うのが怖いなんて、なんと滑稽な状況だろう。
苦しみたくない。
謝るべきは自分だけじゃない。
彩芽も眞美がグループからハブられたとき、見て見ぬふりをしたじゃないか。
どうして自分だけこんな気持ちにならないといけない。
眞美はおもむろに汗をかいたグラスに手を伸ばす。
やはり、自ら今の「平和」を壊すようなまねをする必要はないのではないか。
自分が彩芽に罪の告白をすることで、少なからず今の眞美と彩芽の関係は確実に変わるだろう。
今まであやふやだった関係に「被害者と加害者」という明確な名前が付くことを、彩芽は望んでいるのだろうか。
「眞美」
ふいに向けられた笑顔に、眞美の思考が中断する。
「今日はありがとう」
彩芽は気恥ずかしげに視線をさまよわせながら、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「私、小学校・中学校の同級生で今も連絡取ってるのは眞美くらいしかいなくて……あの頃はいろいろとあったけど、ある意味では幼馴染みと、こうやってお茶しながらおしゃべりできるの、すごく嬉しいんだ」
やっぱり、やめよう。
今の「平和」を壊すようなまねはできない。
これは「逃げ」ではない。
『優しい嘘』というものが存在するように、『償わない罪』というものがあってもいいのでは
ないか。
お互いが「平和」であれるなら、どんな罪も許される。
この世は所詮、蜂蜜まみれのパンケーキのようなものだ。
甘ければ甘いほど幸せになれる。
それがたとえひどく焦げていたとしても。
蜂蜜をどっぷりかけてしまえばいい。
そうすればみんな気付かない。




