第4話
彩芽を標的にしていた人間たちが属するグループは俗に言うスクールカースト上位に位置していた。眞美たちは陰キャでもないが陽キャでもないという中間の立ち位置にいたが、スクールカースト上位の人間たちに異を唱えるものなら、一瞬先は闇だ。それほど、当時の眞美たちにとって、目に見えない序列は重要だった。
まとめると、平和な中学校生活が送れる条件として当時眞美が出した答えは二つ。
「逆らわないこと」と「グループで生き残り続けること」だ。
一見簡単なことのように思えるが、この二つを実現するのは意外と大変だった。
どちらも自分の感情を殺す必要があるからだ。
嫌なことを言われても笑って受け流す。
喧嘩を売られてもこちらからすぐに謝ってなかったことにする。
まるで大人の世界だ。
眞美たちはまだたったの十代前半で、大人の生き方を強いられた。
年を経るにつれ、知識も増え体も成長し、両親や周りからも信頼され、ついには自由も増えると世間では言われているようだが、少なくとも、眞美たちが生きた当時の環境にはそんな自由は露ほども存在しなかった。
一方には自由に振る舞える権利が与えられ、もう一方には不自由に生きる義務が与えられる。
なんて不平等な世界だろう。
眞美も彩芽もある意味では被害者だ。
それどころか、あの頃のあの学年においては、たった一部の人間以外、みんながみんな被害者だった。
ただ、同じ被害者だからといって、全員が庇護されるべき存在だったかというと、必ずしもそうではない。
残念なことに、被害者というくくりの中でも序列は存在していたのだ。
そして、その仕組みを利用した一人が眞美だった。
中学三年生になった頃、眞美がもともとつるんでいた女子グループ内で、ある日突然「仲間はずれ」が起きた。
それまで仲が良かった一人に対して、無視したりにらみつけたりといった女子特有の嫌がらせが始まったのだ。
理由は分からない。
ただ情けないことに、眞美も攻撃する側に回ったことは間違いない。
最終的には先生に介入してもらい、その子と和解する運びとなったが、しかし、今度は眞美が「仲間はずれ」の対象として選ばれた。
朝、いつものように起きて身支度をして学校へ行ったら、自分以外のグループの子たちが、眞美の方を見ながらなにやらこそこそと話していた。時折、こちらを嘲るような小さな笑い声が漏れ聞こえてきたのを理解した瞬間、「ああ、今度は自分の番か」と察した。
昨日まで一緒に笑い合っていたはずの人間たちから無視されたりハブられたりするのは正直辛かった。体育やクラス移動を必要とする授業など、これまで誰かと一緒に行動していたのに、急にぼっちで学校生活を送ることになった事実に絶望した。
一人とはこんなにも孤独で寂しくて心細いことなんだと、その時初めて理解した。
そして一方で、自分が今の状況を辛いと感じるのは間違っているとも感じた。
なぜなら、今起きていることはすべて自分が過去に犯してきたことなのだ。
因果応報。
眞美は自分を守るために、誰かを傷つけた。
その報いを今受けているんだと、当時は必死に言い聞かせた。
もう三年生で卒業まで幾ばくもない。
このまま一人で過ごしても良いと思っていた。
小学五年生の頃から続く、この閉ざされた複雑な人間関係からは、もう縁を切りたかった。
しばらくして、眞美が過去所属していたグループはさらに細分化されていた。
どうせまた同じように「仲間はずれ」が発生したんだろう。グループ内でそんなことを繰り返して分裂して、結局自分たちは何がしたかったのだろうか。
答えは簡単。
みんなそれぞれ自分を守りたかったのだ。
誰かを攻撃し優位に立つことで、自分の立場を守る。
相手がどうなろうと、とにかく自分が大事。
誰から見ても呆れて物も言えないようなとんだ茶番だ。
でも、眞美たちにとっては、あの世界で生き残るために必要なことだった。
そのくらい自分たちは必死だった。
そして、グループを抜け一人になったとしても、その思いが眞美からなくなることはなかった。




